5月21日。
老健でテルコさんを見送って帰宅するとまもなく、葬儀社から電話。
葬儀について打ち合わせをしたい、と。
ところが、仕事の後の夜間を打診するも、日中に限るとのこと。
それだと昼休み時間しかない。昼休みは1時間。なのに「1時間以上かかる」という。
えぇーーーっ!?
大体の葬儀社、「24時間いつでも受け付けます!」みたいに書かれている。
確かに、葬儀社の窓口は、24時間営業だ。
なんというか、この業界は時間なんて関係ないものだと思ってた。
まさか、打ち合わせは日中だけなんて・・・・
ま、夫には仕事の時間になったら途中で退席してもらって、残りは私が応対しよう。
ーーー
ちなみにだけど、これ、みんなどうしてるの?
葬儀の打ち合わせを進めないと、火葬場の予約とか葬儀の日程とか決められないわけで、つまり急いで決めなきゃならないわけで、なのに「日中だけ」と言われても、普通に仕事を持っている人、不可能だよね?
これが会社員なら、会社が許可すれば休みは取れるかもしれない。
ま、会社が許可したとしても、実際の仕事の進行の上で「休むわけにはいかない」という現場の事情があることも、元会社員として経験しているけど。
なんつーか、会社員って会社が許可してくれれば、責任は会社が負ってくれるから、ある意味自由。
雇われの身って、不自由そうで、実は自由を得る権利があるんだな。
自分でやってると、許可の必要がない代わりに、すべての責任を負わなきゃならない。
「家族が死んだ」というだけで1日プライベートな時間を得られるなんて、あり得ない。
顧客に「家族が死んだので」なんて言えないもん。顧客には「家族が死んだ」なんて関係ないんだもん。
ちょっと話は違うけど、25年前に家を建てたとき、ハウスメーカーの人は夜に来てくれたよ。
契約や設計などの打ち合わせは、全部、会社から帰ってきてからの夜間で対応してくれた。
保険屋さんも、夜間対応してくれたなぁ。
なのに、、、葬儀社はなぜ日中だけ??
人の死なんて24時間いつでも起こるし、葬儀や火葬はそれなりに急ぐ必要があるものなのに、その打ち合わせは日中だけって、なーんか不思議な感じがするわけよ。
ーーー
葬儀社との打ち合わせの前に、まずは菩提寺の予定を確認しなくては!!
最短で、5月25日(土)か26日(日)。
この土日が無理なら、6月1日(土)か2日(日)。
もうこれ以上は、土日にこだわって日を延ばすわけには行かないだろう。
平日で私が可能な日程で手を打つしかない。
「土日は法事が多いんです。
25日は午前、午後も埋まっています。その次の週も週末はどちらも一杯です。
26日でしたら、午前中の早い時間なら可能です。遅くとも現地を11時半に出なくてはいけないので、もしかしたら火葬場までご一緒できないかもしれませんが・・・・」
おぉ、26日!!
ぜひその時間でお願いします!!
ーーー
さて、葬儀社との打ち合わせ。
まずは、葬儀日程。
こちらから住職の回答を伝える。
この住職の「11時半までに終了」という予定に合わせて、逆算するように火葬場の予約をして、さらに逆算して葬儀の時間が決まり、さらに逆算して集合時間が決まっていく。
「火葬場が混んでて、なかなか予約できない」とあちこちから聞いていたので、26日の午前中に葬儀ができるかどうかは火葬場次第と不安だったが、無事に10時火葬の予約が取れた。
ここまで決まってしまえば安心。
ところが、、、ここから怒涛のアップセルが始まる。
「お客様にお選びいただいたのが、このシンプル一日葬プランですが、、、、
まずですね、棺はどうされますか?
基本のものですと、普通の白木の棺なんですが、オプションで模様の入ったものにも変更できます。こちらは●万円プラスになります。」
はぁ・・・棺かぁ・・・
特にこだわりはない。
誰に見せるわけでもないし、機能自体も変わらない。
普通の白木の棺でも、なんらみすぼらしいわけでもない。
「はい、普通の白木の棺で大丈夫です。」
「かしこまりました。
では次に骨壺ですが、どうされますか?
基本のものですと、このような白い陶器の入れ物になります。
オプションにしますと、このようにピンクだったり、青だったり、あるいは金の装飾がついたりといったものがあります。」
はぁ・・・骨壺・・・
むしろ、色や装飾がついた骨壺なんて見たことなかったわ。
ってか、骨壺を見る機会って、火葬場で骨を入れる時だけですよね?
あとは白い布で覆われた箱に入れちゃいますよね?
「我々にとってはそうですが、故人様にとっては、この先ずーーーーーーっとこの骨壺と共に過ごされるわけです。
ですから、例えば故人様のお好きな色にすることで、より心地よく過ごされることを願う、そういったご家族様もいらっしゃいます。」
はぁ・・・
そういうセールストークね・・・
いや、普通の白い壺でいいわ。
「かしこまりました。
では次に棺に入れるお花ですが、どうされますか?
基本のものですと、故人様のお顔まわりだけになります。
オプションにしますと、お顔まわりにもう一回りお花が増えます。こちらが●万円です。
さらにこちらのオプションにしますと、全身にお花が敷きつめられます。こちらが●万円です。」
はぁ・・・花・・・
どうせ燃やしちゃうんでしょ、と言ったらあまりに味気ないが、実際そうだ。
花が多いからといって、機能的には何も変わらない。
要するに、家族が「どうしたい」という思いの問題だけだ。
ま、基本のままでいいよね。
「かしこまりました。
では次に祭壇横の供花ですが、どうされますか?」
はぁ?? それ、なんですか??
「『兄弟一同』とか『子供一同』とか、、、そういったものが出される可能性はありますか?」
ないです。
「本当にないですか??」
本当にないですかって・・・どういう意味ですか?
「例えば、故人様のご兄弟から『兄弟一同』という花が出されたり、あるいは故人様のお子様から『子供一同』、あるいは故人様のお孫様に当たる方から『孫一同』、あるいはご親戚から『親戚一同』というお花が出される可能性はありますか?
もし、出される可能性があるなら、親戚から出されているのに喪主から出ていないとちょっとマズイです。また、できれば祭壇の左右の数が同じ方がいいので、その数合わせのために喪主で1つ出したりします。
ちなみに、こちら1つ●万円です。」
あぁ、そういうことですね。
だったら、誰からも出ないです。
「本当にないですか?
万が一、予想外に出されてしまうと、、、」
はい、大丈夫です。
ぜーーーったいに可能性ないので。
(だって、、、葬儀のお知らせをする相手がいないんだもん)
「かしこまりました。
では次に棺の上に置くお花ですが、どうされますか?」
はぁ?? それ、なんですか??
「火葬場でいよいよ炉に入るというとき、棺の上にお花を置いてお送りすることができます。
棺だけで炉に入るより、お花があった方が見た目が華やかになります。
こちら、基本プランには入っていません、オプションで●万円になります。」
はぁ・・・・そこまで・・・・
そこまで・・・・売上のチャンスを狙うのか??
もう、、、笑いさえこみあげてくる。
はい、お花は不要です!!
ーーー
この
「かしこまりました。
では次に・・・・」
が、これでもか、というほど続いた。
長かった、長かった、うんざりするほど長かった。
アップセル地獄だった・・・
そりゃあ、打ち合わせに1時間以上かかるのも頷ける。
もちろん、基本プランの内容一択より、選択肢があった方がうれしい人も多いだろう。
「こうしたい」「ああしたい」と葬儀にこだわる人もいるだろう。
だったらさ、、、そもそもこんなシンプルな格安プランを選ばないでしょ!!
とつっこみたくもなる。
なんか・・・そのオプションというものが、家族のためというよりも売り上げのためという印象を受けたのは、私だけだろうか??
前夜、老健にテルコさんを見舞って、その数時間後に死亡の知らせを受けて再び老健に行き、さらにその数時間後に搬送のために老健に行き、、、夫も私も寝不足で疲れていた。
そんな長い話に付き合えるほどの、根気や集中力もない。
ま、そういう判断力が鈍っている時、そして「1つ1つ判断する時間がない」というバタバタ状態も相まって、数々のアップセルにYESと言ってしまうのを狙っているのは間違いない。
これは、ビジネスの鉄則だ。ビジネスではこれをチャンスと言い、そしてこれを逃す手はないのだ。
特に、故人に対して「こんなことをしてあげられなかった」「もっとこうすればよかった」という後悔や罪悪感があったりしたら、そういうオプションで帳消しにしたいという深層心理が働くわけで、それを利用してアップセルできるのだ。っていうか、その場合は、家族にとってもオプション追加は罪滅ぼしのチャンスにもなってるかもしれない。
しかし、、、家族を失って半日も経ってないというのに、このアップセル地獄。
えげつない・・・
オプション1つ1つは、1万円〜10万円くらいだけど、あれもこれも追加していくと、積もり積もってすごい額になると思う。
そして、私たちは基本プランそのまま、オプションなし、で見積もり書をお願いする。
(見積もりといっても、基本プランそのままなので料金はわかってるが)
誤解のないように加えておくと、、、
目の前にいる、その葬儀社の人そのものは丁寧な方だった。
彼は、あくまでも会社の手順に沿って打ち合わせをしているだけだ。
彼を責めるつもりは全くない。
葬儀参列の経験はかなりある私でも、喪主ははじめて。
だから、知らないことはたくさん。不安なこともたくさん。
そのあたりは、葬儀社の方にいろいろ質問&相談させていただき、的確にアドバイスいただけた。
すべて終わったタイミングで、〆の雑談をしていると、
「あ、そういえば、、、
あの・・・最後に1つお願いがございまして・・・・
会員に登録していただけないでしょうか。
会員登録に●円かかりますけど、今後の葬儀に関しては5万円の割引をさせていただきます。」
しかし・・・もう葬儀の予定はしばらくないんですよね。
「大丈夫です!
こちら期限はありませんので、いつまでも、未来永劫5万円引きになりますので。
それに、2親等まで適用されますので、登録されておくとお得かと思います。」
おいおい、、、、
アップセル地獄の〆はクロスセルかよ!!
ビジネスとしては正しい。キホンのキってやつだ。
正しいが、、、露骨すぎると辟易するぞ。
さすがにね、すぐに会員登録はしないよ。
だってさ、葬儀はまだなんだよ。
この葬儀社のサービスに満足するかどうかもわからんのに、登録しないでしょ。
そして、いくら未来永劫5万円引きって言われてもね、利用する可能性ってどれほどよ。
家族・親戚の中で、年齢的な順番でいけば、
・夫の両親
・私
・夫
・長男
・次男
・長女
あとは、将来的に子供が結婚したり、子供が生まれれば、ここに追加される。
夫の両親については、富山県の実家の方が主体となってやってくれるだろうし、そもそもまだ20年は先のことになりそうだ。
私はあと50年生きる予定。
というか、最低でも夫を送ってからにする。だって、妻に先立たれた男の末路は悲しいもん。
ってことは、夫のほうが先になるとしても、彼は私より10歳若いから、平均寿命を考えてもあと40〜50年ある。
そして、、、、私の子供たちについては、もちろんもっともっと先だ。
という状況で、いくら「未来永劫」と言われても、、、
ってか、その会社は未来永劫存続するのか??
会社の存続率って、設立して3年で65%、10年で6.3%、20年で0.39%、30年経つと0.025%といわれている。
この数字を見て、40年後、50年後に5万円引きが使える可能性を感じますか??
私は感じません!!!
ーーー
ま、アップセル地獄はいいとして(正直うざいが、ビジネスとしては正しい姿勢なので)、葬儀社というのは仕事が早いよね。
あっちゅう間に火葬予約と式場確保。
助かります!
35年前、父は病院で亡くなったのだけど、霊安室に運ばれた瞬間に、病院契約の葬儀社さんに声をかけられた。
大きな病院だから、常に葬儀社さんが待機しているのだろう。
当時は、葬儀にいろんなオプションなんてなかった。
松・竹・梅みたいに3段階の値段があって、「じゃあ、、、この真ん中ので」といかにも日本人らしい選択をしていた。
それだけ。
それだけで、葬儀はOKだった。
父は一部上場企業の取締役をしていたし、趣味などでの交友関係も広かったので、あちこちへの連絡だの手続きだのが、それはもう、たいへんだった。
こんな中、葬儀のオプション選択に1時間以上なんて、、、、負担が大きすぎるよ!!
選択できるって素晴らしいことだけど、うれしいと感じるか負担と感じるかはさまざまだろうね。
絶対的にどちらがいいとは言えないが、だからこそ、お客様の反応をみて対応を変えるというのが大事だと思うのよ。
葬儀へのこだわりや故人への思い入れを感じたなら、オプションは丁寧に説明する。
葬儀はシンプルにしたい、打ち合わせは簡略化したいという人には、オプションは軽く案内したり、「もし必要な場合はいつまでに連絡をください」と資料を渡せばいい。
こういう顧客反応に基づいた柔軟さ、会社では教えてくれないのですかねぇ・・・
打ち合わせに来てくれた「ディレクター」という肩書の方、見たところ推定40代後半。
40代でこれって・・・大丈夫ですかね(ちょっと辛口ですか??)
ーーー
ということで、無事に葬儀の日程が決まりました。
この日は、どどどーーーーーっと疲れました。