たしかに私は子供を堕ろすつもりだった。
この腹で説得力はないかもしれないけれど今だってこうなった事を後悔している。
たとえばお風呂に入るため裸になる時、強く思う。
このウエストはなんだろう。こんなウエストになる為に生まれてきたのではない。
たとえば足の爪を満足に切れない時、いや、もっと前、つわりが酷くて食べ物が受け付けられなかった時。風邪薬が飲めなかった時。
それより前。
あの時だ。
子供を産むと決めた時。
あの時、そう選択しながらすぐに疑問符がついた。
本当に?
本当に?
私が母親になれるわけない。
そう思いながら日々をやり過ごしてしまった。
そのうち異変に母・律子が気付いた。
相手を絶対明かさないエリに、今度は父・恭一が駆けつけた。
2人ともお互いを責め合った。
あなたが家にいないから・おまえがエリをちゃんと見ていないから。
その様を、エリはテレビドラマのようだと眺めていた。
もしかして知らないうちに笑みまでこぼれていたのかもしれない。
なんで産みたいのか、いくら聞かれても答えられなかった。
「産みたい」
そうとしか答えられなかった。
自分でも答を知りたいくらいだったからだ。
最大の過ちを今から犯そうとしているのかもしれないとさえ思った。
生まれてきた子供を可愛がれる自信がないからだ。
なのになんで産むつもりなのか。
エリが知りたくてたまらない答はまだ見つからない。
それどころか後悔している。
もう引き返すことができないのだ。
今まで表面上だけでもうまくいってきたかのように思えた家族はエリの妊娠でバラバラになった。
恭一は家に寄り付かなくなった。
律子はエリをまるで知らない人間を見るように見つめるようになった。
それは、律子の人生で初めての汚点だったと言える。
ここまでうまくやれてきた。
自分にとって最高の作品であるエリが妊娠した。
誰の子かも分からない。
分かったとて、エリが産む決心は揺らぐまい。
どうすれば父親のいない子を産むのをやめてくれる?
律子の葛藤が始まったところでもう産む他ないところまできていた。
律子はエリを過剰に心配する事でバランスを保つ事を決めた。
両親の前では「産む」と決意を固くしても1人になると腹の子が疎ましくて仕方なかった。
大学を辞め、バイトもしていないエリにとって一定の収入がない中での眞鍋家からの金はありがたいものだった。
この世に子供1人誕生させるためにどれだけの金がかかるか身にしみた。
最近、産んでから返ってくる金もあると知ったのでぬかりないようにしようと思っている。
産んでからの事は正直考えていない。
こんな人間が親になるべきじゃないとも分かっていた。
それでも産む。
それだけ、決まっていた。