超犬リープ [SECOND] 14 | 平井部

平井部

平井和正愛好部

神社仏閣巡りレポ
& ほめほめ雑記

 

 

 

     7(承前)

 

 散歩は早めに切り上げて、公園の出入口へと向かう。もう夕刻の公園の静けさを楽しむ余裕はなく、あいつに会いませんように……と、そればかり頭の中で唱えている。

 小径から広場への曲がり道、こっそり様子を窺う。嫌な予感がそのまま現実化したように、マスティフを連れたさっきの男が佇んでいる。

「おい! 逃げるんじゃねえよ! お前だよ!」

 きびすを返して反対側に回ろうとするワタルの背中に、男が威圧的な声をかける。「無視して進もう」と思っても、身体がすくんで足が前に出ない。

「その犬は大したお利口さんらしいが、本当にパニックになった時に、お前がちゃんと扱えるのか試してやろうと思ってな」

 不気味なヘラヘラ笑いを顔に貼り付けて、男は近寄ってくる。断続的にけしかけられ、獲物に飛びかかりたくてうずうずしている巨大なマスティフは、頭を低くして唸り声を漏らしている。

「ワタルくん、落ち着いて。リープは大丈夫。そのまま進んで。無視すればやり過ごせる」

 背中に背負ったリュックから、ノーラが静かなトーンで語りかける。

「ワンワン! ギャンキャン!」

 唐突に、小径への曲がり角から現れた白いチワワが、マスティフに向かって吠え声を上げる。泡を食った飼い主らしき老婦人が必死でリードを引っ張るが、興奮したチワワの剣幕は治まらない。

「バオウッ!!」

「やめろっ!! そっちじゃねえっ!!」

 男のリードを振り放して、マスティフがチワワに向かって突進する。

 音もなく、ループが跳躍し、右肩からマスティフに体当たりする。「ギャゥオン!!」悲鳴を上げ、数メートルも吹っ飛ばされたマスティフは、一回転して体勢を立て直し、唸り声とともに迫り、リープの喉元に噛み付く。

「リープ! リープッ!!」

「危ないっ、ワタルくんっ!!」

 夢中で駆け寄ろうとするワタルの背中からシルバーの繊手が伸び、マスティフの首元でバチッと音を立てて閃光が炸裂する。

「ギャオ~ゥン!!」

 物凄い悲鳴を上げてマスティフは仰け反り、どうと音を立てて仰向けに倒れると、そのままピクッ、ピクッと痙攣を始める。

「て……てめえら……」

 ハッと我に返った男は、尻ポケットからスマホを取り出すと、闘争が終わったばかりの現場を撮影する。

「まずい。写真に撮られた」

 ノーラの右手から紫色の光線が伸びて、男のスマホを照射する。

「あちっ!!」

 ブウォンと振動が走り、一瞬高熱を帯びたスマホを、男は悲鳴を上げて放り投げてしまう。

「な、なんなんだてめえら……。スタンガンでも使ってやがるのか」

 怒りに顔を歪めた男は、不安定に頭を揺らしながらワタルに歩み寄ってくる。

「おい、おめえ、とんでもねえ事してくれたなあ。自分が何したか分かってっか? おい!!」