「あの……。」
ショウは、昇降口で呼び止められ、ランドセルをしょったまま、
校庭の隅に連れて行かれた。
長い髪を耳の後ろで二つに結んだ女の子が、ショウの前で下を向いている。
ショウのクラスの女の子だ。
「ショウ君は……好きな人…いる?」
「え?……いる……けど?」
「だれ?」
「……。」
「私も言うから。」
女の子は交換条件なんだからいいでしょ?というように、
腕組みをして、ショウの言葉を待っている。
「教えてよ~。」
女の子は、ちょっと怒っているように見える。
「なんで、言わなきゃいけないんだよ。」
「いいでしょ。教えてくれたって。」
女の子はショウの腕を掴んだ。
ショウはそれを振り払うと、走り出した。
「ジュン君はさぁ、好きな子いないの?」
「キャー。知りたいっ!ジュン君の好きな人!」
女の子達がジュンの机の周りを囲む。
「え?俺?……いないよ。」
「ほんとに?」
「ほんと。」
ジュンがニッコリ笑ってみせる。
「うっそだ~。絶対いるよ。」
「ったく、うるせぇよ。…誰だっていいだろ?」
ジュンは、ちょっと睨みをきかせて立ち上がると、その場を離れた。
「ねぇ。ジュン君の好きな人ってさ……。」
「……うっそ~。」
「絶対そうだよ~。」
女の子達の視線は、窓際の一番後ろに座っているサトシに向って注がれた。
「マサキ知ってる?」
「え?何を?」
マサキは10分休みに隣の席の女の子に声を掛けられた。
「マサキがこのクラスで1番人気。」
「え~、うそだよ。」
「マサキ、足、速いからね。足が速いとモテる。おもしろいし。」
「じゃ、サトシのおかげかな?」
「なんで?」
「幼稚園の頃、サトシのこと追いかけてたから、足、早くなったんだ。」
そう言って、マサキは声をあげて笑った。
「……チョー嬉しい。」
女の子は満面の笑みのマサキを見て、満足そうにうなずく。
「マサキ達…、モテるよね。」
「あ、ジュン君とか?」
「カズとか、ショウ君とか、サトシとか。」
女の子はクスクス笑った。
「そうなんだ。モテるとか、よくわかんないけど。」
「学年の女の子、みんな、そのウチの誰かが好きだよ。」
「うわぁ、すごいね。」
「だから、気をつけた方がいいよ。」
女の子はちょっと意地悪そうに笑った。
「何を?」
「……サトシ。」
チャイムが鳴ると同時に、先生が教室に入ってきて、話はそれ以上できなかった。
「サトシ?」
マサキは窓の外を見ながら、考える。
サトシにどう気をつけるんだ?