『嵐に伝えよう愛の言の葉』
「あれ?店員さん、ちょっと似てる?」
智美が002と店員を見比べる。
「はい、良く言われます。」
青年が照れたように頭を掻くと、002をしげしげと見つめる。
「こちらはですね、最初は育て辛いかもしれません。」
「どうして?」
「いろんなことに敏感に反応するので……。
多感な少年期を楽しみたい方にはオススメです。」
「ネットで見たんですけど……ヘタレモードがあるって。」
智美の質問に、青年は笑顔を浮かべる。
「はい。ございます。通常仕様はイケメモードですが、M気質のある方には帝王モード、
ダメな子ほど可愛い気質のある方にはヘタレモードが発動します。
ですが、これも育て方次第ですので……。」
「大丈夫。どれも好きだから。」
智美がにっこり笑って002を見上げると、青年も安心したようにホッと一息つく。
「お客様はどちらをご希望でございますか?」
「私は002にしようと思ってるんです。顔が好みなんで!」
「左様でございますか。では、001と002でよろしいでしょうか?」
二人は顔を見合わせ、うなずき合う。
すると、満面の笑みで智美と翔子を見つめる青年の頭に、ラジコンヘリがコツンとぶつかる。
「いてっ。」
落ちたヘリを拾い、二人に向かってにっこり笑う。
「少々お待ちください。ただ今商品の確認をしてまいります。」
青年が何か言いながら、店の奥へ引っ込んで行く。
「智君っ!ダメだよ、店でヘリ使っちゃ!」
残された二人は購入予定の二体を見上げる。
「楽しみだね。」
「うん。」
「あ、夜モードについても聞いた方がよかったかな?もう店には来ないだろうし。
聞きづらいけど。」
恥ずかしそうに頬を染めた智美の肩に翔子が手を添える。
「大丈夫。夜モードはどれも満足させてくれるって書いてあったから!」
「そりゃ、そう言うでしょ?
本当のところ、どれが一番いいのか……。」
智美が品定めするように5体を見回す。
「腰の動きは003と002が良さそうよね。」
翔子が言うと智美が、ふふっと笑う。
「私が買う002は帝王モードもあるんだ~。」
「え~、いいなぁ。001にもそういうモードあるかなぁ。」
「あるんじゃない?なくても、育てていけばいいんだよ。」
「そうだね。んふふ、今から楽しみ!」
書類を持って戻って来た青年の後ろから、猫背の若い男が顔を出す。
猫背の男はネクタイはしておらず、黒いセーターの襟元をポリポリと掻く。
「こちらが……購入手続きになります。ご記入箇所はこことここ……。」
ぼそぼそと小さな声で話す男に、智美と翔子は耳をそばだて、体を前のめりにする。
「智君、クーリングオフの説明もしないと。」
青年が男の耳元で囁く。
どうやら猫背の男は慣れていないようだ。
「ク、クーリングオフにつきましては……こちらをお読みください。」
ふにゃりと笑う顔に、仕方ないと溜め息を着いた青年が、二人の書類に目をやる。
サインをしていた智美が、思い切って青年を見上げる。
「あ、あの……ちょっとお聞きしたいことが……。」
「なんでしょう?」
青年がニコッと笑う。
「よ、夜モードについてなんですけど……。」
あ~あ、とうなずいた青年がイケメた顔で智美を見つめたせいで、
さらに恥ずかしさが増す。
「そちらはご心配には及びません。
どの製品をとっても、満足のいく仕上がりになっていると自負しております。
それぞれの個性を存分にお楽しみください。」
さらに詳しく聞きたいところだが、そこは相手がイケメンだけに聞きづらい。
「じゃ、腐モードについてなんですけど……。」
「腐モードは二体購入して頂くとお付けしているアプリなんですが……。
あ~、一緒に遊ばせたいんですね?」
智美と翔子が同時にうなずく。
「では、今回は特別にサービスさせていただきます。
001と002の相性はとてもいいので楽しめると思いますよ。
ただ、あまり一緒に遊ばせすぎると、
002の顔が崩れると言う報告も上がっておりますので、
そこは様子を見つつ楽しんでいただければ……。」
「002は表情豊かなんですよ。」
猫背の男がふにゃりと笑う。
「考えてることが顔に出るタイプなんです。
だからそこも楽しんで欲しいなぁ。可愛いから。」
「はい。」
智美が元気良く答える。
「あ、そうそう、001と002の腐モードは隠そうとする傾向もあるようなので、
こっそり楽しむ方がいいみたいですよ。」
「こっそり?」
翔子が首を傾げる。
「オープンな相性の二体もいるんですけど……例えば004と005とか。」
青年がカタログの004と005のページを開く。
「004は005といると可愛くなるんですよ。
005は003と一緒にいる時もだから、005がお兄ちゃん気質なんですね。
004は強気な態度で甘えますし、003は天然度が増します。
どちらも隠すことなく存分に披露してくれますよ。」
「え~、それいいなぁ。」
翔子が005のカタログの文字を目で追い始める。
「でも、育てるのが難しそう。」
「そうですね、でも手を尽くせば尽くすだけ成長する商品ですので、
お世話好きの方にはオススメです。」
「003は?」
智美がカタログを捲り、003のページを開く。
「003は可愛いよ~。」
猫背の男がふにゃりと笑う。