原発から500メートルくらい離れたところの土壌からプルトニウムが検出されたとか。


他のブログを見てみると検出されたことに動揺している人もいる模様。


たしかに、プルトニウムは肺に吸い込んで内部ひばくしてしまうと人体への影響が大きい物質です。

(いつもの、核種ごとの内部被ばく変換係数表)
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html


前回のメールで書いた放射性ヨウ素と比べると、同じベクレルならケタが5つ違うくらいの影響力(シーベルト)ですね。


ただ、前回までの日記で何度も書いていますが、放射性物質の人体への影響を考える場合、大事なのは放射性物質の有無ではなく、「放射性物質の種類と量」です。

今回は検出されたプルトニウムの量が健康に問題あるのかないのか、検証してみようと思います。


・・・の前に、これも前回までに何度か書いたことですが、プルトニウムは今までの各国の核実験等で地球全体に拡散し、我々の体内、空気中、土壌、海水中などで検出されるようになってしまっています。(もちろん、今のところ我々に健康被害はないです)


中日新聞の記事によれば、
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011032990141331.html?ref=rank


今回最も多く検出されたのは、
土壌1kgあたり0.54ベクレルのプルトニウム238(Pu238)とのこと。

一方、通常時に国内で検出されたプルトニウム238の最大値は、
土壌1kgあたり0.15ベクレル とのこと。


今回の0.54と、通常の0.15…今回のは通常の3.6倍。


なんだか、あんまり変わらなくないか?って思いました。
(今まで「基準値の○○百倍」とか○○千倍とかばっかりだったので・・・)



そうは言っても、「基準値のウン倍という相対評価は意味がない!絶対値が大事なんだ!」と最初の説明日記で書いた手前、影響を検証してみようと思います。


…しかし、前述したようにプルトニウムは肺に入ったときの内部被ばくの影響が大きいのですが、土壌1kgに含まれるプルトニウムのうちのどれくらいが肺に入る可能性があるのか、正直なところわかりません。
土壌1kgがどれくらいの面積から、どんな方法で摂取されたのかもわかりませんし…


仕方がないので「1kgの土壌中で検出されたプルトニウムが全て肺に入った」という計算で行ってみます。Pu238のベクレル→シーベルトの変換係数は「1.1×10のマイナス4乗」です。


0.54×1.1×0.0001=0.0000594シーベルト=0.0594ミリシーベルト


・・・約0.06ミリシーベルト。

「影響が出るのは100ミリシーベルトから」ってのを考えると、全然問題ない数値だと思います。


また、プルトニウムはヨウ素やセシウムと違い、重くて気化しない物質なので、拡散はそれらのものよりも狭い範囲となります。


つまり、原発から500mの地点でこの程度の数値なら、避難指示区画外であればますます数値は低く、全く問題ないでしょう。


あくまで「現時点では」ですが、今回の数値であればプルトニウムの人体への影響は考えなくて大丈夫でしょう。(チェルノブイリのときもプルトニウムより拡散しやすいヨウ素の影響の方が大きかったようです)


東京電力は「検出されたプルトニウムの濃度は核実験で観測されたのと同じレベル」と言っているようですが、この程度の数値であればその表現もまぁ納得です。



以上、今回の試算は前回の水道水のときに比べてやや曖昧な部分が存在します。

今後、敷地外を政府が測定するそうなので、その結果を見て確認するのが良いと思います。


ただ、プルトニウムが排出されるということは燃料棒が溶融していることを示します。格納容器と圧力容器にも穴が空いてるのかも。(このへんは後日改めて説明日記を書きます)

今のところ健康への影響は大丈夫そう(現場作業員を除く…)ですが、やはり予断のならない状況であることは変わりないです。

引き続き、日々の報道や発表に注目していきましょう。

※今日の日記はいつもの「事象の説明」とは違って私の個人的見解が多分に含まれていますので、そこんとこふまえて読んでもらえると助かります。


食品や飲料水、規制値緩和へ
http://mainichi.jp/select/science/news/20110326k0000m040133000c.html

上記ニュースによれば、食品に含まれる放射性物質の基準値が引き上げられるとか。


この問題を考える前に知っておかなければいけないことがいくつかあります。


まず、今までの基準値は、食品衛生法上での「暫定基準値」だったこと。


実は、現行の食品衛生法に「どのレベルまでなら放射性物質に汚染されて良いか」という正規の基準はありませんでした。(←これが超重要)


なので、今回の原発事故で放射性物質が食品や水に含まれる事態になったときに、
原子力安全委員会が作成していた「飲食物の摂取制限に関する指標」というものを持ってきて「とりあえず、この基準で線を引こう!」としたわけです。


私は食品衛生法の基準設定がどのように行われているか知らないのですが、農薬やカドミウムといったものと違って、この「暫定基準値」というものは、「汚染されたものが食品として流通することを前提にした」「法律制定レベルのきちんとした議論」がされたものでないことは間違いないと考えています。




さて、ここでおさらいですが、前回の日記で「基準値を超えた東京の水道水、乳児はどのくらい飲むと危険か?」という試算をしました。


結果は「数日のうちに3.4トン以上飲めばヤバいかも」というものでした。


・・・はっきり言って、これは現実的に考えてありえない数字です。

つまり、こんな数字が出てしまう基準値は「厳しすぎる」ということ。




なお、ネット上でたまに目に付くのが、 「放射性物質なんて、入っていること自体が問題だろ!」という意見。


おそらく、そういう方は事故の前から空気や海水中に微量の放射性物質(プルトニウムとか)が含まれているのを知らないのだと思います。


前々回の日記で説明したように、内部被ばくによる安全性を考える際に重要なのは「量と物質の種類」です。放射性物質のあるなし、ではないです。



なので、現行の暫定基準値で考えると、基準値と実際の危険値の間に「大きすぎる余裕」が出てきます。


余裕はもちろん必要なんですが、これが大きすぎるとどうなるか。
今までの公式発表のようになります。

「基準値を超えたのでなるべく口にしないように。
 でも摂取してもただちに影響はありません。」 と。
(3.4トンも水を飲む乳児がいるわけもないのに!)



じゃあ「東京都の水は安全です」って言えばいいじゃない!

って思う方、そのとおりなんですが・・・政府には政府の理屈があります。



厚生労働省の…というか役人は法律を守るのが仕事です。
「基準値を超えたけど、全然問題なく安全です」とは公に言えません。

それは「法律で決めたこの基準値、全然意味ねーから!」と言うのと同義だからです。(実際そのとおりだとしても)


政治家の発言ペーパーを役人たちが作る際も同様です。
だから、いわゆる「役所言葉」の非常に分かりにくい言葉となります。



ここで、総理や官房長官には官僚の説明なんて突っぱねてシンプルに安全をアピールしてほしかった・・・と悔やまれてなりません。

そうすればここまで混乱を招くことは無かったんじゃないか、と思います。
(もちろんこれには大きな責任が伴います。半端な覚悟じゃ言えません。)




・・・話を本筋に戻します。

今回の基準値引き上げは、もっと妥当な基準値とするために、ある意味まともな処置です。
(本当に妥当な基準値にしてもらえるなら、という前提ですけど)


しかし、これは本来であれば平時にやっておくべきこと。
この非常時に基準値の引き上げをやって、納得する国民は少ないと思います。

「改正前の基準値なら汚染されているけど、改正後の基準値は下回っているから安心だね!」

って思う人がどれだけいるんだ、と・・・まぁ一人もいないんじゃないでしょうか。



今更言ってもはじまらないんですけど、これは今まで放射性物質についての基準値を作っていなかった厚生労働省の大きなミス、人災です。



ともあれ、この措置がこれから原発事故が収束した後に発生するであろう甚大な風評被害対策なのは理解できます。



今後の政府発表は、こういった経緯を分かりやすく&信用できる形でしてもらうことを期待します。超期待します。


(正直、ダメっぽい気がするけど・・・)

東京都で水道水から基準値を超える放射性ヨウ素が検出されました。

乳児の摂取についての基準値は1kgあたり100ベクレルまで。
成人だったら300ベクレルまで。

昨日検出されたのは210ベクレル。
今日は190ベクレルだったとのこと。



これに対し政府発表では「乳児の水道水摂取は控えて下さい。ただし、乳児以外の子どもや大人が一時的に飲用しても健康に影響が出る可能性は極めて低く代わりの水が確保できなければ飲んでも問題ありません」とのこと。



言いたいことはまぁわからんでもないとして・・・結局飲んだら乳児に影響あるのかないのかがよくわからんですね。



まず、新しい単位「ベクレル」について説明します。(読み飛ばしても良いです)

「ベクレル」とは一定時間に出す放射線の量を表す単位。しかし放射線の人体への影響は放射線の種類等にも関係するので、ベクレルが強い=人体への影響が強いとは必ずしもならない。豆電球が10個ある(10ベクレル)より灯台1基(1ベクレル)の方が明るい(人体への影響が強い)というイメージ。





では、その1kg中210ベクレルの水道水、どれほど飲んだら乳児に影響があるのかを計算してみたいと思います。




前回までの日記にあるように、人体への影響が出てくるのは「100ミリシーベルトから」という前提で計算します。なお、100ミリシーベルトは妊婦等の影響を受けやすい方でも問題ない数値とされています。

(後日追記:日本の安全基準では妊婦を成人と同じように扱っているものの、ベルギー等の国では乳児と同じように「放射性ヨウ素の内部被ばくによる影響は成人の10倍」としているようなので、妊婦の方も乳児と同じように気をつけた方が無難だと思います。)




下記URLによれば、放射性ヨウ素を経口摂取(内部被ばく)した際のベクレルからシーベルトへの変換係数は
「1ベクレル=0.022マイクロシーベルト」


http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html




らしいのですが、東大病院放射線医療チームのtwitterにはこうありました。



「放射性物質であるヨウ素I-131の「変換係数(μSv/Bq)」は、0歳で0.140、1~6歳で0.075、7~14歳で0.038、15~19歳で0.025、大人で0.016です。」



こっちの方が乳児への影響が大きめ(成人の10倍)に評価されています。(ヨウ素は若年者ほど影響が大きい)


下記URLにもあるように、ヨウ素の乳児への影響は成人の10倍ということで計算されるようなので、こちらの係数を用いて計算します。


http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf



ヨウ素210ベクレル入り水道水が乳児の経口摂取で100ミリシーベルトに達するには、


100÷(210×0.14÷1000)=3401.4(キログラム)


というわけで約3.4トンの水道水摂取で100ミリシーベルトに達する計算です。


(ただ、これは被ばくを「放射性ヨウ素の経口摂取のみ」としていますが、現実には水道水の経口摂取以外にも被ばくはしますので、3.4トンよりはるかに手前で安全ラインを引くべきでしょう。2トンくらいかなぁ。)

(後日追記:ちなみに放射性ヨウ素の半減期は8日なので、上記の3.4トンは1日とか2日とかの短期間で飲む場合、です。8日間だったら6.8トンとなる計算。)



なお、「一般人の1年間の被ばく限度は、自然放射線を除き、1ミリシーベルト」というルールもあるので、実際の影響じゃなくルール的に考えれば34キログラムですかね。




ともあれ、ここ数日の「基準値超え」「摂取・出荷制限」の政府発表はあまりよろしくないと思います。


どこまで安全なのか具体的な数値がない=よりどころがない、ということになってるので、誰も安心できない。



世の中に「絶対」というものがなくて、「この量までは絶対に安全です」とは言えないから、(責任を回避するために)「既存のルールに従いました」と言う。

一方で、風評被害も出したくないから「でも飲んでも安全です。」と言う。


うーん・・・この非常時に、その態度はダメなんじゃないのー。