「相変わらずね。」
「そうでもないよ。」
久しぶりに聞いたその声に
僕は目を閉じたまま、そう答えた。
娘と妻は買い物にいき、僕は懐かしの公園でお留守番。
「パパ、戻ってきたら、ママと3人で座るんだから、ちゃんととっておいてね。」
可愛い娘の頼みは是が非でも守らねば・・・。
しかし、久しぶりに帰った故郷で、
君にココで声をかけられるというこの偶然は一体何なのだろうか?
君はあの時とは違って隣りのベンチに腰掛けた。
「何年ぶりかしらね。」
「どれくらいかな。」
「8年ぶりよ。」
そうだ。8年ぶりなのだ。忘れることはない。
まさか君が覚えているとは思わなかったので少し驚いた。
「そうか。もっと経ったような気もするなぁ。」
「そうね。」
「今もかい?」
「うん。まあね。」
そう、見なくても分かる。君は今もきっと本を読んでいる。
「そうか。」
「そうよ。」
「あら、かわいい子が来たわよ。そろそろ起きたほうがいいんじゃない。」
「ああ、いいんだこのままで。」
途中まではバタバタと音を立てて駆けてきたのに、ベンチに近くになって足音をひそめるのが分かる。
「だーれだ?」
「声はママだけど、このかわいい手はさーちゃんかな。」
僕は起き上がり、かわいい愛娘を抱く。
「パパ、しっかりお留守番してた?」
「ちゃんとしてたよ。」
愛娘はなぜか僕を信じてくれず、隣のベンチへ。
「すいません。うちのパパ、ベンチ誰にもとられないようにお留守番してました?」
「してましたよ。『隣、いいですか?』って聞いたら、お鼻からグ~って音が聞こえてましたから。」
相変わらず君はいじわるだ。
「パパ、寝てたんじゃん。うそつきー。ママー、パパ嘘つきだからサンドイッチなしだね。」
「そうね。じゃあ、パパの分はそのお姉さんにあげちゃおう。」
「はーい。」
公園にいれば、会えると思うとは言ったが、やはり妻もわかったらしい。
「なかなか魅力的な人ね。」
妻はそう耳打ちしてきた。
彼女を魅力的と表現する妻も我ながら流石だなと思う。
家族3人ベンチに座る。
新しいベンチに君を座らせなかった僕。
そのベンチには座る気がなかった君は
古いベンチに座って、きっと僕と同じことを思ったのかもしれないね。
おしまい
