「なあなあ、放課後どっか行こーぜ」

吉名が俺に言った。こいつ本当暇だな、明日からテスト週間だぞ。

「テストなんか気にすんな!どっか行こーぜ!」

吉名は俺の腕を引っ張った。


「気にすんなじゃねーよ!」

「いいじゃねーか、暇なんだろ?」

「…ま、まあな。」

肯定してしまった。…俺もこいつと一緒のアホなのか?


「よし、んじゃあゲーセン行こーぜ」

「…おう。…」


吉名と教室を出た瞬間、吉名が消えた。

吉名だけではなく、廊下に居た奴ら、教室に居た奴らもろともだ。


………違う、周りの奴らが消えたんじゃない。…俺が消えたんだ。


それに気づいた俺は、廊下をうろちょろしていると、長身の金髪、ピアスをつけた、世に言う“ヤンキー”のような格好をした美形の男が現れた。


「……なんだお前。」

俺はその男を睨んだ。すると、男はクスリと笑い、「警戒しなくてもいいですよ」と言った。

馬鹿野郎、こんな状況で警戒しないほうがオカシイだろうが。


「此処はどこだよ。…早く俺を返せ。」

「返してほしければ仲間になってください。」

………また仲間か?

「お前、“大和撫子”の回しモンか。」

「お、気づきました?そうです。俺は大和さんの回しモンです。」

「お前らは普通の人間じゃねーのか?何で俺があの場から消えたんだ。此処はどこだ。」

俺はその男の胸ぐらを掴んだ。

ビクリともせずその男は、クスクス笑った。

「いっぺんに幾つも質問しないでくださいよ。」

「ふざけんな!!!早く俺を返せ!!!」

俺は、その男を壁に叩きつけた。それでもその男は少しも顔をしかめない。


「まず、俺達の正体から…。俺と大和さんは、SSPです。名前くらい聞いたことあるでしょう?」

俺は頷いた。

「SSPは代々、裏で暗躍する超能力者なんです。」

…は?

この時点で意味不明だ。

「まあ簡単に言えば、人の心にある邪悪な感情を殺す能力を持っているんです。」

「はあ…?」


「貴方は、大和さんが能力を使っているところを目撃しましたよね?」

「……!」

アレか。……やっぱりあの光は…非現実的なものなのか?


「アレは、あのカツアゲした2年生の心の中にある邪悪な感情…俺たちは通称“悪魔”と呼んでいますが、それを滅していたのです。」

「………」

俺は黙り込んだ。

何が起こったかさっぱりわからない。


すると、その男は突然信じられないようなことを言いだした。


「貴方は、俺たちと同じ、能力者です。」

「!?」

何言ってんだコイツ。

俺は生まれてこの方、一度もあんな非現実的なビーム的なものを出したことはねぇぞ。

「大和さんのあの強力な記憶を消す光を受けてもなおそのことを覚えていて、まったく効き目がない…これは、普通の人間にはありえないことなんですよ。」


…そういや、俺はあの光を浴びた。

“大和撫子”が手から放出したあの桃色の光を…


「斉藤浩樹さん。」

「……なんだよ。」

何で俺の名前を知ってんのかと驚くつもりはない。何故ならもう既に、コイツの口から発せられる非現実的な話に相当驚いて、まいってるからだ。


「貴方は、神に選ばれた。……多くの人の命を救うために、俺たちの仲間になってくれませんか?」

その男は、またニコリと笑った。

…この笑顔は、何故か俺の癇に障る。イライラした。


「……ふざけんな、…俺は、そんな能力なんかねーよ。」

「そうですか?ですが、大和さんの能力を受けてなお覚えている事は事実でしょう?」

「………」

「能力者同士の能力は、まったく効きません。よって貴方は俺たちの仲間―――」

言い切る前に、その男を壁にまた叩きつけた。今度は勢いよく。


「ふざっけんな!!意味わかんねーよ!!!」

俺がそう叫ぶと、その男は手から青色の光を出した。“大和撫子”と同じような光だ。

「なら、死ね。」

さっきまでの温厚な表情とは裏腹に、冷たい目をしていた。

「!!!?」

その男は、俺に光をぶつけた。


―――――殺される…


俺が死を覚悟して目を瞑る……が、痛みは感じなかった。

恐る恐る目を開いてみると、目の前に女が立っていた。


「アホかァ、奏(カナデ)!!!殺す必要なんかないやろーが!」

ポニーテールで、赤茶色をした女は、これまた“大和撫子”と同じように光を出して男の攻撃をカバーしていた。

こんどは、オレンジ色か…

「そうですか?俺たちの秘密を知っているなら殺したほうが身の為かと。」

「だからって殺さんでもええやろ!」

ポニーテール女がそう叫ぶと、男もやっと攻撃していた手を下ろした。


…この女も、“大和撫子”とこの男の仲間なのか…?


「怖がらせて悪かったなあ、1年坊!別に脅かしたいわけちゃうねん。この学園のために貢献してくれんかなあって思て、スカウトしてるだけや。」

ポニーテール女はニカッと笑った。よく見ると、コイツも結構整った顔立ちをしている。

“大和撫子”とはまた違う意味での美人だった。

「…いや、…それより、俺はそんな能力使ったことなんてねーよ!」

「それは、まだ自覚がないからで…直に使えるようになるわ。」


「あたしの名前は、“威風やえ”ゆーねん!こっちの腹黒男は、“東條奏(カナデ)”や!」

「誰が腹黒男ですか。」

その男もとい東條さんは、威風さんを睨んだ。

「…どう?やってくれへん?」

威風さんは、俺に両手を合わせてお願いしてきた。


「急にそんなん言われてテンパる気持ちもわかんねん!でも…邪悪な心を目覚めさせてしまう“悪魔”が人の心に憑依すると、そのうちその人の心を蝕んで、殺してしまうんや!頼む!!!」

「…………」

そんなこと言われてもな………




「お願い、……お給料あげるから、SSPに入って?」

「入ります。」


俺は、その言葉に即答した。


まず何から話せばいいのやら。

よし、まずは俺の通っている学校の仕組みから話そう。


俺の通っている学校、正義町学園(変な名前だろ?)には、“SSP”という、どこかの会社のゲームのような名前の、不思議な生徒会がある。

その生徒会は、主に、生徒間のイジメを粛清したりする、先生よりも身分の高い組織だ。


そうだな、俺がペラペラ喋るより、実際にその現場を見たほうが早いだろうな。



それは、ある日の昼休みだった。







―――――とある日の屋上。


「なァ…今日幾ら持ってんの?」

「私ら金ないんだあ…貸してくんない?」

見るからにガラの悪そうな女性の先輩が、1年生の女の子を取り囲んでいる。

世に言うカツアゲだ。俺も実際初めて見た。


ちなみに俺はそのころ、屋上でカツアゲ現場を見ながら隠れて昼飯を食っていた。

見つかって俺も絡まれちゃかなわねェからな。


すると、……突然どこからか美人が現れた。




「あなたたち。」

颯爽と現れたそいつは、黒髪の長髪、白い肌、大和撫子という言葉を絵に書いたような女性だった。

「げっ…大和撫子!!」

…ん?大和撫子?


「私の名前を知ってるって事は、もう覚悟は出来ているんでしょ?」

(大和撫子って名前かよ!)

俺は心の中でツッコミながら、コソコソと影から覗いていた。


「…許して、お願い!!!」

1年生の女生徒をカツアゲしていた先輩が、急にしゃがみ込んで泣き出した。

「私の正義町学園で、イジメは許さないわ。」

そう言った瞬間、“大和撫子”は、手から何か解らん赤色光を出したと思うと、急にその光を先輩にぶつけた。


「ぎゃあああああぁぁ……」

先輩は急に叫んだと思うと、その場に倒れこんだ。

「香織!!」

もう1人の先輩が、倒れこんだ先輩に駆け寄った。

「アンタ、香織に何したのよ!!」

先輩が、“大和撫子”に叫んだ。


「別に、その女は死んではいないわ。気絶してるだけ。もうその女に、カツアゲをするような邪悪な心は微塵も残っていないだろう。」

そう言った“大和撫子”は、そのもう1人の先輩にもさっきの光を手から出し、ぶつけた。

さっきと同じように、悲鳴をあげながら倒れこんだ。


「………!?…」

俺は、目の前の光景が信じられなかった。

なんであんなSFとか、魔法少女みたいな、ビーム的な光が人間の手から出るんだ?

まったく意味が解らない。



「あ…・あ…」

カツアゲされていた1年生が、涙を流しながら、俺同様にこの光景が信じられないのか、気絶してしまった。

「………」

それを見た“大和撫子”は、その1年生に、さっきとは違う桃色の光を出し、まわりに放出させた。

その光は、俺にも当ったが、叫ぶほど苦しくはなかった。むしろ、どこか落ち着く感じだった。


「…そこに誰か居るのか?」

“大和撫子”がこっちを見た。やべえ、と俺は奥へ隠れた。

「……私の能力をくらっても効果がない奴が入学してくるとはな。」

“大和撫子”は当然こちらに気づき、俺を奥から引っ張り出した。


「……なんだ、今度は俺を殺すのか?」

「殺す?バカな事を言うな。私はただ、粛清しただけだ。あいつらは死んでなど居ない。それより――」

次の発言で、俺の花の高校生活は、地獄のようになってしまうのだった。


「貴様、私達の仲間になりなさい。」

「―――――はァ?」


俺はその時、さぞかしマヌケな顔をしていただろうな。

マヌケな俺の声が、屋上の空に響いたのだった。




ありえない。




風通りのいい屋上で飯を食ってて?

カツアゲ現場を見て?

いきなり、超能力みたいなのを使った女が現れて?

仲間になれって?


ふざっけんな。俺の高校生活を何だと思ってやがる。

俺は絶対そんな怪しげな奴の仲間になるなんて、御免だからな。





-次の日 教室-


「え?変な女?」

俺は、どうしてもあの怪しい女が気になったので、中学からの友達の吉名に聞いてみた。

「ああ…いねーか? “大和撫子”って女。」

「あー、知ってる知ってる。で、その“地味女”がどーしたんだよ?」

「…え?地味女?」

俺は硬直した。あれほどの美人が、…地味?


「だって、大和撫子って奴は、メガネでおさげでスカート丈長くてガリ勉で、彼女にしたくないランキング1位だった大和だろ?」

彼女にしたくないランキングってなんだよ。そんなもんが開催されてんのか。

…そんなことはどうでもいい。

でも、俺が昨日見た“大和撫子”はメガネはかけてないし、おさげでもないし、スカート丈もそれなりに短かったはずだ。

それにあのルックスなら彼女にしたいランキングで1位を取れそうだ。


「オイ、浩樹!その地味女がどうしたんだって聞いてんだよ!」

ボーっとしていた俺に吉名が叫んだ。

ちなみに浩樹というのは俺の名前。フルネームは斉藤浩樹。今年から高校一年生だ。

「…いや、…やっぱいいや。うん。」

「何だよ、せっかく教えてやったってのによ!」

吉名は口を尖らせた。んなことしたって可愛くねーよ!


「オイ、そういや…俺、卒業した兄貴に聞いたんだけどな。」

「?…何だよ?」

俺は首をかしげた。すると、吉名が俺の耳元で、「SSPっての…知ってっか?」と言ってきた。

「SSP?」

そのころの俺は、そういう類には疎く、クラスの奴の名前も満足に覚えていない状態だった。

まあ、4月だしな。


「SSPって何だよ?」

「SSPってのは、スペシャル・スチューデント・ポリスって意味だ。」

「…なんだそのネーミングセンスは。一体どこの悪趣味が考えたんだ?」

「オイオイ、あんま文句言うな。粛清されっぞ。……SSPってのはな、この学園の生徒会兼イジメ撃退部隊だ。」

「イジメ撃退…」

俺は、昨日の光景が目に浮んだ。あの女、粛清がどうとか言ってたような…

「でな、その生徒会は3人居て、みんな変な力を持ってるらしーんだ。」

「!!!!」

間違いない。吉名の話が本当なら…“大和撫子”はSSPだ。

俺は確信した。


「どんな力使ってんのかは知らないけど、その事件に関わったやつらは、変な光を浴びせられて記憶がなくなっちまうんだとよ。」

記憶がなくなるのに何で御前は覚えてんだよ。

「遠目で見たやつが居んだよ。………まあ、全部噂だけどな!」

吉名はそう言って笑い飛ばした。



すると、教室のドアがそろそろと開いた。

ドアのほうを見ると、―――吃驚するほどの地味女が立っていた。

オロオロと自分の席まで歩くと、すばやく座り、本を読みだした。


「あいつが大和撫子だ。」

吉名が地味女を指差した。

「え、アイツがか!!?」

「おう。同じクラスだったんだけど…知らなかったか。」


……あの時の“大和撫子”とこの地味な“大和撫子”は…同一人物なのか?

…でもその割には地味すぎるな…。



俺は、あんまり深く考えないことにした。

考えるだけ時間の無駄だ。


あの時の“大和撫子”から出ていた光は、きっと、鏡か何かを持ってて、太陽の光が反射しただけだ。

カツアゲしていた2人の先輩が悲鳴を上げて倒れこんだのは、…地面を這っていたナメクジか何かを踏んづけたんだろう。

きっとそうだ。あんな非現実的なことがあってたまるかボケ。


俺はそう自分に言い聞かせた。



そんな……漫画やアニメじゃあるめーし。


俺が溜息をつくと、それと同時に予鈴が鳴った。