姉の話は続く。


彼と肌を合わせているだけで、ムートンに包まれているみたい。

ももの内側で彼の足を挟むと、それだけでいきそうになる。

我慢できなくなって彼のものがはいってきた瞬間に、中のから温かいものが流れだす。


その時、私にはまだ分からなかった。
自分はヒロキとそんな風に感じられるのだろうかと、
姉の話を聞きながら、ぼんやり思ったりしていた。


その、数日後。


軽いキス、夕方のデートを繰り返してはいたが、ヒロキは自分から要求してくることはなかった。
そのくせに、私が「もう少し一緒にいたい。」などと言うと、例え予定があっても必ず、いいよ、と言って笑顔を見せる。


その日も姉の話を聞いたあとで、もしかしたら、今日、自分にもと、どこか期待していた。


ヒロキの家は古い酒屋で店の隣に、母屋を改装した小さな小屋があって、
実質、一人暮らしだった。

いつまでもそこに入れてはくれないヒロキに「今日はまだ時間があるから、連れていってほしい」
と言うと、やっぱり、いいよ、と言った。


ふたりで部屋にいてもヒロキはいつもと何も変わらず、にこにこしているので、
私から抱いてほしいと呟くと、すっと真顔になって腕を掴まれた。

痛いよ、と言うとヒロキの口で自分の口をふさがれる。
舌を入れられると息をするタイミングもつかめなくなった。


常に穏やかなヒロキのどこにこんな力があったのかと思う。

長く深いキスは20分は続いたのではないだろうか。


頭が熱くなる。自分の口のなかで、自分以外の舌が動いていることに戸惑いながら、ヒロキに体を預けた。

そんな風に姉に呼び出され、パンツの中をまさぐられたのは、

後にも先にもその一度だけだったが、

中学、高校と姉は恋愛に強い関心を持ち、男の子の話ばかりするようになった。


私はといえば、そんな姉を見ていたからか、

男の子や恋愛にそれほど興味が持てず、自分がするとは思えなかった。

恋愛は姉のような人がするものだとさえ、感じていた。


高校のとき、私がアルバイトしていたコンビニに、

新しく入ってきたのがヒロキだった。

ヒロキも同い年で、特別かっこよくはないが、しゅっとした清潔感のある顔をしていた。


ジャニーズ系の派手な顔が好みの姉のタイプではないな、とほっとしたのが、第一印象で、

あとはずいぶん大人しい奴だな、としか思っていなかったが、

度々ヒロキにコンビニバイト仕事を教えているうちに、ヒロキは私になついたようだった。

私もそれが嬉しくて、ヒロキと話すようになり、バイト以外でも会うようになった。


一緒に映画を見に行ったり、ファミレスに行ったりする程度だったが、

もしかしたら、ヒロキと付き合うかもしれないという、淡い期待はあった。

当然、邪魔されたくないので姉には秘密にしていたが、ベッドタウンの高校生の行動範囲は狭い。

すぐに姉の知るところになる。



「ヒロキっていうの?紹介してよ。まだ付き合ってないんでしょ。応援するからさ」

と言っていた姉だったが、絶対に手を出すだろうことは想像できた。


が、姉に紹介した後も、意外にも姉の反応は薄く、

ヒロキのことを聞いてくることもなかった。

彼氏と別れて期限が悪いのだろう、くらいに思っていた。



ヒロキが私に「付き合いたい」と言ってきたのはそれから1ヶ月くらい後だった。

学校が終わった後、ファミレスで会って、最近買ったCDの話とか、そういうくだらない話をして、

明日も部活早いからもう帰るわ、といって駅まで一緒に歩いている途中でいきなりキスされた。


ゆっくり唇を合わせるだけの、今となってはそれはそれはピュアなキスだったが、

何が起こったかわからない放心状態から天にも昇るような嬉しさがこみ上げてきた覚えがある。


今度、姉が誰それとのキスは、、という話をしてきても、

うんざり聞くことはない。

しかし、ヒロキと付き合ったことを姉に言えば、何をされるか分からない。

姉には黙っていることにした。



ある日の土曜日、母と再婚相手はデートだったんだと思う。

家で2人だけで留守番していた。


4LDKの新築マンションの10畳の部屋にパーテーションを置いて、

姉と半分ずつ使っていたが、

姉と私は大抵、パーテーションを超えて私の方にいた。

姉が自分のほうにいるときに、私がパーテーションを超えて入ってくることを嫌がったからだ。


私がリビングで本を読んでいると、珍しく姉が自分の部屋に入れてあげるから、と呼ばれ

おそるおそるパーテーションを少し空けると、

姉はクッションの上でにやにやしながら「隣座って」と手招いた。


私が何も言わずに隣のクッションの上に座ると、

「こういうの知ってる?」

と姉がスカートの中に手を入れてきた。


姉の細い指が、パンツの中に入ってきたかと思うと、

足の間の柔らかい襞の間をいったりきたりしていた。

ちょっと冷たくて、不思議な感覚がした。


2、3分続いただろうか。


姉が私のパンツから手を取り出すと、姉の指先が少しベタベタした感じに濡れていて、

姉も私も黙ったまましばらく指先を見つめていた。


「パパたちに言ったら絶交だからね。分かったら、もう行って。」

と私をリビングに戻れ、というように背中を押された。


姉がヒロキと結婚すると聞いたとき、一瞬血の気がひいたようにドキッとしたが、

すぐに納得した。


姉とはもう5年も会っていない。


姉といっても、血のつながりがある訳ではなく、

小学校の6年生の頃、母の再婚相手の連れ子だった。

学年は一緒だったけど、姉に『”おねえちゃん”って呼んで』と言われ、

兄弟とか姉妹という感覚が良く分からなかった私は、何も考えず承諾したのだと思う。

それから、15年が経つ。


姉はいつも明るく、そして強気だった。

母が再婚したとき、姉が転校してきたのだが

クラスでもリーダータイプで、大人びた雰囲気のある美人だったから、

その日のうちに友達ができた。

数日もすると、下校するときも自然と何人もの取り巻きの女の子がいつも姉にくっつい歩いていた。


私はというと、どちらかというと目立つのが好きでなかったので、

学校で姉と一緒に居ることはほとんどなかった。

とはいえ、同じ家に住んでいる同い年の女の子同士、学校以外ではほとんど一緒の時間を過ごした。


私と一緒に居るときも姉は明るく、いつもクリックリに大きな目を細めてコロコロと笑っていたが、

時々、2人だけで居る時に私よりもいかに女として優れているか、を誇示しようとするのだった。


「カナちゃんはさ、その真ん丸な顔をどうにかしたほうが良いよ。可愛くないよ。」

その頃私は頬の周りがプックリしていたのだ。


「2組の小林はあたしに気があるみたいなんだよね。」

小林君は当時、『好きな人いないの?』とつめよる姉に対し、無理やり答えた子だった。

(今思えは小林君も年齢の割りに大人びていたし、顔が丸くて年下に見られる私のコンプレックスを見抜かれていたのだな。)


「パパはね、カナちゃんのママのどこが好きになったか知ってる?」

と聞かれた時は、

「知らない。優しいから?」

と答えても、

「カナちゃんにはまだ早いから、今度ね。」と思わせぶりに笑うのだった。