翌日、微睡みの中、うっすら目を開ける。
温かい蒲団と温かい左側。
もぞもぞと左の腕の中に入って行く。
寝ぼけたままの櫻井が、智の体を抱き寄せる。
「しょお……。」
小さくつぶやいてみる。
名前で呼べる幸せ、温もり。
櫻井の指が微かに動いて、智の髪を撫でる。
智は、ふふっと笑って、櫻井の胸に頬を擦りつける。
スベスベの肌を頬が滑る。
蒲団の中に、青い匂いが微かに残っていて、昨日の夜を思い出す。
今日が休日だったせいか、いつもより櫻井が激しかった。
執拗に攻めたてて、力尽きるまで離してくれなかった。
それが嬉しい自分に恥ずかしさを感じる。
この部屋に来ると、櫻井は必ずといっていいほど智を抱く。
男としての性への欲求はわかる。
自分も同じだ。
嬉しいし、気持ちいい……。
幸せなのに……。
智はぎゅっと櫻井を抱きしめ、胸に耳を当てる。
ドクッドクッと櫻井の鼓動が聞こえ、智の心を落ち着かせる。
目を閉じると、温かさと安心感からか、スッと意識が遠のいた。
窓から差し込む陽ざしが強い。
んっと顔をしかめる。
「なん…じ……?」
枕元のスマホを取り、タップする。
「あ……。」
予期せぬメッセージにびっくりする。
昨日のコメントに返信がついたという知らせ。
智は急いでスマホを開く。
メッセージはすぐにコメント画面に切り変わる。
『コメントありがとうございます。
コメント、もらったの初めてで、読んでもらえて嬉しいです。』
小説の作者からの返信だ。
思いがけない返信に、テンションが上がる。
「うわぁ……。」
コメント、読んでくれたんだ……。
ただそれだけのことが嬉しくてしかたない。
体が跳ねそうになって、
文字を追う前に一度大きく深呼吸し、スマホを握り締める。
「な…に……?」
隣で櫻井が薄目を開ける。
「ううん、なんでもない。」
スマホを隠してにっこり笑う。
「何?今隠した?」
「隠してないって!」
そう言いながら、スマホを持った手を背中に回す。
「隠したでしょ?何?浮気?」
面白がった言い方をしながら、どこか本気の匂いが漂う。
「んなわけないじゃん。」
「だったら、見せてよ。」
櫻井の手が、智の腕を引っ張る。
「恥ずかしいから!」
「恥ずかしい?」
櫻井が、強引に智の手を前に持って来る。
「ブログにコメントしたら……返事が来たんだよ。」
「返事?」
「うん。コメントとかするの、ちょっと恥ずかしいじゃん?返事くると思わなかったから、
なんか、嬉しくて。」
櫻井は消えたスマホの画面をチラッと見る。
なんだと言うようにポンと叩いて、智の腕から手を離す。
「変なブログに引っかかんなよ?アクセス数上げたくて、いろいろする奴いるから。」
「そんなんじゃないよ。たぶん……。」
「そういうとこ、智は初心だからなぁ。」
櫻井が笑って智の生え際を撫でる。
「どんなブログなの?」
「う~んと……釣りの?」
「釣りかぁ。俺、詳しくないからなぁ。」
櫻井は笑いながら、指先をそろそろと下していく。
輪郭に沿ってなぞる櫻井の指にゾクリとし、肩を竦める。
自分が小説を読んでるなんて、恥ずかしくて言えなかった。
櫻井は有名大学出のインテリで、読む本も多岐に渡る。
馬鹿にされると思ったわけではないが、恥ずかしさの方がにわかに勝つ。
「初心な智も可愛いけど、娼婦並みにエロい智、見せてよ……。」
櫻井の手が智の肌を滑る。
「あ…んっ……朝から……?」
「ダメ……?」
上目使いの櫻井の、大きな瞳に吸い込まれそうになる。
「明日は釣りに行くからね?」
櫻井がクスッと笑う。
「だったら尚更、今しないと!」
櫻井の体が蒲団に潜って行く。
すぐに体を駆け抜ける刺激。
「あぁ……しょぉ……。」
智の体が快感に震える。