どうやら困惑してるのはおいらだけみたいで、
みんなは、わちゃわちゃと楽しそう。
特にニノは何を考えてるのか……。
おいらは翔君の腕を引いて、廊下に連れて行く。
「翔君、いいの?本当に?」
おいらは翔君の顔を引き寄せ、小声で囁く。
「え?何が?」
「こんなDVD……。」
「でも、脚本もおもしろかったし、ファンだけで、一般発売じゃないし、いいんじゃない?」
「また、そんな軽いノリで……。」
「せっかくみんなで作ろうって言ってんだから、智君も楽しもうよ。」
翔君はいたって暢気に笑ってる。
笑ってる場合じゃないから!
「ね?わかってる?ニノが監督なんだよ?脚本、ちゃんと読んだ?」
「……読んだよ。」
「あそこ、見た?『ベッドの上で絡まり合う二人』って。」
「……見たけど?」
「ニノが、簡単な画ですますと思う?あそこだけで、10分は割(さ)くよ、きっと。」
「……それは楽しみ。」
「そんな恥ずかしいこと、おいらできないよ!」
だって、気持ちが入るだろ?
翔君を、そんな近くで感じたら……。
「何言ってんの。これは役なんだから。役者、大野智ならできる。」
翔君はおいらの両肩をポンと叩いて、ギュッと握った。
「さ、時間ないから、さっさと撮ろう。」
そう言って、おいらの背中を押して楽屋に戻っていく。
「じゃ、シーン34、行くよ~。」
ニノがメガホンを振り回す。
相葉ちゃんがカチンコを持って、カメラの前にスタンバイする。
おいらは翔君を情けない顔で見上げる。
翔君は唇の端を引き上げてニヤリと笑った。
「はい、シーン34。」
カチン。カメラが回って松潤の目が光る。
「もう、二人で会わない方がいい。」
おいらは翔君に背中を向ける。
「本当に、そう思ってる?」
翔君の優しい声が甘い蜜のように、おいらを絡め取っていく。
「智君は俺なしでいられるの?」
おいらは振り返って翔君を見据える。
そんなこと、できるわけない……。
「じゃ、相葉ちゃんはどうすんだよ?」
おいらが泣きそうな顔で翔君を見ると、
翔君はおいらから視線を外し、窓の外を見る。
「知ってたんだ。」
「見ればわかるよ。」
おいらと同じなんだって、すぐわかったよ。
「だから、おいら……。」
おいらは逃げるように楽屋の扉に向う。
翔君はそのおいらの手を掴んで、おいらを壁に押し付けた。
ドンッ!
おいらの顔の右側に、翔君が壁に着いた手が見える。
「でも……智君は俺から離れられない……でしょ?」
翔君がおいらの顔の前でニヤリと笑った。
背筋がゾクッとして、おいらは翔君をまともに見れない。
「そうだよ……離れられない……。」
おいらは翔君と視線を合わせずに、首に腕を巻きつけ、唇を合わせる。
その瞬間、楽屋の扉がバンっと開く。
びっくりして振り向くと、そこには、つぶらな瞳に涙を溜めた相葉ちゃんが立っていた。
「これ……どういうこと……なの?」
相葉ちゃんがおいらと翔君を交互に見比べる。
「はい!カァーーット!」
ニノがメガホンをパンっと叩いて、松潤に何か言っている。
「いいね~、みんなさすが!ご苦労様~。」
ニノがニコニコしながらうなずいている。
「ニノ~、長回し多くない?セリフ間違えないかとヒヤヒヤするよ~。」
相葉ちゃんがひゃっひゃっひゃと、笑いながらやってくる。
「雅紀のセリフ、一つだけだろ?」
松潤がカメラをいじりながら、笑う。
「でも、最後だからさ~。」
相葉ちゃんは急いでメイク道具をまとめだす。
「あ、翔さん、壁ドンよかったよ~。見てる女の子はキュンキュンだね。」
ニノも笑いながら、移動の準備を始める。
「ほら、リーダーも準備手伝って!次は部屋、借りてあるから。」
ニノがニヤリと笑った。
おいらは一気に不安になる。
どうしよう。とうとうあのシーンの撮影だ。