7(承前)
散歩は早めに切り上げて、公園の出入口へと向かう。もう夕刻の公園の静けさを楽しむ余裕はなく、あいつに会いませんように……と、そればかり頭の中で唱えている。
小径から広場への曲がり道、こっそり様子を窺う。嫌な予感がそのまま現実化したように、マスティフを連れたさっきの男が佇んでいる。
「おい! 逃げるんじゃねえよ! お前だよ!」
きびすを返して反対側に回ろうとするワタルの背中に、男が威圧的な声をかける。「無視して進もう」と思っても、身体がすくんで足が前に出ない。
「その犬は大したお利口さんらしいが、本当にパニックになった時に、お前がちゃんと扱えるのか試してやろうと思ってな」
不気味なヘラヘラ笑いを顔に貼り付けて、男は近寄ってくる。断続的にけしかけられ、獲物に飛びかかりたくてうずうずしている巨大なマスティフは、頭を低くして唸り声を漏らしている。
「ワタルくん、落ち着いて。リープは大丈夫。そのまま進んで。無視すればやり過ごせる」
背中に背負ったリュックから、ノーラが静かなトーンで語りかける。
「ワンワン! ギャンキャン!」
唐突に、小径への曲がり角から現れた白いチワワが、マスティフに向かって吠え声を上げる。泡を食った飼い主らしき老婦人が必死でリードを引っ張るが、興奮したチワワの剣幕は治まらない。
「バオウッ!!」
「やめろっ!! そっちじゃねえっ!!」
男のリードを振り放して、マスティフがチワワに向かって突進する。
音もなく、ループが跳躍し、右肩からマスティフに体当たりする。「ギャゥオン!!」悲鳴を上げ、数メートルも吹っ飛ばされたマスティフは、一回転して体勢を立て直し、唸り声とともに迫り、リープの喉元に噛み付く。
「リープ! リープッ!!」
「危ないっ、ワタルくんっ!!」
夢中で駆け寄ろうとするワタルの背中からシルバーの繊手が伸び、マスティフの首元でバチッと音を立てて閃光が炸裂する。
「ギャオ~ゥン!!」
物凄い悲鳴を上げてマスティフは仰け反り、どうと音を立てて仰向けに倒れると、そのままピクッ、ピクッと痙攣を始める。
「て……てめえら……」
ハッと我に返った男は、尻ポケットからスマホを取り出すと、闘争が終わったばかりの現場を撮影する。
「まずい。写真に撮られた」
ノーラの右手から紫色の光線が伸びて、男のスマホを照射する。
「あちっ!!」
ブウォンと振動が走り、一瞬高熱を帯びたスマホを、男は悲鳴を上げて放り投げてしまう。
「な、なんなんだてめえら……。スタンガンでも使ってやがるのか」
怒りに顔を歪めた男は、不安定に頭を揺らしながらワタルに歩み寄ってくる。
「おい、おめえ、とんでもねえ事してくれたなあ。自分が何したか分かってっか? おい!!」