カイト 上 | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。



彼は奇妙な安堵感を覚えていた。

郷愁にも似た、不思議な安心感だ。

きっとこれは夢なのだろうと思った。

でも、夢なら……もう少し覚めないでくれとも思った。

それくらい居心地のいい笑顔だったのだ。

店主はふにゃりと笑った顔を崩さず、彼に一冊の本を手渡した。

彼がいつも古本屋で感じる、ホコリと古い匂いはもちろんしたが、

それでもその本は、魔界の扉を開けるような、一種独特の感覚は持っていなかった。

彼は常々思っていたのだ。

古本屋の本には魔力と言うか、魔薬のような何かが染み込んでいて、

不用意に触ると、どこか違う世界に連れていかれてしまうのではないかと。

その感覚は大学生になった今でも健在で、古本屋だけでなく、

図書館の誰も手に取りそうになり、古ぼけた本にも手を出すことはなかった。

彼は、手渡された本の表紙をそっと撫でてみる。

指の隙間からタイトルが見え隠れする。

「あなたが探していた本はきっとそれ。」

店主がまたふにゃりと笑う。

彼は本など探していなかった。

でも、店主が言うのだから、きっと探していたのだろう。

彼は本を胸に抱き、店主に向かってニコッと笑った。

まるで子供の頃、欲しかったサッカー選手のユニフォームを

父に買ってもらった時のように。



彼がその道を歩いていたのは偶然だった。

大学から最寄り駅までバスで通っていた彼は、目の前を過ぎるバスに、

走るのを諦めて腕時計に目を向けた。

次のバスがやってくるのに20分はかかる。

そこからバスに乗って10分。

駅まで歩くのと変わらないのじゃないか?

そう思い、いつもはバスで通る道を、てくてくと歩き始めた。

彼はよく友人からせっかちだと言われるが、自身はせっかちではないと思っている。

ただ単に合理的に考えているだけだ。

時間も物も合理的に使いたい。

時間配分を考えて、無駄なく物事を進めたい。

ちょうど定期も切れていた。

同じ時間がかかるのに、お金がかかるかどうかは、彼に取って小さな問題ではない。

健康な肉体を持ち、かつあまり自由になるお金を持ち合わせていない大学生なら、

当然の選択だ。

たかが200円程度と言えど。

そんな気持ちから歩き始めただけだったのだが、

バスから見下す風景と、歩きながら見る風景では見える景色が違うことに驚く。

縁石に沿って生えている雑草や、生垣の隙間から見える洗濯物、

庭の隅の朽ちた小さな犬小屋。

そういった物はバスからでは見えない。

バスから見えるのは、店の看板や歩道橋、電線、遠くに見えるビル。

そういう物も、もちろん風情はあるが、

日頃目に入らない縁石の雑草たちに懐かしさを覚える。

小学生の頃、よく取って帰ったのを思い出す。

今日は見かけないが、ねこじゃらしやぺんぺん草はお気に入りで、

見つけると必ずと言っていいほど手にして帰った。

玄関に溜まる雑草を見て、弟や妹はしないのにと、よく母に怒られたものだ。

それがきっかけで、玄関掃除は彼の担当となった。

「そんなこともあったな。」

ポツリとつぶやき、ふと思う。

駅の方向はわかっているのだから、近道ができるのではないか。

バスは最短ルートで駅に向かっているわけではない。

近道できれば、思ったより早く駅につけるかもしれない。

彼は住宅街の細い路地に入って行く。

彼にとって、この先は未知の世界だ。

初めて通る道に、ワクワクしている自分に驚いた。

子供の頃は毎日違う道で帰っていた。

それこそ、通らなくていい柵を乗り越え、ズボンを破いて母に怒られたり、

ノラ猫を追いかけて家に帰れなくなったこともあった。

今となっては懐かしい思い出だ。

いつから冒険することをやめてしまったのだろう。

合理主義があだとなったか。

路地は狭いが自転車が通れるほどの広さはある。

向こうから人がくれば、嫌でも目が合うが、こちらに向かってくる人影はない。

彼はゆっくりと周りを見まわし、目を細めて軒先を眺めた。

大きな木が枝を伸ばす所もあれば、かつては勝手口だったのだろう、

下草の生い茂ったドアもある。

勝手口からこの家の母親が顔を出し、黄色い帽子を被ったランドセルの子供が、

嬉しそうに家に入って行く姿が目に浮かぶ。

きっとそんな時もあったに違いない。

勝手に想像し、クスッと笑う彼の目の前に、少し変わったドアが現れた。

全面がガラス張りで、一見して店だとわかるが、左右半分くらいシャッターが下りている。

ドアの前には陽に焼けた本がカゴに入って置いてあり、

その上に10円とかかれた段ボール紙が乗っている。

古本屋か。

彼は、そっとダンボール紙の下の本を一冊手に取ってみた。

昔読んだ覚えのある少年漫画だ。

懐かしさにパラパラと捲り、好きだったシーンはどこだったかと探したが、

見つけることはできなかった。

違う巻なのかもしれない。

そう思い、彼は店のドアをガラガラと開けた。









よろしくお願いしま~すm(__)m