前回我々は、ゲーテとフリーデリーケが深く愛し合い、町に帰ったゲーテと彼女の間に頻繁に手紙がやり取りされ、彼女の素直な人柄がそのままあらわれた文体・内容と美しい筆跡をゲーテが喜び、彼女の招待を受けて、今度は長く村に滞在し、盛大な饗宴を心から楽しみ、彼女のそば近くにいて限りない幸福をかみしめる若きゲーテの姿を見た。
今回は、饗宴の続きである。
『詩と真実』第三部岩波文庫昭17 p21
食事のあとで、みんなは日陰を求めて、社交的な遊戯がはじめられた。とうとう罰金遊びもするようになった。罰を果たすのに、あらゆる種類のことがすべて極端になって行った。要求される身振り、やって見せる仕草、解くべき問題などすべてに、際限のない無鉄砲な娯楽ぶりが現れた。私自身もいろいろな道化をやってこの無礼講の騒ぎを大きくした。フリーデリーケは、数々のおどけた思いつきをして一座の花形になった。私には彼女がついぞ見ないくらい愛らしく見えた。一切の憂鬱病的な、また迷信的な妄想は、私の心から影を消してしまった。そうして私が心を打ち込んでいる愛人に、真に心をこめて接吻し得る機会が来たとき、それを逃がしはしなかった。ましてやこの喜びを繰り返すことを、思いとまりはしなかったのである。
大勢の若者たちと共に、ゲーテとフリーデリーケは、際限も無く遊びに打ち興じ、歓びと興
奮のるつぼと化し、ついに長い間苦しめられていた、接吻に対する「ルチンデの呪い」が解
ける時が来た。
「一切の憂鬱病的な、また迷信的な妄想は、私の心から影を消してしまった」と。
そうして、心から愛する人に真心を込めて接吻し、それも幾度も幾度も接吻することが出
来た。
ほとんど嫉妬の鬼と化した、半狂乱の美少女ルチンデの心の底からの叫び、
「さあ、私の呪いをおぼえていらっしゃい。私のあとに初めてこの唇(ゲーテの唇)に接吻す
る人には、いつまでもいつまでも不幸がつづく!」
が、重くゲーテの心を抑えつけてきた。その呪詛からついに解放される時が来たのである。
愛する人を、生涯不幸にするこの「ルチンデの呪い」から守るために、抑えに抑えていた熱
き口づけを心ゆくまで味わうことができたのである。
しかし、これによって、フリーデリーケに不幸が襲いかかる、つまり、「野ばら」の嘆
きが惹き起こされることを、この時のゲーテは、知る由もなかったのである。