天然に存在するウランは、核分裂するウラン235が0.7%と、核分裂しないウラン238が99.3%からできている。
今の原発は0.7%のウラン235を4~5%に濃縮し、ペレットに焼き固めて固体にし、燃料集合体にして使用している。
核燃料は核分裂を起こして高速中性子を放出するが、高速中性子では核分裂反応を継続させられないので水を使用して減速し、熱中性子にして核分裂を継続させる。出力は中性子を吸収する制御棒や水に溶かしたホウ素で調整している。発生したエネルギーを電気に変える発電効率は33~35%しかない。残りの熱は海水を温めて捨てている。
そして、大量の放射性廃棄物と共に核兵器を作るのに都合がいいプルトニウム239ができる。
アメリカが最初に作った原子炉はプルトニウムを生産するための原子炉。
プルトニウムはアルファー線という放射線を出すが、紙一枚で防ぐことができるので、核兵器として扱うのに都合がいい。テロリストがポケットに入れて持ち出すことも可能だし、持ち出しを検出することも難しい。
一方、トリウム原発は、溶融塩に溶かしたトリウム232に中性子を食わせて核分裂性のウラン233にし、中性子の減速材には黒鉛を使用する。発電効率は45%位になるという。超臨界圧蒸気発電と同じ位の発電効率。
核分裂反応をさせた際には強烈なガンマー線を放出するウラン232ができてしまう。ガンマー線は1m以上の厚さがあるコンクリートを突き抜けるし、20cmの厚さがある鉛も突き抜ける。これで核兵器を作ったら取り扱う軍人が被曝するので核兵器なんか作れない。テロリストが盗み出そうとすると、テロリストが被曝して死んでしまう。また、プルトニウムはほとんどできない。この原発ならプルトニウムを消滅させることもできるという。
もしトリウム溶融塩原子炉が故障して燃料漏れが発生したとしても、減速材が無い場所に漏れることになるので核分裂は継続しない。トリウム溶融塩は温度が下がってガラスのように固まってしまうので、チェルノブイリや福島原発のようにはならないという。
また、トリウム溶融塩原子炉はハステロイNという材料で作られており、水が存在しない状態ではほとんど腐食しないという。
著者は、最終的には自然エネルギーを使用する世界を目指しているが、今の自然エネルギー発電装置では力不足。自然エネルギー発電技術が充実するまでの繋ぎとして、トリウム溶融塩原発を提案している。
以上が本の概要。
私が気になるのは溶融塩による腐食。
私は廃棄物焼却炉の廃熱を利用して発電する設備の建設や維持管理をしてきたが、廃棄物焼却炉の問題として溶融塩による腐食がある。廃棄物には水や塩が含まれており、これを焼却処理すると溶融塩ができてしまう。
焼却炉は経済的な問題もあり主に鉄で作られ、特に腐食環境が厳しい部分には特殊なステンレス鋼を使用している。それでも腐食し、定期的に交換している。ハステロイという材料は、高温高圧蒸気を発生させる廃棄物焼却炉技術の文献で腐食が少ない材質として見たことがある。
それで、よく考えてみると焼却炉の排ガスには水蒸気が含まれている。ハステロイNを使用して水蒸気が存在しない環境であれば、廃棄物焼却炉でも腐食しないのかもしれない。(現実にはあり得ない環境だが)
元々原発は核兵器を作るために開発された技術。日本が原発を導入する際に、軽水炉ではなくトリウム溶融塩原子炉を導入していたら違った世界になっていたのかもしれない。
著者の主張はよくわかるが遅すぎた。
福島第一原発の事故を経験した以上、日本ではトリウム溶融塩原発は受け入れられないと思う。
私も受け入れられない。