いつもと同じように車両に乗り込み隣に座る


ひかる 「朝ごはんおいしかった!」

保乃 「ありがと〜」
       「作ったかいがあるわ」

天 「ひかる何食べたん?」

2人で話していると後ろの席に座っていた天ちゃんが話に乗ってきた

ひかる 「なんかね、アサイーボウルっていうやつ」
          「保乃ちゃんが作ってくれたんだぁ」

天 「それお店で食べるやつやん」
    「いいなぁ私も食べたかった」

ひかる 「ダメ」
          「ひかるのなの」


もしかしたら天ちゃんは会話してると見せかけて、行き先がどこか読まれるのを防いでくれてるのかもしれない

そんなひいちゃんに読めるわけないやろなんて思うかもしれんけど、行き先が病院となるとなぜかすごく勘が鋭くなる。

怖いものだ



天ちゃんを混じえて話していると前方に一際目立つ大きな病院が見えてくる

それと同じぐらいでみんなが焦りだし、みんなが一斉にひいちゃんに話しかける


保乃もみんなも去年や一昨年の二の舞だけは避けたいと必死なのだ。



車両は病院の裏口で止まった


保乃 「ひいちゃん降りるよ」

ひかる 「はーい」
          「撮影?」

保乃 「…まぁ、そんな感じ」


適当に誤魔化し、ひいちゃんの手を強めに握りバスから降りる

そしてそのまま自動ドアを通り病院に入った

ここまで来たらもう絶対に逃がさない


ひかる 「ねぇ、ここなに?」

保乃 「んー?」


今までは適当にあしらえていたけどもうそろそろ限界

内科、外科、小児科などの文字がどんどん目に入ってくるからだ。

また、病院特有のあの匂いも。


その時、隣にいたひいちゃんが急に進行方向とは逆の方に走り出そうとした。

流石に気が付かれてしまった。


保乃 「ダメ!」

ひかる 「っやだ!はなして!」


絶対に逃がすまいとひいちゃんの脇の下に手を入れこみホールドする


ひかる 「やだやだやだ帰る」

保乃 「ダメです」
       「ひいちゃんちゃんと歩かんなら1人で注射やからな」

ひかる 「...グスッうぅ〜ッヒク」
          「ぜんぶやだぁー!」

保乃 「泣く人も1人で注射です」


天 「保乃が怒ってる...笑」

松田 「ひかる怒っとるとこあんまり見らんしね」

井上 「新鮮や」


こっちだって怒りたくて怒っているわけじゃない

意を決して怒っているのだ。


保乃 「いい?」
       「泣くなら保乃が先に終わらせて待たずに帰るからな?」

ひかる 「...もう泣いてないっ!ヒクッ」
          「っやけん、て、つないで…」

保乃 「はい、いいよ」


夏鈴 「繋ぐんかい」

武元 「泣いてるやん笑」

天 「ひかる可愛いなぁ」


手繋ぐぐらい甘くない、甘くない。

甘やかしてなんかない。


マネージャー 「どうする?誰から行く?」

松田 「どうがいいかな」
       「誰か先にやりたい人とかおる?」

マネージャー 「ひかるは?大丈夫?」

ひかる 「...」

松田 「どうする?
       「ひかる先終わらせる?」

ひかる 「…まだ、まって、」

松田 「はいはい、まだね」
       「心の準備できたらちゃんと言ってね?」

ひかる 「…うん」

松田 「じゃあ適当に五十音順とかでいい?」

メンバー 「うん、それがいいね」


そんな感じで決まった順番

1人ずつ診察室に入り予防接種を終わらせていく

結構スムーズで保乃の順番も早々に回ってきてすぐに終わった

隣に座るひいちゃんは事を終えたほのを羨望の眼差しで見つめてくる


保乃 「先にすればよかったって思った?」

ひかる 「…でも、やっぱできん、

保乃 「大丈夫大丈夫」
       「椅子座ったらすぐ終わるから、な?」

ひかる 「やだぁ、、」

保乃 「あ、もう綺良ちゃん入ってったで」

ひかる 「あっ、待ってまだ…」

保乃 「そんな感じやと一生終わらん

麗奈 「ひかるちゃんどうする?」
       「綺良ちゃんの次無理そうだったら私行っても大丈夫だけど」

保乃 「ううん、大丈夫」
       「ここで行かんと多分もう行かんから」  

麗奈 「保乃ちゃんすご、ちゃんとしてる」

保乃 「保乃も必死なんよ笑」

ひかる 「…トイレ行く」

保乃 「さっきも行った」

ひかる 「じゃあお茶…」

保乃 「だめ」
       「ほら、綺良ちゃん出てきたよ」
       「行っておいで」

ひかる 「やだやだ、待ってちょっとだけ...」

拒むひいちゃんを強引に診察室前まで連れていき、「お願いします」と看護師さんに受け渡した


ちゃんとできるといいけど…なんて思いながら診察室をボーッと見つめる


少しするととても聞き覚えのある泣き声が聞こえてきた


天 「保乃、ひかる泣いてない?」
    「大丈夫?」

保乃 「やっぱ泣いとるよな」
       「大丈夫かな…」 

そんな泣かれると私だって心配になる

必要だからやってる事なのになぜかすごい悪い事をしたみたいに罪悪感が湧いてくる

マネージャーさんが一旦診察室の中に入って行ったけど、またすぐに出てきた

そしてこちらに向かってくる


マネージャー 「保乃、ヘルプ」
                   「私じゃどうにもならなかった笑」

保乃 「え?保乃入って大丈夫ですか?」

マネージャー 「うん。許可取ってきたから」


言われるがままに本日2度目の診察室へ

入ると椅子に座り下を向いてガン泣きしているひいちゃんが見えた


保乃 「あらら、ひいちゃん大丈夫?」

医者 「すみません、パッと終わらせようとしたんですけど、意外とガードが固くて…」

保乃 「いえ、こちらこそ、。」
       「なんかすみません」

医者 「大丈夫そうですか?」

保乃 「ひいちゃん、顔上げて」

ひかる 「グスッ、ぅっ、ヒクッ、うぅ〜」

保乃 「ちょっとやから」
     「腕捲るで?」

ひかる 「…」

医者 「田村さん、そのまま抑えてもらっとくことってできますか?」

保乃 「はい、大丈夫です」
       「逆にこの体制でいいですか?」

医者 「はい、止まってれば大丈夫です」
  
ひかる 「まって、おねがい…やだ」

保乃 「はい、目つぶって」

ひかる 「…ね、保乃ちゃんおる?」

保乃 「おる、後ろおるやん」

医者 「はい、手ぶらーんってしててね」
       「力抜いて〜」

ひかる 「っっっいったっ!!」

医者 「はいっ!終わり!」
       「よく頑張りましたね〜!」


ひかる 「いたかった、」

保乃 「えらいえらい」
       「すぐ終わったやろ?」 

ひかる 「でもいたかった…」

保乃 「終わったならいい」
       「ありがとうございました言って」

ひかる 「...ありがとうございました、」

保乃 「すみませんご迷惑おかけして、」
       「ありがとうございました」

医者 「いえいえこちらこそ!
       「よく頑張りましたね」

最後はお医者さんに慰められて終わった


天 「ひかるできた!?」

ひかる 「いたかった」

天 「えらいやん!!すご!」

ひかる 「チクってしたあとにグリグリされたの...」

天 「それは痛いなぁ」
    「私最後やから心配やん」

保乃 「そんなんしてへんかったわ笑」

ひかる 「いたかったの!」

天 「でも頑張ったな」

ひかる 「天ちゃんも頑張って」

保乃 「誰が言ってるん笑」


自分が終わったということをやっと自覚してきたのか徐々にテンションが上がってきたようで…

ひかる 「ね!夏鈴見て!」
          「このホゲータね、昨日一緒に寝てね、今日も持ってきたの!」

夏鈴 「あー、そうなん、」
       「可愛いね」

ひかる 「やろ!夏鈴もいる?」
   
夏鈴 「ううん」
       「夏鈴はいらんよ」

ひかる 「…ホゲータ嫌い?」

夏鈴 「ううん。ホゲータ知らない」
       「だからいらない」

ひかる 「そっかぁ、ざんねんだ」

持ってきたホゲータを見せびらかしては「いる?」と聞いて回っている

それで「いる」って言われたら「あげないもん!」と返すところまでは容易に想像がつく。


少しすると天ちゃんも出てきて、無事終了した


帰りのバスでは疲れたのかひいちゃんは爆睡

泣いたのをイジられていても全く起きなかった


松田 「保乃、来年どうする?」

保乃 「もう無理よ」
       「慣れてきたから時期的に勘づかれる」

大園 「説得するしかないんじゃない?」
       「とりあえず予防接種の必要性をプレゼンして論破」

保乃 「複雑やんそれ」
       「保乃できひんわそんなん」

増本 「そしたら来年は田村さんじゃなくて私が一緒に診察室入りましょか?」
        「泣き声ならかき消せますよ」

天 「いや、それはいいわ」
    「1番嫌かも」

井上 「でもさ、やっぱり保乃を山車に使うのが1番いいと思うんよな」
       「例えば、もしひかるがインフルとかかかっても保乃仕事やから見てられん。やから予防接種大事やろ?みたいな」

幸阪 「それめっちゃいい」

保乃 「じゃあ来年はそれで行くか」
       「みんな協力お願いするで〜」

松田 「準備段階までなら大丈夫よ」
       「泣かれたら保乃にパス」

保乃 「それはもう、任せて笑」



みんなが協力的なおかげで来年もどうにかなりそうだ。


泣かれると大変だけど、その分可愛い。

すぐに目と鼻が赤くなり、ギュッと抱きついてくる

だから大変なの承知で、内心泣いてくれんかなぁと期待している自分がいるのがまた怖い。


まぁ、来年も頑張ろな









では











ラスカル