結婚期間中、確かに私は配偶者に不倫はされませんでしたが、実は不倫をされた側の気持ちは良く分かります。
これは私が、19歳の時にお付き合いしていた女性の話です。
名前はカズミとしておきましょう。
彼女は、当時私が勤めていた会社の先輩でした。
カズミは、病的なくらい浮気症な女性でした。
私と付き合った一年ちょっとの間に、何人も他の男性を好きになりました。
しかも相手を好きになると、
仕事に全く手が付かなくなる。
一日中ぼーっとしている。
人の話を上の空で聞いている。
等。
とにかく見て直ぐに、又誰かに惚れているなと誰もが分かる程でした。
その都度、カズミに相手の男性の事を諦めさせる作業に骨が折れました。
ある時の事、職場が入居していたビルの屋上で、後輩と一緒に酒を飲んでいました。
酒の酔いもあったのでしょう。
後輩はこう言いました。
「カズミさん、横浜の男と色々あって大変でしたね」
私は初耳だったので、後輩にキレ気味に言いました。
「あ?横浜の男ってなんだ?」
「あ、知らなかったんすか?言っちゃ駄目だったかな」
「良いからお前の知ってる事を全部教えろ」
「うーん……、仕方ないな、じゃあ」
後輩は私の迫力に押され、重い口を開きました。
後輩によるとこうでした。
カズミの先輩でヨウコと言う人がいました。
ヨウコは横浜の男に街でナンパされ、付き合う事になりました。そしてその後、横浜の男の家に転がり込むように同棲するようになりました。
しかし同棲し始めてから、相手の男が酷いDV男である事が判明します。
その男は、毎晩酒によってはヨウコを殴り、殴った後に暴力的に性行為をするのを好みました。
ヨウコは男が居ない隙に、着の身着のままで逃げ出したそうです。
その後ヨウコからカズミへ連絡が入ります。
「悪いけど、私の家財一式を取りに行ってくれないかな?」
と。
実は、この件に関しては私も関与しています。
当時所持していた車の後部座席と後ろのトランクに、ヨウコの家財を積んで、しばらく預かっていた時があります。
ただ、実際に取りに行ったわけでは無く、カズミから連絡があって、
「ヨウコさんの荷物を預かっているんだけど、寮に置いておけない物は、エルが暫く預かって欲しい」
と言われたので、当時カズミが入っていた女子寮まで取りに行った経緯がありました。
その家財を取りに行った際に、
カズミはその男にレイプされた。
と言う衝撃的な話を後輩から聞くに及びました。
私は当時、この話を鵜呑みにしてしまいましたが、今考えると恐らく嘘でしょう。
まず、あれだけの大荷物を、車も持っていないカズミがどうやって女子寮まで運んだのでしょう。
恐らく真相はこうです。
横浜の男がDV男であった、それでヨウコは逃げ出した。
ここまでは本当でしょう。
その後ヨウコの行方を捜していた男は、女子寮に立ち寄ります。
それでカズミとその男は出会った。
男は相談と称して、カズミと度々会うようになった。
ヨウコの家財一式は、横浜の男が自分の車で女子寮まで運んだのでしょう。
カズミが横浜の男の自宅に遊びに行った時に、半ば無理やり行為に及んだのかも知れませんが、まあそれも違うでしょうね。和姦だと思います。
何故なら、私と別れた後、その横浜の男と結婚しましたから。
普通、レイプされた男と結婚はしないでしょう。
さて、この横浜の男との一件を知ってから、私は精神的にまいりました。カズミとは毎日職場で顔を合わせるわけです。
「何故一人で横浜の男の家に行ったんだ!」
「何故俺と一緒に行かなかったんだ!」
と私は彼女に繰り返し詰問しました。
「だって、ヨウコさんが一人で行ってと言ったから」
「私だって、殴られて怖かったから仕方なかったんだよ」
等と、彼女は言い訳をしました。
先に言及しましたが、車も持っていないカズミが一人でのこのこ行った所で、あれだけの家財を持ち帰る事は不可能なのです。それにDV男の所に女性一人で行かせる程、ヨウコが無能であったとも思いません。
私は自分がとても価値の無い人間のような気分になりました。
カズミにとって私は一体何なのだろう。とも考えました。
カズミが知らない男に抱かれる場面を想像し、吐き気がしましたし、胸が重苦しくご飯も喉を通りませんでした。
自分の何が悪かったのかも、この時沢山考えました。
実にそんな状態が数か月も続き、結局彼女を許せなかった私は、彼女とお別れする事にしました。
サレ夫はまだしも、サレ妻の方は、金銭的な理由から離婚に踏み切れず、相手を致し方なく許すと言う状況が発生する事が多いでしょう。
致し方なく許したので、怒りや悲しみは長く続き、時折思い返しては、苦しい思いをしているのでしょう。
私もあの時感じた屈辱感や苦しみが、その後もずっと続いて行くと考えると、想像しただけでも気持ちが沈みます。
確かに私は不倫をした者ですが、浮気症の彼女と付き合っていた経験から、サレ側の気持ちも良く分かるのです。