クリスタ・ルートヴィッヒ
Christa Ludwig

1928~2021。ベルリン生まれ。歌手の母親から声楽を習い、フランクフルトの音楽学校に学ぶ。1946年、フランクフルト劇場で『こうもり』のオルロフスキー公爵を歌ってデビュー。52年ダムルシュタット、54年ハノーファーと次第に活躍の場を広げ、55年にはウィーン国立歌劇場の常連となった。以後、バイロイト、ザルツブルクにも出演し、重要な役を歌うようになる。

あまりにも有名なメゾソプラノだが、個人的には評するに困る歌手である。声域が広く、高音から低音までムラなく出せる。リリックからドラマチック、アルトからソプラノまで、じつに様々な役を器用にこなせるので、かなり重宝されたようである。ただ、声の質が暗くて地味であり、数ある名歌手の中にあっては美声とは言い難い。素人に強くアピールするようなところがなく、個人的にはあんまり印象に残っていない。過去の名声と人気からすればとっくの昔に取り上げるべき歌手であるが、どう書いていいかわからず、伸ばし伸ばしにしていたが、いくらなんでも全く触れないわけにはいかない。


(1)R.シュトラウス『ばらの騎士』 カラヤン指揮 ニューフィルハーモニア管弦楽団 EMI 1956
クリスタ・ルートヴィッヒ(オクタヴィアン)、エリザベート・シュワルツコップ(マルシャリン)、オットー・エーデルマン(オックス男爵)、テレサ・シュテッヒ=ランダル(ゾフィー)
ルートヴィッヒはメゾソプラノなので主役を歌うことがほとんどなく、したがって数のわりにはこれぞ代表作と言えるものを挙げるの難しいのだが、ルートヴィッヒの出演したオペラCDと言えば、まず大抵の人が一番にこれを挙げるのではないだろうか。長い間このオペラの決定盤とされていたが、1984年に同じカラヤン指揮のグラモフォン盤が出てこれがライバル盤となった。事実上、これとの一騎打ちになる。グラモフォン盤はマルシャリンがアンナ・トモワ=シントウ、オクタヴィアンがアグネス・バルツァである。こちらの方は録音が新しくオケがウィーンフィルであることもあって、非常に美しく耽美的に仕上がっている。ただ、歌手はルートヴィッヒとシュワルツコップの組み合わせの方が貴族的で優雅な雰囲気を醸し出しているように思える。非常に迷うが、このオペラの性格を考えれば音質では譲れないので、音質の良さを重視してグラモフォン盤を選ぶのが普通かもしれない。。

(2)ワーグナー『パルジファル』 ショルティ指揮 ウィーンフィル デッカ 1972 
クリスタ・ルートヴィッヒ(クンドリ)、ルネ・コロ(パルジファル)、フィッシャー=ディースカウ(アンフォルタス)、ゴットロープ・フリック(グルネマンツ)、ゾルタン・ケレメン(グリングゾル)
ショルティはクンドリにルートヴィッヒを起用したが、これは当たりだと思う。クンドリは非常に難しい役だと思うが、やっぱりルートヴィッヒはこういうのは上手い。

(3)ワーグナー『ワルキューレ』 ショルティ指揮 ウィーンフィル デッカ 1965
クリスタ・ルートヴィッヒ(フリッカ)、ジェームズ・キング(ジークムント)、レジーヌ・クレスパン(ジークリンデ)、ハンス・ホッター(ヴォータン)、ゴットロープ・フリック(フンディング)、ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ)
ここではフリッカ役だが、ハンス・ホッター演ずるダメおやじ風のヴォータンをさんざんにやっつけている。ややヒステリックになりすぎる感はあるが、配役としてはまあ成功しているのかもしれない。

(4)ワーグナー『ローエングリン』 ケンペ指揮 ウィーンフィル EMI 1964
クリスタ・ルートヴィッヒ(オルトルート)、ジェス・トーマス(ローエングリン)、エリザベート・グリュンマー(エルザ)、フィッシャー=ディースカウ(フリードリヒ)
ルートヴィッヒに悪役が合っているとは思わないが、ルートヴィッヒのやや暗く曇った声がオルトルートに適しているといえば言えるかもしれない。

(5)ワーグナー『タンホイザー』 ショルティ指揮 ウィーンフィル デッカ 1970
クリスタ・ルートヴィッヒ(ヴィーナス)、ルネ・コロ(タンホイザー)、ヘルガ・デルネシュ(エリザベート)、ビクター・ブラウン(ウォルフラム)、ハンス・ゾーティン(領主ヘルマン) 
ショルティはルートヴィッヒがお気に入りだが、はっきり言って、なんでヴィーナスがルートヴィッヒでなくてはならないのかわからない。ヴィーナスであるからにはある程度色っぽさが欲しいが、ルートヴィッヒにそういうものはない。グレース・バンブリーやニルソンのヴィーナスに劣ると思う。

 

 

 

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