英文を読む時のポイント
川端康成の雪国、その英訳の出だし
The train came out of the long tunnel into the snow country.
この英文を「逆翻訳」して日本語に直すと、以下のようになる。
「列車は長いトンネルを出て雪国へ入ってきた」
原文とは似ても似つかぬ変わりようである。
…と、こう書いた方がいましたが、これを読んで今回のテーマが閃いた
英語にもオチをつける効果がある。
いちいち日本語に訳しながら読むわけではないので
やはり後に来たほうがいい言葉もある。
原作は、「国境の長いトンネルをぬけると」で読者の期待をあおり、
「雪国だった。」というオチをつける。
作者が狙っているのは、読者の頭の中の視覚的効果だ。
暗闇を想像させてから、パッと白い世界を表す言葉。
この効果を狙う。
英語でも同じ事。
英文の流れの美しさを保つためだけでなく、
先にもっていきたくない言葉ががたくさんある。
無理な和訳でつまらない作品にしてしまわず、
なるべく英文の順序どおり読むことを勧めるのもこのせい。
そうした効果が必ず隠されているし、いい作品はこうした文章の連続。
悪例として対比させるためだろうが
この方は和訳をことさらつまらなくしている。
入学試験の解答例のようだ。「入って」も余計。
それを「似てもにつかぬ」というのは、少しムチャな話。
ワシもこの英語での書き出しが特にうまいとは思わないけど。
ノーベル文学賞様と無冠の翻訳家。表現力までは翻訳できないかも。
英文の順序どおりに訳せば、
「汽車は出てきた、長いトンネルから雪国へと」
そのままだけど、この方がまだましな気がする。
読者は無意識に一瞬、「どこから?」と問いかける。
そこに答えが来る。「長いトンネルから」
そしてボーナス的に「雪国へと」が現れ、
「わ~」っと思う仕掛け。この間1秒もない。
しかし、それが連続すると楽しい。
万事こううまくはつながらないかもしれない。でも頭で分かっていれば、
わざわざ日本文に訳しながら読み進める必要はない。
そのうち、英語で読んだままで感動するようになる。
ぜひ英文のコラムや本を読む時に、気をつけたいポイントです。
英文を書く時も同じ事。
There was a big earthquake when I was little.
When I was little, there was a big earthquake.
この2文は同じように和訳されてしまうかもしれないが、効果は変わる。
「最初に自分が小さかった頃」と言って惹きつけてから、ドンっと、「地震があった」というか、
「地震があった」と言ってから、説明注釈的に、「私が小さかった頃」と言うかで変わる。
何が変わるかと言うと、効果だけではなく、次に来る文も変わる。
相手の期待や疑問の中心が変わるからだ。
だから最後に来る単語、たいがいそれは名詞か副詞だが、それに気をつけたい。
難しく考えることはないけど、ちょっと頭の隅に知っとくと、
どう書こうか迷った時の助けになるかも。
最初の文を書いた方のために言っておけば、わしなんか足元にも及ばない英語力のある方。
その方も視覚的な意味に言及しているし、この翻訳について他に批判的なことも言っていない。
ただこの作品の書き出しに対する思い入れが、読んだことがない人たちと同じくらい大きいこと。
つまりこの作品は、今では書き出しがいいってことばかり有名になっている気がします。残念。