部屋の中が水を打ったように鎮まりかえる。
「痛ましい・・原因はやはり」
「ええ、今回も大半がヒトの仕業です。諜報部によると、ヒトに偶然踏み殺された者280名。そして、いたずらに踏み殺された者370名、」
あたりから怒りのうめき声が漏れる。
「また、巣の出入り口を掘り返され、その際死亡したと思われる者50名。さらに生きたままヒトに捕獲された者も数10名おります。残りの者は現在行方不明で、、」
「人間の暴挙をこれ以上許しておいて良いものか!!奴らは生き物の"共存のサイクル"から外れた悪魔だ!!」
新兵が声を荒らげる。
周りの者たちも暗い穴のなかで目をギラつかせ首を縦に振る。
「おい」
しわがれた老兵の声が部屋にこだまする。
新兵の6本の足がびくんっと怖ばる。
「冷静にあれ」
まるで重力の塊が体にずずんっとのしかかってくるような声だ。
「感情的になり、かっと熱を帯びて我を忘れる。お前は、ヒトか?」
「・・・いいえ」
声が震えている。
「そうだ。わしらはヒトではない、蟻だ。
感情を理知的に処理し、目的を成し遂げる。この世からヒトを根絶やしにするという目的をな」
そう言い放った老兵さえも、腹の底で煮えたぎった真ちゅうのような怒りを、辛うじて残った理性で抑え込んでいる、そんな印象を受けた。
「もはや止むを得ないようね」
女王がにわかに口を開く。
「連絡部隊」
「ハッ、女王様」
「至急幹部に連絡せよ。太陽が沈み次第、私の部屋で例の作戦について会議を行う。
これは戦争だ」
場の空気がぴりっと張り詰めるのがわかる。
「幹部未満の者にはこの事は伝えるな、混乱を招く恐れがある。さあゆけ」
「ハッ!」
女王は琥珀の玉座につくと、一つため息をはいた。