(『人間革命』第8巻より編集)
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〈明暗〉 7
彼らは、むやみに楽しいのである。まさしく青年らしい、健康な心情そのものなのである。
瀬音(川が浅瀬を流れる音)は、夜の闇のなかで、高い音をたてているはずであったが、青年たちの耳には、入らなかった。
「その後、牧口先生が校長している学校に勤めさせてもらったわけだが、同時に、夜学の私立開成予備学校に編入して通った。
同級に、今の細井尊師(日蓮正宗の日達法主)や、
弁護士で代議士もやった小沢(出獄当時、この『人間革命』第一巻にによく出てくる弁護士)がいたんです。
英語は、この時、初めて習うという始末だった。それで、電車の中で英語の勉強を続けた。
わからないところにぶつかると、電車の中にいる一高生や慶大生をつかまえて、平気で教えてもらった。
数学は好きだったので、研数学館という予備校へ、よく通った。といっても、授業料を払ってないので、つまりモグリだった。
難問題をかかえると、授業の終わりごろを狙って教室に入った。そして、泥鰌(どじょう)ヒゲの先生に質問する。
人のいい親切な先生で、丁重に教えてくれ、すっかり顔なじみになってしまった。
先生が、ぼくのことを、最後まで研数学館の学生と思い込んでいたことは確かだね」
青年たちのなかには、痛快だといわんばかりに、手を叩く者もいた。
戸田は、磊落(らいらく:こだわらないさま)に笑いながら話していたが、勉強というものは、心底から真剣にしようと思えば、
どんな境遇にいようとも、できるものだということを、彼の経験を通して教えたかったのである。