今夏の脱原発派と電力会社の戦いについて | がんばらない、でも諦めない

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主にエネルギー、廃棄物問題について書いてます。
ブログやツイートは予告なく訂正・削除する場合があります。引用されたものが私のブログやツイートと異なっている場合、このブログの内容を正とします(2015/08/27)

政府の需給検証委員会報告書(案)が出ました。
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120510/shiryo2.pdf


細かいところまで見ていませんが、机上の空論だと思います。


委員会メンバーを見ると経済学者ばかりです。ガスタービン発電機の夏場出力低
下は本当かと議論されたようですが、電力技術者であれば当然知っていることで
す。この委員会を構成するメンバーが電力系統について技術的な知見があるとは
思えません。


本題に入る前に、3.11以降電力会社が信用をなくしてしまった理由について考え
てみたいと思います。


3.11では東日本の太平洋側にある原子力発電所は全て停止しました。原発事故に
隠れて報道されていませんが、火力発電所も同様の被害を受け、運転できなくな
ってしまいました。


そして計画停電が始まります。最初は停電させると言ったところは停電していた
と思いますが、次第に計画停電を発表しても停電することがなくなりました。


私の想像ですが、停止していた火力発電所の復旧や応急発電機の設置により、想
定していたよりも早く電力供給が可能になったこと、東京電力エリアの人たちの
節電努力により供給力に余裕ができたのではないかと思います。そして停電予定
だったけど電力供給できるので、みなさんの生活に影響が出ないように計画停電
を中止して電力を供給したのではないかと思います。


電気を使用する住民は情報が無い中で、停電すると言っていたのに停電しない、
電力会社は本当のことを言っているのかと考えるようになり、電力会社を信じら
れなくなったのではないかと思います。


前置きが長くなりましたが、本題に入りたいと思います。


電力会社は需要は過大に、供給力は過小に評価する傾向があります。電力会社に
は電力の供給責任がありますから、電力が足りませんでしたなんて言えません。
そこで、こういう評価になってしまいます。


電力の品質とは何でしょう。普段気にしている人はほとんどいないと思いますが、
電圧と周波数です。


東日本は50ヘルツ・西日本は60ヘルツというのは、みなさんご存じだと思います。


政府の需給検証委員会報告書(案)では日本全国の合計を評価しているページがあ
りますが、これは意味がありません。東日本と西日本の間で電力を融通するには
周波数変換所を通さなければなりません。この設備は100万kw程度しか容量があり
ません。東日本と西日本は分けて考える必要があります。


東日本3社供給エリアの想定需要は7454万kwに対し供給力は7731万kw、+277万kw
中西日本6社供給エリアの想定需要は9622万kwに対し供給力は9301万kw、-321万
kw


東日本は電力が余っているので西日本に融通できますが、上限は100万kw程度です。


西日本ではピーク時に221万kw不足します。ちょうど大飯原発3・4号機の出力と同
じ位になるところに作為的な物を感じます。大飯原発3・4号機を再稼働させれば
大丈夫というストーリーが見えます。


このまま原発の再稼働がなく計画停電もしない場合、どういう状況になるか考え
てみたいと思います。


大量の電気は貯めることができないという話はみなさんご存じだと思います。電
力会社は時々刻々と変わる電力需要に対し、それに釣り合うように発電機を動か
しています。発電機は普通、同期発電機という発電機が使われており、50ヘルツ
地域の発電機は全て同じ回転数(発電機の極数によっては違う場合があります)、
60ヘルツ地域の発電機は全て同じ回転数で回転しています。


電力需要が増えると電圧と周波数が下がります。そこで蒸気タービン発電機であ
れば調速弁が開いてボイラーから蒸気タービンに送る蒸気を増やします。それで
も対応できなくなった場合は発電機が止まってしまいます。


自分が自転車に乗ってペダルを回して走っている所を想像してみてください。こ
れとよく似ています。平坦な道では軽く走れますが、上り坂になるとペダルが重
くなりペダルを同じ回転数で回すことができなくなり、最後には回すことができ
なくなり自転車を降りてしまいます。


今夏、最も厳しいと言われる関西電力について考えてみたいと思います。


関西電力は発電機が止まることだけは避けたいので、供給エリア内の大口需要家
に電力使用を控えてもらうように働きかけます。この対応に大口需要家がついて

これない場合、電力会社側で影響が最も少ないと思われる所から予告なく電力供給

を止めると思います。


この停止が遅れると、過負荷になった地域は自動的に停電します。機械が勝手に

止めるので、社会的な影響なんか考慮されません。そして、平行して送電している

送電線に負荷が偏りこれも送電が停止します。そして数秒から数分の内に大規模

広域停電に発展します。


中国電力など関西電力の不足電力を融通している電力会社は、自社の供給エリア
に被害が拡大するのを恐れて送電系統の遮断機(家庭にあるスイッチを大きくした
物)を解放し融通を停止すると思います。誰だって道連れにされるのは御免です。


そして、関西電力の供給エリアは更に窮地に追い込まれます。


これを専門用語では「系統崩壊」と呼んでいます。実際、過去にニューヨーク大
停電などが発生しています。


こういうリスクがあることを、脱原発派の方は頭の隅に残しておいて頂きたいと
思います。