祖父と空き地でサッカーをしたときのこと。
5歳くらいの私はボールを蹴っても
コロコロ転がるくらいの力しか無いので
パスをし合って遊んでいた。
祖父が外遊びに付き合ってくれる機会は貴重だから
パスだけでも私は心底楽しかったし
おどけた動きで沢山笑わせてくれた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて
「そろそろ帰るよー」
母が私を呼びに来た。
帰りたくない私は、母の呼びかけに一度では応じずボールを蹴った。
すると最後の一回、と思って振り抜いた足がジャストミートしボールが高く浮いた。
先にも書いた通り、ボールを蹴り上げる力も技術も持ち合わせていなかったから、全くの偶然である。
一方でじいちゃんはというと呼びかけに来た母の方に視線をやっていた。
次の瞬間にはボールはじいちゃんの側頭部に直撃していた。
幼子のキック力などたかが知れているが、
不意をつく頭部への被弾は、じいちゃんにダメージを与えた。
倒れこそしないものの頭を左右を揺らしながら、なんとか意識と姿勢を保っているように見えた。
ふざけているのか、本気でフラついているのか微妙なところだけれど
その様子がボブルヘッド人形※みたいで、思わず笑ってしまった。
母も、心配よりも滑稽さが勝ったようで
大丈夫ですか!という台詞が半笑いになっていた。

今思うと、おどけていた時とちがって、その時のじいちゃんの表情に余裕は感じられなかった。
笑っている場合ではなかったのだ。
幼心にマズい、そう感じた私は「おじいちゃん、ごめん!」
人生で初めてちゃんと謝罪をした。
同年代の友達と喧嘩をしたってここまで真剣に謝ったことはなかったと思う。
私は怒られるかと思ったが、じいちゃんの返事は予想に反したものだった。
「すごいパワーだ!」
じいちゃんは微塵も怒りの感情を見せず
むしろ私のプレーを褒めてくれた。
おしゃべりはできる、という安堵と
過ぎる優しさが小さな心に沁みた。
「ホントにだいじょうぶ?」とさらに尋ねる。
すると、じいちゃんは教えてくれた。
「サッカーは紳士のスポーツなんだ。またやろう」
幼稚園児の私には「紳士」の意味はぼんやりとしか分からなかったけど
この一件以降、サッカーに興味を持つようになった。
父は野球、兄はバスケ、母はテニスという我が家の部活動事情があるなかで
私がサッカー部に入るきっかけとなる出来事だった。
じいちゃんが旅立った9月が来ると思い出す、幼い頃の記憶。
※首が可動式の人形。メジャーリーガーを模した物が有名。