二度目の キ ス は最初の キ ス より苦しくなくて、
あいつの 唇 が、僕の下 唇 を柔らかく挟む。
優しい感触に釣られて、軽く口を開くと、そこから 舌 が押し込まれる。
ぎゅっと歯でガードする。
あいつの 舌 は、進入する気がないのか、歯の根元を撫でて、唇 の感触を楽しんでるみたい。
ぎゅっと歯を閉じたせいで、息をすることができなくて、段々苦しくなってくる。
すると、あいつの 唇 が離れる。
「お前には……息の仕方を教える必要があるな。」
フッと、口元から力の抜けたあいつの顔に、なぜか僕の頬がカッと熱くなる。
「お前は息の仕方を忘れるのか?」
「……そうじゃないけど……。」
僕は視線を逸らして、横を向く。
忘れるわけじゃない……。
唇 に集中しちゃうんだ……。
あいつは僕の 唇 に、わずかに 唇 を合わせる。
「口づけていても……息はできる……。」
あいつは 唇 を重ねたまま息を吸う。
僕も同じように息を吸って……小さく吐く。
吐いた拍子にあいつの 舌 が入り込んでくる。
舌 先 が、僕の 舌 の上を撫で、クルンと丸めて 舌 先 を巻き込む。
「んんっ。」
合わさった 唇 が 唾 液 で 濡 れていく。
心地よさで、高まる高揚感。
濡 れた 唇 が、いやらしい音を立て、さらに高揚感が増していく。
なのに、あいつの 唇 が突然離れる。
じっとあいつを見ていると、表情を変えることなく、あいつが言う。
「今度はお前が絡めろ。」
すぐに 唇 を合わせたものの、あいつの 舌 は入り込んではこなくて……。
僕がしないといけないの?
こいつの言うことはなんでも聞けって、ジュンが言っていたことを思い出す。
でも……こいつの言うことなんか……聞くもんか。
こいつは……僕の敵だ。
「私は、絡めろと言っている。聞こえなかったのか?」
唇 を擦らせながら、低い小さな声で囁く。
その声が、僕の頬を染め、何か得体のしれない僕の奥深くを刺激する。
僕は仕方なく 唇 を合わせ、舌 をあいつの口の中に押し込む。
舌 先 を使って、あいつと同じようにあいつの 舌 ごとクルンと巻いた。
あいつの 舌 が、僕の 舌 に 絡 んでくる。
絡 まり合う 舌 の感触と、唾 液 でネチャネチャした 唇 が心地よくて、
もっと絡まり合いたくなって……。
顔の角度を変えてあいつの口の中に入り込むと、
あいつの目が細くなって、僕を見つめた。
長い キ ス の果てに、僕はあいつの腕の中で眠りについた。
慣れないことをして疲れたのと、あいつの体温の心地よさが、僕を眠りに誘う。
こいつは敵だ、甘えちゃいけない……。
そう思う反面、こいつにはまだ逆らっちゃダメだ。
まだ、力が足りない……だから……。
そう言い訳する自分がいて……。
一度は腕から逃れようと試みたけど、あいつの腕にぎゅっと力が入ると、
僕は……抵抗する気になれなかった。
それからも、時々あいつは僕に キ ス してきた。
でも、それ以上に手を伸ばすことはなく、僕もだんだんあいつの キ ス に慣れていった。
そのうち、奇妙なことに気づく。
最初は、ピアノのレッスンが変更になる日に キ ス されることが多いなと思っていた。
けれど、それを何度か繰り返すと……。
教皇様の来られた日に限って、キ ス されていると言うことに気付く。
自分の父親に会った日に僕に キ ス をする……。
あいつはなぜ、僕に キ ス をする?
その日も、長い キ ス をされて、あいつの腕の中で微睡んでいると、
あいつが耳元でポツリとつぶやく。
「お前の父親は、どんな人だったんだ?」
「父さんは……。」
僕はあいつを見上げる。
「鍛冶屋で、力も強くて、あの熱い中でも黙々と作業する働き者で、
でも、喧嘩っ早くて、すぐ靴屋のおじさんとケンカしちゃう。」
僕は父さんを思い出してクスッと笑う。
「でもね、僕と母さんのことはとても大事にしてくれてた。
優しい父さんだった……。」
そうだ。そんな父さんを……。
僕はキッとあいつを睨む。
「よかったな。そんな優しい父親で。」
あいつの声は、なぜか透き通るように儚くて……。
僕は、あいつを睨み続けることができなくて……。
あいつの部屋着の襟元をぎゅっと握った。
あいつは一瞬、困ったように笑って、僕を抱きしめた。
こいつは……どんな気持ちで僕を抱きしめている?
僕から、父さんと母さんを奪った張本人。
なのに、こいつから溢れてくるこの切ない感情は……いったいなんだ?
抱きしめ返したいと思う、僕の感情は、なんなんだ?