記録再生の新しい時代を開く | 「週刊・東京流行通訊」公式ブログ

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東京に暮らす中国人が見た、リアルタイムのこの国のすべて・・・






カメラは、1839年にフランス人のダゲールによって発明された。人類は何らかの方法で一瞬のうちに消え去ってしまう時間の中に出現した情景をそのまま記録したいと夢見てきたが、カメラが発明されたことによって、この夢がついに現実に向けて大きな一歩を踏み出したのだ。1874年、フランス人のジュール・ランサンがビデオカメラを発明した。これ以降、過去の情景は静止画像だけでなく、流れる情景も記録できるようになった。そして1877年には、ついに確認された人類最初の録音が出現した。これ以降、画像だけでなく音声も記録できるようになった。現代の映画やテレビの映像作品は、いずれもこの長い歴史の土台の上に立っている。そして今、過去の映像の再生手法について、さらに飛躍的な一歩が踏み出された。代替現実(SR)システム、そしてそれを応用した体験型アートパフォーマンスMIRAGE(ミラージュ)が、歴史の舞台に登場したのである。

理化学研究所脳科学総合研究センター・適応知性研究チームが開発したSRシステムでは、SF映画に登場するようなヘッドフォン一体型のヘッドマウントディスプレイ(HMD)が用いられる。ユーザーは、パノラマビデオカメラにより記録された「過去」映像か、HMD前部に設置されたカメラを通して映し出されるリアルタイムの「現在」映像を見ることができる。ヘッドフォンからは、映像に同期して、過去あるいは現在の音声が流れる。本システムの鍵は、過去映像音声と現在の映像音声を、主観的には区別できない形でユーザーに体験させる仕組みになっていることである。すなわち、ユーザーにはどれが「現在」でどれが「過去」なのかがわからない。そのようにして「過去」が「現在」へと侵入し、異なる時間軸にいる人や事物が交錯する。

8月24日から26日の三日間、SRシステムを用いた体験型パフォーマンスMIRAGEが行われた。これを手がけたのは、アートパフォーマンスグループGRINDER-MANである。会場では、ダンサーによるライブパフォーマンスが、HMDを装着した一人の「体験者」の目の前で繰り広げられる。しかし体験者が実際に体験しているのは、ライブパフォーマンスそのものではない。あらかじめ記録された過去のダンスパフォーマンスが、SRシステムによりライブパフォーマンスに重なり合わされ、交錯する。過去か現在か、そういった問いが無効となる地平でパフォーマンスは進行し、およそ10分後、パフォーマンスの終了とともに体験者は現実へと帰還する。会場にいる観客には、また別の驚きが提供される。会場のスクリーンに映し出される体験者視点の映像をみることにより、観客自身のライブパフォーマンス体験と、体験者の体験があるときは重なり、あるときは全く別のものに分岐していることに気付く。そのようにして、MIRAGEというパフォーマンス作品がきわめてユニークな多層性を有したものであることを感じ取ることとなる。

SRシステムは従来の意味での映像や音声の記録再生手法を逸脱し、媒体の制限を飛び越えて、「過去」を「現在」として再生する。そして今回MIRAGEが、本システムを用いてこれまでにないパフォーマンス表現の領域を切り開いた。今後さらなる発展改良が期待されるが、「過去」の体験手法と応用について、新しい扉が開かれたことは間違いない。 












写真提供:理化学研究所脳科学総合研究センター

MIRAGE http://mirage.grinder-man.com/ 
SR system http://vimeo.com/40499445 (ビデオ)