心の底から、焦がれ希求し渇望する程の過去があるということはなんと甘美で残酷なことだろう

もしもあの日に、初めてあなたと出会ったあの日に戻ることが出来たなら

今度は間違えることなく今日の日を、迎えることが出来たのだろうか

 

 

 

 

 

「りょうくん、りょうくん。私のおねがい、聞いてほしい」

 

出来るだけ無邪気そうな表情と声色を張り付けて、彼の顔を覗き込む。

 

「えー・・なに?あんまききたくない」

 

テレビ画面に注がれていた視線を緩慢な動作でこちらに移し、すぐに逸らす。

隠しきれない不穏な空気を感じ取ったのか、彼は微かに眉を顰めた。

 

「おねがい。私と話をしてほしいの。・・・一生のお願いを使うから」

 

彼は一切こちらを見ないまま、しばし黙り込む。

彼の全身から心底面倒くさいという拒絶を感じて、心臓の奥が一瞬で冷たくなる。

わかっている。彼が私との話し合いを嫌っていることは、わかっている。

わかってはいても、拒絶されるのはやはり痛い。でも今日は、傷つかないと決めた。

 

「座ってくれる?」

 

リビングにあるテーブルの、向かいの椅子に誘う。

 

(なるべく、重苦しい空気にしないほうがいいかな。真剣なんだって雰囲気を出したほうがいいかな。)

 

最後のチャンスだと自覚した瞬間、刹那に心拍数が跳ね上がる。

 

(最後の最後まで、狼狽えてみっともない・・・。泣いても笑っても、最後だ)

 

小さく息を吐き出す。

 

渋々と席に着いた彼をちら、と見遣り目を瞑る。

落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ続ける。

 

大丈夫。

正解も間違いも、私にはない。

沈黙でも拒絶でも、それが彼の答えだとすべて受け入れよう。

 

閉じていた瞳をゆっくりを開き、目の前に座った彼の姿を捉える。

 

きっと、私の言葉は彼には届かない。

彼の言葉もまた、私を悲しくさせるだけだろう。

 

願わくば、最後まで穏やかな口調で彼と語らえますように。

大好きだと、彼にたくさん伝えられますように。

 

こっそりと、テープレコーダーのスイッチを入れる。

 

 

唇が渇く。

心音が、煩いほど体の内側から響いてきて焦る。

 

(大丈夫、大丈夫。頭が真っ白になったら、メモを見ればいいんだから)

 

今日の日のために、準備してきた今までを思い出す。

 

落ち着け。大丈夫。

 

 

もう一度自分を落ち着かせて、震える声を何とか絞り出す。

 

 

 

 

 

 

「私は・・・りょうくんを苦しめてるのかなぁ」