私は、一度だけ小林麻央さんにお会いしたことがあります。
それは、平成22年9月26日(日)京都南座でのことです。
その日は市川海老蔵さん主役の舞台がありました。
9月は「九月大歌舞伎」で「義経千本桜」が演目で、9月2日が初日、
27日が千秋楽でした。
私は26日、夜の部で4時15分開演でした。
この演目は、6月に欧州で公演され、凱旋公演ということで、
南座で行われました。
静御前の玉三郎さんも出演されていましたので、是非見たいなと
思いました。
私は、海老蔵さんを拝見するのは、この日が初めてでした。
海老蔵さんは三役こなされ、なかでも悪党役はピッタリでした。
やはり、団十郎のお家芸、ケレン味のある役どころは上手い
なあと思いました。
ただ、子の白狐が、初音の鼓(親狐の皮でつくられたもの)にひかれて
現れ、音に合わせて踊るさまは、本当に切なく見せ場なのですが、
当時まだお若いせいか、少し哀れさが少ないように思いました。
(私、この場面の浄瑠璃の迫力には、いつも泣かされます。)
でも、その才能は、当時の若手の中では際立っていて、歌舞伎界の
希望の星が現れたと胸が高鳴りました。
もちろん、玉三郎さんの静御前は儚げで、可愛くも美しく魅了されました。
話が長くなりましたが、舞台は幕間が2回あったと思います。
ラウンジに行くと、麻央さんが、幕間の間ずっと立っておられました。
その年の7月29日にザ・プリンス パークタワー東京で挙式、結婚披露宴
を行われ、初めてのお客様へのお披露目だったと思います。
そのお姿は、本当に匂うような美しさながら、凛として真っすぐ前を向かれ
静かな佇まいでした。
お着物は、淡いクリーム地に少し小花が優しく描かれていて可憐でした。
お客様が近づいて「おめでとうございます!」と一声お声かけると、
恥ずかしそうに「ありがとうございます」と微笑まれていたのが、その笑顔
が今もはっきりと蘇ります。
何故か、舞台の印象よりも、その笑顔の方が記憶に鮮明なのは、何故
なのかよくわかりませんが・・・。
麻央さんのご訃報に接し、人の世は、束の間の儚いものだと思わされました。
心よりのご冥福をお祈り申し上げます。
