「寄り道って言葉、いいですよね?なんかちょっとワクワクしませんか?」
うん、ワクワクする。
だから、この店に入っちゃったんだよ。
寄り道にはワクワクが付きもの!
しかも、この店は見た感じ、ぼったくりでもなさそうだし。
お店の人はイケメンだし!
おいらが、うんうんとうなずくと、お店の人がさらににっこり笑う。
マイナスイオン、放出って感じ!
「じゃ、今日はゆっくり寄り道を満喫してください。」
そう言って、作ったお酒をマドラーでクルッと回す。
「ジンライムです。どうぞ。」
おいらの前に置かれたコースターには花の絵が描かれてて。
真っ直ぐに伸びた蓮の花の絵。
コバルトグリーンのコースターの上に透明なお酒が置かれる。
氷と一緒に入ったライムのグリーンがキレイ。
右手で掴んで光に翳してみる。
キラキラ氷が輝く。
口に含むと爽やかなライムの香が広がって、少し苦いお酒の味。
なのに甘味もあって飲みやすい。
「美味しい。」
思わずそう言うと、爽やかイケメンが、これ以上ないくらいに爽やかに笑う。
コバルトグリーンの海みたいな笑顔!
コースターと一緒!
「気に入っていただけてよかった。」
ああ、やっぱりマー君に似てる。
優しくて穏やかで、安心できる居心地のいい感じ。
そんなイケメンが作るお酒は、ちょっと高校時代の恋に似てる。
切なくて酸っぱいのに、どこかほんのり甘くて苦い。
「このお酒、何が入ってるんですか?」
「簡単なのでお家でもできますよ。ジンと……。」
イケメンが話始めるとスマホが震える。
チラッと見るとショウ君で。
「どうぞ。」
スマホに出てくださいと笑顔が言ってくれる。
「すみません。」
おいらはスマホを開いて耳に当てるとショウ君の声。
「サトシ?遅くなる予定だったんだけど、早く終わった。打ち合わせは終わった?」
「終わってるよ。今はイケメンとお酒飲んでる。」
爽やかイケメンに目配せすると、照れ臭そうに笑い返してくれる。
「イケメン!?お酒!?どこ?どこにいるの!?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。お酒美味しいよ!」
「いいから、どこなの!今すぐ行くから!」
「ここ?ええ~っとね……。」
爽やかイケメンが、お店の名刺を差し出してくれる。
目だけでありがとうを言って、名刺の住所を伝えると、復唱して電話を切るショウ君。
新橋からだとどれくらいで着くかな。
ショウ君を待つお酒っていうのもいいね。
スマホを置いて、ジンライムを飲むと、爽やかイケメンがグラスを磨く手が見える。
長くてキレイな指。
こういう手もいいな。
ショウ君の手もキレイだけど、それより少し骨っぽい。
中指の根元の骨の感じがいい。
「お友達がいらっしゃるんですか?」
「あ、いえ……。」
ジンライムをもう一口ゴクリと飲む。
「大事な人です……、おいらの。」
ちょっと恥ずかしくて、下を向いてお酒を飲むと、
イケメンがコースターの横にナッツをおいてくれる。
「カクテルには言葉が付いてるんですけど、ご存じですか?」
「え、知らない。このお酒にも付いてるの?」
「はい。色褪せぬ恋。ジンライムに付いた言葉です。」
イケメンと目が合って、思わず笑顔になる。
今のおいらにピッタリのカクテル。
高校時代から変わらぬ恋心。
ショウ君への想いは全然色褪せてなくて。
むしろもっと鮮やかになっていて。
電車の中でも走ってるショウ君が、フッと頭を過る。
あ、そうか。
イケメン×お酒!
ショウ君、だから慌てたのか!
言い方がまずかった!
おいらの表情を見て、イケメンがニコッと笑う。
「いい顔をしてらっしゃいます。」
いい顔?
ショウ君を待つ顔ってこと?
「色褪せない恋をしてらっしゃるんですね。」
照れ臭さも混じって笑うと、イケメンの笑顔もさらに大きくなる。
顔中で笑うっていいね!
「ジンライムのレシピ、続き入ります……?」
「あ、お願いします。」
ショウ君にもこのお酒、飲ませてあげたい!
家で一緒に飲めたら、最高じゃん?
おいらはスマホを開いてメモにする。
「ジンを40mlと……。」
「40ml?」
そんなの計れるかな?
計るものある?
「あ、じゃ、大匙3杯弱?」
「大匙って、料理のレシピみたい。」
「ひゃひゃひゃ、そうですね。」
二人で笑い合うとスマホが震える。
イケメンの目がどうぞと言ってくれる。
ショウ君に慌てなくて大丈夫って伝えてあげないとね!
タイムカプセルシリーズのサトシ編