『例えば僕が、魚みたいに大海を泳げて、
サメやクジラに負けないくらいの俊敏さと大きさが備わっていたとしても。
僕はきっと、小さな魚のように君に釣られてしまうんだろう。
例えば僕が、鳥のように空が飛べて。
鷲や鷹のような鋭さと力強さを持っていたとしても。
僕はきっと可愛い小鳥のように、公園で君の手を突(つつ)くんだろう。』
なんて、センチな詩を思い出したのは、きっと久しぶりにあなたから届いたラインのせい。
あなたから届いたラインはたった一言。
『元気?』
これだけ。
それだけで心が浮き立つのは、それがグループラインじゃなく、俺宛てだったからかな。
「元気だよ。」
声に出して答えて、そのまま同じ文を返信しても、なかなか既読はつかない。
夜中だったから、送ってそのまま寝ちゃったのかな、なんて思って、
俺も蒲団に入った午前1時過ぎ。
既読と返信が気になって、なかなか寝付けないでいたら、ピコンとスマホが光った。
考えてみたら、そりゃ返信に困るよね。
安否確認はできたし、それ以上は……要件がなければ続かない。
『翔ちゃんの番組、見てるよ』
ふふふ、見てくれてるんだ。
「ありがとう。」
『翔ちゃん、頑張ってたよ、バク転ももうちょっと!』
「あはは、あれ、もうちょっとに見えた?」
『この歳でチャレンジするのがさすが翔君!』
あはは、翔君になった!
久しぶりに聞いたな。
智君からの翔君。
あ、聞いてないか、見てるのか。
「そっちはゆっくりできてる?」
『まぁ、ぼちぼち』
ああ、やっぱり。
自分のことは話してくれない。
すぐ蓋しちゃうんだよな。
こっちは聞きたくても聞けなくて、モヤモヤしてるってのに。
『明日、空いてる?』
明日?
「昼にジムに行って、夕方取材が入ってるけど、夜なら空いてるよ。」
夜は友達とご飯でもって言ってたけど、そっちはなんとかなる。
このご時世、店の予約もできないしね。
『じゃあさ、飲まない?』
お、智君から誘ってくれるなんて珍しい。
てか、嬉しい!
「もちろん!」
でも、夜やってる店ないからな……。
「俺んちでいい?」
既読は付いてるけど、返信が止まる。
家に呼ぶのはまだ早い?
休止に入って……俺らの関係も休止を迎えた。
そう話したわけじゃないけど、智君が自分を見つめ直したいなら、
その為の時間は必要に違いない。
それを俺が邪魔するわけにいかない。
邪魔したくない。
そう思ったから、俺からの連絡は極力やめてる。
もちろんグループラインは継続してるけど。
グループと、俺と智君の関係とは別物。
だから、俺宛てのラインがこんなに嬉しい!
せっかくの智君からの申し出、無にするわけにいかない。
家じゃないとすると……どこがある?
『いいよ』
突然返信が来て、ビクッとする。
「いいの?」
『今、店で飲むのは難しいもんな。』
もちろんやってる店もある。
でもその店で感染……なんてことになったらどうしょうもない。
「よかった!美味しいお酒もらったから、智君と飲みたかったんだ。」
これは本当。
いつになるかわからないけど、飲むなら二人でって思ってたから。
名前がさ、「愛山」って言うんだよ?
これは二人で飲まないとって思うじゃない?
『お、楽しみ!』
「じゃ、明日待ってる。」
『おぅ』
おやすみのスタンプを送り合って、スマホを枕元に戻す。
また懐かしい詩の続きを思い出す。
『例えば僕に、地球を砕くだけの力があって。
銀河を支配できるくらいの知力と行動力もあって、
宇宙の覇者になれたとしても、きっと地球を砕いたりはしない。
だって、この地球には君がいるから。
僕が泳ぎたいのは、飛びたいのは、君の瞳の中の銀河。
そこにさえいられるなら、他に何もいらないから。』
昔……。
ある曲のタイトルから連想して勝手に書いた詩。
その頃はまだ、智君とはこういう関係になる前で。
初々しいな。
てか、よく覚えてるな俺も。
久しぶりに会えるあなた。
少しふっくらしたかな?
焼けては……いないよな、さすがに。
俺は、忙しくしてれば気持ちも紛れる。
会いたいと、言ってしまいそうになるのをなんとか我慢もできる。
限界は近かったけど!
でも、あなたが……我慢できなくなるのをずっと待ってた。
あなたから言い出して欲しかった。
あなたに言って欲しかった。
待ってたかいがあった!
明日……。
少しは恋人同士に戻ってもいいってことだよね?
あのラインの間の後の返事は……それを考えた上だと思っていいんだよね?
俺はね、あの詩を書いた頃から何も変わっていないんだよ。
ずっと、ただずっと。
あなたの瞳の中に住んでいられればそれだけで。
明日は、あなたの中の銀河、泳いでもいいの?
ねぇ、智君。
久しぶりの読切!