戦争の国のアリス 2026
グラハムクラッカーや食塩は不使用のバター、ビターやキャラメル味のチョコレートチップ、胡桃、ココナッツロング、練乳、クラッカータイプのミニプレッツェルなどの、セブンレイヤーバーの材料を冷蔵庫(fridge)から取り出している時に、アリスに不意にそう言われて、わたしは何かしらハッとして虚を突かれた思いだった。
「ヴィクトール=E=フランクルの代表作は、やっぱり夜と霧よね。患者が自ら生きる意味を見出す手助けを施す事によって、精神障害を克服する心理療法を、実存分析と呼んで提唱したのだけど……それが後に、ルートヴィヒ=ビンスワンガーによって、ロゴセラピーと改められたのよ」
「ふうん。あたし、夜と霧は読んだ事がないのよね。実存分析って、変わった言い方だなあ。実存主義のサルトルや、実存主義に似た不条理文学の作家で、アルジェリア出身だった、アルベール=カミュの異邦人だとかなら読んだけど……」
「ロゴセラピーは、ジークムント=フロイトの精神分析やアルフレッド=アドラーの個人心理学と並んで、心理療法のウィーン学派三大潮流の一つとして挙げられる事もあるんだそうよ」
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攻撃の期限が間近に迫る中、トランプ大統領は「今夜、一つの文明が滅びるだろう」とイランに対して警告したらしい。相変わらずの調子。
「トランプ大統領は7日、彼自身のSNSに、今夜、一つの文明が滅び、二度と蘇る事はないだろう、と投稿したそうね。それを望まないが、恐らくそうなるだろう、と、攻撃の実施を仄めかしたらしいけど……」アリスは、呆れ返っていた。
「トランプ大統領は、イランで完全で徹底的な政権交代が実現すると主張したらしいし……イランのホルムズ海峡封鎖による世界経済の混乱を、経済的なテロだと批判して、方針を変えない限りアメリカが使う決定をしていない道具をトランプ大統領の決断で使う事になるだろう、と強力な兵器の使用を示唆して警告したんですって」
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「イスラエル軍は、停戦条件に含まれないとして、レバノンを拠点とする親イラン武装組織ヒズボラに対し最大規模の攻撃を実施したそうよ」
「ええ、そうらしいわね。アリス。わたしには、アメリカのトランプ大統領やイスラエルのネタニヤフ首相は、第三次世界大戦の種を撒き散らしているんだとしか思えないんだけれど……」
「テレビニュースによれば、アメリカとイラン、イスラエルは、二週間の停戦で合意に達したみたいだけど。でも、余り意味がないと思うわ」
「アメリカは、ホルムズ海峡を通過出来なくても、中東の石油に依存していないから、トランプ大統領も平気なのよね」
お昼には、イラン系移民の子供である、サイラス、それからシンシアやアリス、ジョナ達の為にも、イラン風のハンバーグを拵える事にした。
パレスチナ自治区、ガザの教育当局は9日、小学3年の女児が授業中にイスラエル軍の銃弾を受け死亡したと発表した。昨年10月にガザで停戦が発効してから10日で半年だが……イスラエル軍は局地的に攻撃を続けており、停戦後も犠牲者が後を絶たないらしい。ロイター通信によれば、女児はガザ北部の仮設テントで他の児童と共に授業を受けていたとの事で、教育当局は他の児童にも「強い心理的ショック」があったと指摘したそうだ。ガザでは教育施設も大半が破壊され、仮設テントで授業を受ける子供達が多いらしい。
「イラン風のハンバーグは、とっても美味しかったわ!! メアリー先生。ところで、ワシントン発の、ネットのニュースによると、トランプ大統領は10日、ニューヨーク・ポスト紙の電話インタヴューで、パキスタンで開かれる予定のアメリカとイランとの協議が失敗した場合に備えて、アメリカの軍艦に最高の弾薬を再装填していると語ったそうよね。交渉次第では、イランを再攻撃する姿勢を示すものだって」そう、アリス。
「イラン風ハンバーグは、合いびき肉に玉ねぎ・パン粉・卵を混ぜて、クミンやコリアンダーなどの中東系スパイスとトマトベースのソースで焼き煮にするのよ。フライパン一つで作れて、ヨーグルトやレモン、パセリを添えるとよりイラン風になるの。シンシアは、今朝のテレビニュースで、イランの小学校で犠牲になった子供達の遺影の映像を観て、もの凄く悲しんでいたわね」
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優しいシンシアが、幾ら嘆き悲しんでも、残念ながら、この世界、地球上から戦争は永遠になくなりはせず、それが非常に辛く感じられる。
「イスラエルのベンヤミン=ネタニヤフ首相は11日、動画の声明を出して、イランへのアメリカとの軍事作戦について、歴史的な成果を達成したとしながら、この作戦はまだ終わっていないと述べたそうよ。アメリカとイランによる、パキスタンでの戦闘終結に向けた協議が合意に至らなかった中で、戦闘再開を示唆したものだって」
「そうみたいね、アリス。中国がイランにミサイルを提供した可能性があるという外信報道が11日に出て、トランプ大統領は、若しも事実であれば中国は大きな問題に直面するだろう、と警告したらしいし……益々、第三次世界大戦の様相を呈し始めて来たわよね。本当に、嫌だわ」
さっき観たばかりの、ワシントン・13日・ロイターの、インターネットのニュースによれば……トランプ大統領は、彼自身をイエス・キリストになぞらえた人工知能(AI)生成画像を交流サイト(SNS)《トゥルース・ソーシャル》に投稿したものの、トランプ氏の支持基盤である宗教保守派の一角からも批判の声が上がる中で、その画像は13日には削除をされたらしい。
トランプ大統領は12日、ローマ教皇レオ14世について、宗教画をイメージした様な画像と共に長文のメッセージを投稿して、【イランの核兵器保有を容認する教皇は不要だ!】と強く批判し、【自分が大統領になっていなかったら、教皇になれなかった】と、持論を展開したとの事なのだけれど……流石に、呆れ果ててしまう。
「トランプ大統領は、自分自身が、イエス・キリストみたいな救世主だと思ってるのね。アメリカ出身のローマ教皇レオ14世は、トランプ大統領の数々の軍事作戦に対し平和的解決を求めていて、信者へのスピーチでも、手にしている武器を置きなさい。戦争を惹き起こす力のある者は平和を選びなさいと、トランプ大統領に対してイランでの戦闘停止を呼び掛けてたそうだけど……」
「でも、トランプ大統領はそうした教皇の発言に対して、SNSへの投稿で、レオ教皇は犯罪対策に弱腰で、外交政策も最悪だ。レオは理解していない! イランが核兵器を持つ事を容認する教皇など要らない。と教皇を呼び捨てにした上で批判し、アメリカ合衆国大統領を批判する教皇は望んでいない。と断じたそうよ」そう、アリス。
「レオ教皇はロイターに対して、トランプ大統領と論争したくはないと述べつつ、私は今後も戦争に反対し、平和を促進し、対話と多国間関係を推進し、問題に対する公正な解決策を模索する、声を大にして語り続けるつもりだ。と言明したんですって」わたしも、絶望的な思いだった。
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「ワシントン発、14日ロイターの、インターネットのニュースによると、アメリカの中央軍は14日、イランの港湾に対する封鎖に1万人以上の兵士、12隻以上の軍艦、数十機の航空機を投入していると発表したそうね」アリスが呟く。
「そうらしいわね。トランプ大統領は15日に、イエス=キリストと見られる人物と寄り添う画像を、もう一度交流サイトのSNSに投稿して、過激な左派は気に入らないかもしれないが、私はとても良いと思う。と、書き込んだらしいわ」
その後、インターネットのパリ時事のニュースで観たのだけれど……トランプ大統領との対立が鮮明化をしている、ヴァチカン・カソリックの頂点である、ローマ教皇レオ14世は16日、アフリカ歴訪の2カ国目カメルーンで開かれた平和集会で演説を行い、「世界は一握りの暴君によって荒廃が進んでいる」と批判したという。
「AFP=時事によれば、トランプ大統領は16日、イランとの戦争は第二次政権中のちょっとした気晴らしだった、と述べたそうよね。最近の世論調査では、イラン戦争がアメリカ国民の間で評判が悪い事が示されているそうだけど……」
「ええ、そうらしいわね。アリス……トランプ大統領は、私の最初の任期中、我が国史上最高の経済を築き上げた。そして今、更に成長させている。そして、イランというラブリーな国、ラブリーな場所へのちょっとした気晴らしにも拘らずだ。とも述べたそうなんだけど……一体、何を言っているのだか、全く理解が出来ないわ」
簡単な食事を済ませた後、テレビニュースでは、ローマ教皇であるレオ14世が、全世界のカソリック信者などに向かって、暴君の権力者を非難し、平和を訴えるスピーチを行なっている映像が流れていたが、それは現実的には無力で、わたしやアリスも残念ながら余り関心がなかった。
「トランプ大統領の対イラン軍事作戦を巡る言動が、支持離れに拍車を掛けているんですって。物価高などを背景に支持率が低迷してる中で、作戦に批判的なローマ教皇レオ14世との対立や、彼自身をイエス=キリストに見立てたSNSの投稿が波紋を広げて、支持層の不満が表面化していて、11月の中間選挙にも打撃となりかねない状況なんだそうよ」アリスは、愉快そうに語った。
「国営イラン通信のIRNAは19日に、イランがアメリカとの再協議を拒否すると報じたらしいわ。それに先立って、トランプ大統領は、アメリカの代表団がイランとの協議の為、20日にパキスタンの首都であるイスラマバードに到着すると明らかにしていたそうなのだけれど……」
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ロシアでは、ウクライナとの戦争の為に、大学生も兵役の標的とされ、凄まじい圧力が掛けられているとの証言も出始めているらしい。CNNのインターネットのニュースによると、【今年になって何もかも変わった」】 【大学の《トップ》達は今、学生達に戦争に行く様に呼び掛けている」】【大学中に、無人機部隊関連のポスターが貼られている。 文字通り至る所に】との話で、それは全て、CNNへのダイレクトメッセージでロシア人学生達が語った言葉であるらしく、そうした証言や増え続ける公開情報から得られる証拠は、ロシアが学生らに対してドローン(無人機)部隊への加入を誘引、強要するキャンペーンを密かにエスカレートさせている事を示唆しているそうだ。