時は、日本の高校時代に遡る。
日本での語学留学のため、数年間関わりのあったフランス出身のお姉さん。
とても真面目で、寝る間も惜しんで、毎日のテストで満点を目指して猛勉強していた。
お姉さんが、祐吉出発の朝、小さな白い千羽鶴がいっぱい詰まった、透明なビニール袋をハート型に切って作った、手のひら3つ分の大きさのハートをプレゼントしてくれた。
ハートの真ん中には、 “Bonne Chance, bebe”と手書きのメッセージが書かれていた。
様々な事情や祐吉の性格や不安を全て理解してくださっていた。
「あなたは、ほんとにラッキーでっす!」と抱きしめてくれた時、祐吉は感動と励ましのエールを身体中で受け止めて涙した。
準備でほとんど寝ずに迎えた朝だったが、逃げ腰だった弱き祐吉に、覚悟が決まった瞬間だった。
背水の陣の如く、希望を胸に恐怖にも近い未知の旅を目前にしていた祐吉には、
強力なお守りのように、留学生活を見守ってくれた大きな存在だった。
その後の長い留学生活の傍、ボロボロになりながらも、ずっとそばにいてくれたハート。
“Bonne Chance”とは、「幸運を!」という意味である。