前回我々は、ゲーテとフリーデリーケが心ゆくまで見事な踊りを楽しみ、その後で、例の静かな広場で心から抱擁し合い深く愛し合うのを見た。
今回は、その続きである。『詩と真実』第三部岩波文庫昭17p22
遊びをやめて出てきた年長の人たちが、私たちを引っ張って行った。晩の軽い食事のときにも人々は羽目をはずした。夜更けまで舞踏がつづき、昼食のときと同様、健康を祝し合うとか、そのほか酒を促すきっかけの座興に不足はしなかった。
私は、やっと二三時間熟睡しただけで、熱した、沸き立つ血のために、眼をさまされた。心配や後悔が、何の備えもなく横わっている人間を襲うのは、こういう場合なのが常である。このとき、私の空想は極めてなまなましい像を描き出した。ルチンデが烈しい接吻をしたあと、激情を高ぶらせて私から後退(あとじさ)りして行き、頬をかっかとほてらせ、火花の散るような眼をしながら、自分の妹だけを威嚇するつもりでいて、しかも罪のない他人をも知らず識らず威嚇している、あの呪いの言葉を口走っているのだ。フリーデリーケが彼女と向き合って立っているのも見える。フリーデリーケは、この光景に身体を硬(こわ)ばらせ、色を失い、自分の全然与(あずか)り知らない呪詛の結果を予感している。私はといえば、その中間に立って、あの不幸を予言する接吻を避けることができないと同様に、この異常な事件の精神的影響を払いのけることもできないのだ。フリーデリーケのかよわい身体に迫ってきた不幸を早めるかに見えた。そうして彼女の、私にたいする愛は、実に禍を孕んだもののように思われ、私は山また山のあなたへ逃れ去りたいと願うのだった。
昼間、ついにフリーデリーケと接吻する機会を得、そのあと心ゆくまで二人で舞踏に没入したあと、例の広場で二人きりで心から抱擁し永遠の愛を心の底から誓い合う二人だった。
軽い夕食の後も、夜更けまで舞踏が続き、やっと二、三時間熟睡する。そして、明け方、眼が覚めた、その時であった。実になまなましく、凄(すさ)まじい幻を見る。
ルチンデが烈しいキスをしたあと、火花の散るような眼で睨みつけながら口走っている。
「私のあとに初めてこの唇(ゲーテの唇)に接吻する人には、いつまでも、いつまで
も、不幸が続く!」と。
彼女と向き合って立っているフリーデリーケは、身体を硬(こわ)ばらせ、顔面蒼白となって、呪詛の結果を予感している。彼女のか弱い身体はこの呪詛にとても耐えられそうにない。
この時、ゲーテは山また山の彼方に逃げ去りたいと願うのだった。