俺には会いたくない人がいる。

その人に会うと胸が苦しくなる。昔からだ。

しかし、嫌いな訳ではない。むしろ逆だ。


会いたくて会いたくてたまらない。

会いたくて会いたくてたまらないから、逆に会いたくない。


その人が存在すると、その人ばかり目で追ってしまう。その人が呼吸すると、全神経を研ぎ澄ましてしまう。

側にいるだけで多幸感に包まれる。


会うと楽しいが、去ると狂おしい。その人のいない静寂に耐えられなくなる。


過去にはしたくない。しかし、あの人にとって俺は過去の人物でしかない。


お互い死んだわけではないから一生会えない訳ではないかもしれない。

とある集まりで会ったばかりだ。

しかし、最早一生会えないかもしれない。


俺は1度その人の事を諦めた。かなりの年月、その人に会ってなかったのだ。

余生と思っていた。

しかし、その人と久々に会ってしまった。


今や、火を吐くほど恋しい。


……にも係わらず。俺は避けてしまった。自分から避けてしまったのだ。

会うと、皆に。その人に。気持ちが伝わってしまいそうで怖かった。

見ると、その人を忘れられなさそうで怖かった。


俺はあまりにも軽率だった。聞けば教えてくれたかもしれぬのに。連絡先すら聞けなかった。


どこにいるかもわからない。俺はその人の現在の名字すら知らない。

ヒントがないわけではない。探せば見つかるかもしれない。

しかし、喩え探し出せたとしても掛ける言葉が見付からない。


俺に成長のない限り、語る言葉がないのだ。


俺と、その人とは、とことんタイミングが合わない。

昔からそうだった。今でもそうだ。

最初は俺の方がリードしていたかもしれない。

しかし、すぐに抜かれた。

あの人は待ってはくれない。


苦しくって吐きたくなる。


考えてみるに、今までの俺の創作意欲はそこから産まれてたんだと思う。

負のパワーの発散だ。


文章を書くと、少しだけスッキリするのだ。

気持ちの誤魔化しとは分かってる。


リア充には、けしてわかるまい。



今の俺はその文章を書く場すら奪われた。ただの雑念にすぎない。


俺は何も遊びで文章を書いていたわけではないのだ。魂を削り出していたのだ。

不健康で、不道徳な、魂の発露なのだ。


だがそれも、今や、過去の話。

軽い気持ちでパクられ三昧。

虚しいばかりだ。