フン・セン首相(カンボジア)の外交戦略 | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 日本は「天皇誕生日」で祝日だった先週23日、プノンペン(カンボジア)でベトナムの産業貿易省・ドンナイ省人民委員会共催のベトナム・カンボジア・ビジネス会議が開かれました。

 南部ベトナムのドンナイ省はゴム、コーヒー、蜂蜜、陶器、カシューナッツの産地として有名で、産業としてはゴム製造業、電子部品、繊維工業、発電、林業などがあります。
 ドンナイ省人民委員会副議長のティン氏は、「ドンナイ省は地理的にカンボジアにも近く、交通もサイゴン港や国際空港に近く国道1A線も整備が進んでいる」とカンボジア側企業に事業協力をアピールしました。

 南部ベトナム・ドンナイ省とカンボジア企業の貿易は今年大幅に増加しています。これは主にベトナムのドナフーズ社とビナカフェビエンホア社がカンボジア企業と大型契約を成約させたことによるもの。ドンナイ省はカンボジアのクラチエ州にカシューナッツ栽培などの農業技術の指導も行っており、カンボジアとの関係強化へ積極的な省です。

 今年、ベトナムのカンボジアへの投資は急拡大しました。ベトナムのカンボジアへの投資額は2009年初から9月末までの9ヶ月間で4億ドル超と昨年比急増しています。

 今年11月、フン・セン首相(カンボジア)はアピシット首相(タイ)によるタクシン氏(タイ元首相)身柄引き渡し要請を拒否しました。その結果、カンボジアとタイの外交関係が悪化したことは記憶に新しいところです。しかし、一方でフン・セン首相は隣国ベトナムとの良好な外交関係構築に大成功しています。

 フン・セン首相は70年代にポルポト派とゲリラ戦を戦ったたたき上げの歴戦の勇士です。元ゲリラ出身だけに外交戦術・戦略に長けています。泥にまみれてゲリラ戦を行ったフン・セン首相が英国生まれでオックスフォード卒のアピシット首相(タイ)を翻弄しているように映ります。

 カンボジア国民の高い支持率を誇るフン・セン首相はまだまだ57歳と若いです。当分の間、カンボジア政治は安定するとともにベトナムとの蜜月関係も長く可能性が高いと思います。実は、フン・セン氏は70年代後半にベトナムに亡命したことがあり、ベトナムの援助を得てポルポト派と戦ったことがあります。

 以前、プノンペンのあるタクシー運転手に、「シハモニ国王(56歳)には跡継ぎがいないが、もし万が一のことがあったらどうなるの」と質問したことがあります。そのタクシー運転手は私に答えました。「国王に万が一があってもフン・セン首相が新国王を選ぶだけだ」と答えました。私は彼の慧眼に感銘した覚えがあります。

 隣国「タイを揺るがし」つつ、「ベトナムと結ぶ」。今の日本の政治家にはできない外交戦略をカンボジアは駆使しています。