マイルスに最近ハマっている。
ロックをほとんど聴いていない。
しかしちっとも物足りなさを感じない。
それはマイルスのたどった音の変遷があまりにも多彩で、一つの枠に収まっていないから。

彼の作品を紐解くごとに、新たな音との出会いがあり、刺激に溢れている。

 
一般的に「ジャズ」というと渋くて大人しい音楽というイメージがある。
そして「ジャズを聴いている」などと言うと、枯れてしまったのではないかと思われたりする。
しかしである。そもそもジャズという言葉は、もともと「セックス」を意味するスラングだというのである。
性的興奮や刺激を感じさせる音楽、もともとジャズはそういう音楽であったのだ。
そして私がマイルスのジャズに感じるのは、まさしく「刺激」そのものである。

マイルスの活動は50年代から90年代まで、実に40年にわたるものである。
そしてマイルスの音はジャズの枠に収まらず、フュージョンから晩年はヒップホップにまで接近した。
そこには新しい時代を切り開いていこうとする貪欲なミュージシャンシップ、そして頑固なまでに
自分の信じる音を追求しようとする姿勢を感じる。
そんなマイルスに私は「ロック」を見る。

 
実際、エレクトリック・マイルスといわれる60年代末~70年代中期のマイルスは、
ロックを導入し、ジャズのイディオムから全く外れた音楽性に走っていた。
60年代後期に彗星のごとく表れたジミ・ヘンドリックスからの影響を隠さないマイルス。
残念ながら予定されていた共作はジミの突然の死により実現しなかったが、
ジョン・マクラフリンというこれまた不世出のギタリストをバンドに迎え入れ、
エレクトリック・ピアノ、シタール、タブラーなどといったジャズとは縁の無かった楽器を導入し、
インプロビゼーションに重きを置いた音楽を奏でていった。
そこでは演奏者が己の持つ個性をぶつけ合い、混沌とした音を発していた。


自分が一番初めにマイルスのエレクトリック作品を聴いたのは、このアルバム


Bitches Brew/Miles Davis

 

このアルバム、知らなかったが名盤中の名盤である。

発売は1969年。まさに60年代から70年代へと猛烈に音楽シーンが動いていた時である。

ビートルズに代表されるポップなロックから、レッド・ツェッペリンなどのインプロを多用する

ハードロックへと、リスナーの趣向はどんどん変化していった時期だ。

そしてクラシカルな「様式」や「形式」にとらわれたジャズは、どんどん時代遅れとなりつつあった。

その例外が、マイルスだった。


とにかく一度このアルバムを聴いてほしい。

発売当時は評論家をして「ジャズは終わった」と言わしめたこの作品。

今聴くととんでもなくアグレッシブでグルーブに溢れていて刺激的である。

「ロック」でもあるし、ミュージシャンたちは「ジャズ」の精神に溢れてもいる。


冒頭で「ジャズ」は「セックス」の隠語だったと書いたが、別の意味もある。

それは「スイングできる、踊れる音楽」という意味である。

聴いて自然に体が動く音楽がジャズである。

このアルバムを聴くと、精神が高揚し、肉体にも影響を及ぼす。

じっとしていられなくなるのだ。

車を運転しながら聴くと、とてつもなくハイになれる。

しかしどこかで覚めた精神を感じられるので、危険な運転にはならない。

自分にとっては特別な音楽である。

ドラッグのように中毒性のある音楽である。


演奏しているミュージシャンも相当ハイな状態にあったに違いない。

もしかしたらドラッグをキメながら演奏したのかもしれない。

それぐらいクル音楽だ。

ロックのみならず、ヒップホップやテクノを聴いている人たちにもぜひ

触れてほしいものである。

きっと「マイルス中毒」への一歩を踏み出せる。