コルビジェが世界遺産になり、丹下も世界遺産になろうとしている。モダニズム建築に囲まれて暮らす僕たちが、モダニズム建築をそういう目で評価できるようになったとういうのは変な感じだが、モダニズム建築のなかに良し悪しを見出したり、始点を見出すだけの時間が経ったということだろう。もっとも建築に興味のない多くの人々には、それらが自分の住んでいる団地のマンションと特別に違ったものに見えないかもしれないが。
ジョニーロットンは1978年、ロックは死んだ、といった。ロックが大衆音楽じゃなくなったからそう言われたとか、ロックが死んでパンクが生まれたんだだとかいろいろ言われているし、ロックは死んでねえ、みたいなことまで言われている。僕はロックは70年代が終わると同時にほとんど死んだと思う。50年代にロックが大衆化してから、70年代が終わるまで毎年のようにロックは進化し続けた。特にビートルズはロックの象徴だろう。63年のイギリス人はビートルズと言われればツイストアンドシャウトやプリーズプリーズミーを思い浮かべただろう。それがたった3年後にはリボルバーにサージェントペパー、そして少しすればマジカルミステリーツアー。サイケデリックバンドだ。たとえば今から3年後に聞いたこともない音楽が出てくることを想像できるだろうか?
たしかに想像はできないことはないだろう。別に今だって新しい音楽は生まれている。レディオヘッドがまたやってくれるかもしれないし、ちょっとしたムーブメントを起こすようなインディーロックバンドが出てくるかもしれない。でもその音楽が世界中のチャートで1位をとって、世界中の楽器屋で試奏されて、世界中の高校の放課後に演奏されることは僕には想像できないし、じっさいこの3年でそんなことはなかった。
50年代から70年代にかけては本当にロックはフロンティアだった。エレキギターと言われてみんなが想像する音は毎年増えていったし、どれがいい音かなんていいと思ったらいいんじゃない?という時代だった。ロックと言われて想像する曲は毎年かわっていったし、どの曲がいい曲かなんていい曲と思ったらいいんじゃないという時代だった。そしてそんなロックというジャンルは大衆音楽のど真ん中にいた。芸術としてのロックと商業としてのロックはとても自然に共存していた。
これこそが、生きたロック、だったのではないだろうか。
ロックが生きた音楽だった理由は奇跡的なものだった。それまで差別によって混ざり合うことのなかった白人音楽のカントリーと黒人音楽のブルースがラジオ番組というみんなが聞けるメディアによって混ざり合い化学反応が起きたのだ。それはたまたま音楽が国際化し始めた時代で、ロックはアメリカからイギリスへと渡った。流行の中心地のイギリスからロックは世界に羽ばたいた。戦後発明されたエレキギターやPAシステムは一度のライブで何万人もの人に音楽を聴かせるようにできたし、電子技術の発展は様々なレコーディング方法を可能にしていった。これら全部がロックだった。
時は過ぎて、だんだん「ロック」というイメージが固まってきてしまった。化学反応に平衡が訪れた。まさに78年ぐらいなんじゃないかと思う。ジョニーロットンは本当に冷静に音楽シーンを見ていたんだと思う。もちろんロックはその後もしばらく大衆音楽の中心だった。しかしそこに芸術としてのロックはなかった。同時に、芸術としてのロックは大衆音楽の中心ではなかった。まさにそれがロックが死んだということだ。
なにかが生きているときには特徴があると思う。それはそれをうまく評価できないということだ。人間ははかったことのないものを測るのにとても時間がかかるし、しょせん相対的な評価しかできないのだ。とくに芸術に関しては。80年代になってロックの殿堂というものができた。ロックの評論雑誌やサイトがたくさんあってそれなりに納得がいく点数をつけている。これがなによりもロックが死んだことの証拠だと思う。また良さが測れないようなロックの曲がたくさん出てくる日がきたら、僕たちはそれらを「ロック」とは違う名前で呼ぶだろう。
なにも死ぬことは悪いことではない。クラシックなんかは何百年と固まった評価のなかでより良いものを探しているし、ワインだって固まった評価のなかでより良い味を求めて10年に一度の仕上がりだとかなんとかいっている。分かってる人たちがよりよいものを求める、死んだ世界。貴族の世界。おめでとう、ロックもこっちの世界に仲間入りです。普通の人からしたらつまらない、そして死んだからもう死ぬことはない、終わりのない世界に。
コルビジェが世界遺産になった。丹下も世界遺産になろうとしている。つまり建築もそういうことなんじゃないかと思う。モダニズム建築が伝統建築の仲間入りをしたというのが正確かもしれない。でもいまの僕らにモダニズム建築の次の建築は別に見えないからこういっても問題ないだろう。
建築は死んだ。