詩 一人でも生きてくれな

あの日 君は火を見たんだね
赤い炎が目の前に広がり
君は
燃え続ける家の前で
立ちすくんだ

「お父さん お母さん どこにいるの?」
幼い君は 何度も叫んだ
恐怖の中でずっと待っていた
だが
父と母の姿は現れず
君はただ 燃え続ける家を見ていた

あの火のあと
父は放火犯と言われ
母は別の男と歩いていた

そして
父と母はいなくなり
犯罪者の父
売春婦の母
君はその子供だと言われた

叔父さんに引き取られたが
家ではののしめられ
学校では
消しゴムを投げつけられた
自分のことなど
誰も愛してはくれない
そう思った

大人になったら
淋しさを埋めるため
男と遊んだ

やっと大好きな恋人ができ
子供ができたのに
君の両親のことを知ると
男は去って行った

君は
恋人の事が忘れられず
幼い娘の誕生日には
その男の写真を
娘に見せて
「お父さんだよ」と言って祝った

娘は小学校に入ると
君と同じように
消しゴムを投げつけられた

そして
「お母さんなんて大嫌い」と言った

激しい雨が降りしきる中
娘はいなくなり
君は必死に探した
娘は崖の上にいた
君は娘を助けようと手をのばした
娘の手を握った瞬間
あのいまいましい火の記憶が
君の心に蘇った

娘だけは絶対に助けたかった 
君は恐怖で震えながら
雨に濡れた娘の冷たい手を握り
必死に崖から引き上げようとした
だが
無情にも崖は崩れ 娘は川へ落ちてしまった
濁流は容赦なく娘を飲み込んでいった

君は
娘を崖から落とし
殺してしまったと言われ
警察に捕まった

君は死んだ娘の遺体を見て名前を呼んだ
その声は人間のものとは思えぬほど悲痛なうめき声だった
もし本当に殺したのなら
死刑になりたいと思った

結局 君は無罪となったが
一人になってしまった
耐え難い淋しさが
君の心に突き刺さっていた

そこへ
いなくなっていた父がやってきた
弱りきった体で
死を直前に迎えた父は
絞り出すように言った

「あの日の火事でな......
わしはやってへんのに.......
犯人にされたんや......」

「母さんは.....
わしを守るために.........
刑事のいいなりになったんや......
お前を育てる金も.......
母さんが全部背負ったんや........」

「それでも.....
母さんは.....
わしにお前のことを頼んだんや」

「守らなあかんかったのに.....
わしは逃げてしもうたんや」

「わしがほんまに悪かった..... 許してな......
お前のお母さんは..... ほんまに優しい人やった.....
わしとお前を守るため...... 全部背負ったんや.....」

「.....ほんまに強い人やった」
「どんなことがあっても.....
母さんは 死ぬまでお前のことを思ってた.....」

父は 震えながらかすれた声で繰り返した

「母さんの魂は.....
お前を見守っているから.....
一人でも生きてくれな
一人でも生きてくれな」