サコムバンクの海外戦略とカンボジア | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

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ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 サコムバンク(STB)はベトナム最大の商業銀行で、同行を中核とする金融グループ・サコムバンクグループを形成しています。

 実は、同行の100%子会社でサコムバンクグループの証券会社・サコムバンク証券が今月28日にホーチミン市場に上場予定です。そして、そのサコムバンク証券は先月30日に子会社を通じてシンガポールに支店を開設しました。ベトナムの証券会社が海外支店を開設するのは史上初となります。

 サコムバンクグループの狙いは、国際金融都市・シンガポールに拠点を構え、同グループの知名度を高めるとともに、グループ力を活かして海外からベトナムへの株式投資を促すだけでなく、M&Aアドバイザリー・投資プロジェクトなどのコンサルティング業務などをグループ内に取り込む戦略と思われます。一方、グループ内の証券会社がシンガポール拠点を持つことで、近い将来の(サコムバンクの)シンガポール市場上場の足固めとする相乗効果を狙うものでしょう。

 そのサコムバンクですが、今年6月26日にカンボジアで27番目の商業銀行としてプノンペン支店を開設しています。

 在カンボジア・ベトナム大使館によると、今年1月から8月までのカンボジア・ベトナム間の総貿易額は8.48億ドルで、昨年同期の12億ドルに比べ29パーセント減少しているようです。しかし、ちょっと待ってください。少し考えて見てください。公的機関の発表数値を鵜呑みにするのは非常に危険です。
 
 現実は、カンボジア・ベトナム間の正式統計に含まれない貿易(密貿易を含む)は急増中なのです。そして、ここにサコムバンクがプノンペン支店を開設した理由のひとつがあると考えられます。

 同行によれば、「主な顧客基盤はカンボジアのベトナム企業または越僑系企業」とのこと。当然、プノンペン支店開設は2009年半ばから取引開始予定のプノンペン証券取引所の開設も睨んでいることでしょうし、同グループ中核の銀行がカンボジアに進出したということは、グループ内各企業のカンボジア進出も「まもなく」と予想できます。

 サコムバンクの他にベトナムの銀行としてはBIDV(ベトナム投資開発銀行)など3行がプノンペンに支店開設をしています。すべて今年になってからの開設だというところがポイントです。また、マレーシアのメイバンクもカンボジアに支店を開設しました。

 日本勢では、昨年、マルハンジャパンバンク(カンボジアで18番目の商業銀行)がプノンペンで営業を開始。現地の豊富な資金需要を背景に好業績をあげています。

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 マルハンジャパンバンクのポスター(プノンペンのマルハンジャパンバンク本店にて撮影)。同行の定期預金は現在7%(ドル建て)で回る。同行の大西頭取によると、「定期預金が7%で回るのはカントリーリスクだというのは誤解。地元の資金需要を基礎にした数字が7%なのです」とのこと。ポスターのように2万ドル以上を同行に預け入れた顧客にはVIPルームサービスがある。目指すのは「百貨店型」ではなく、顧客と密着した「老舗型」だ。

 平均的な日本人が知らないところで、「資本」はカンボジア・プノンペンに集まってきています。これはカンボジア経済がドル建てであること、経済の潜在成長力が高いこと、資本規制が緩いこと、フンセン政権の安定性が原因と思われます。上手く行けば、カンボジアは農業国であると同時に金融国として発展する可能性もありうると思います。

 相場格言にWhat comes up must come down.(上昇したものは下落する)というものがあります。それをもじってカンボジアの場合は、What went down must come up.(下落したものは上昇する)ということでしょう。

 2009年の経済成長率は欧米向けガーメント輸出の落ち込みで、カンボジア経済は落ち込んだものの、当分(多分、今後20年程度は)の間は、日本よりもカンボジアへ投資する方が賢明なような気が個人的にはします。

 サコムバンクの話からカンボジア経済の話へ飛んでいってしまいました。要は、「(平均的)日本人はご存じないでしょうが、目敏いアジアの資本はカンボジアへ資金を移動させています」ということを言いたかったわけです。そして、そこには理論的な裏づけがあるわけです。