カーテンの隙間から光が微かに零れる。
その先には、ぼんやりと鈍く光るナイフがあった。
男は前にしゃがみこみ、首は抵抗することも無く、重力に沿い、長い髪で顔は隠れ、僅かに見える目は鈍い光を飲み込んでいた。
男は、嗚咽を漏らし始め、苦しみから逃れようと、己の首を強く絞めた。荒い呼吸の音、首にくい込む細い指、乱れた髪の隙間から見えた目には憎しみが溢れていた。
発作が薄れ、呼吸を整えようとする肩の振動で、体液が床へポタポタと落ちる。
旋律を取り戻した男は、恐る恐る前へ手を伸ばした。彼の細い指がナイフの柄に触れ、じんわりと色を染めた。そして、彼はそれをそっと胸の前に寄せ、ぼんやりと僅かな光を眺めた。
少しして、ナイフの先は空気を震わせながら、ゆっくりと男へと向けられた。ナイフから、恐怖、憎悪、悲哀で満ちた目がこちらを覗き、その目には膨れた水が浮かんでいた。
ナイフはカタカタと震えながら、ゆっくりと下ろされていく。
冷や汗が己の肉体へとぽたりと落ち、男はその雫をプツッと切り裂き、ナイフをゆっくりと沈みこませた。
青白い肌に鮮やかな赤がじんわりと滲み、瞬時に溢れ出す。吹き上がった液体は、男へと跳ね返り、頬に赤く線を描いた。
男は苦痛で目を強く瞑り、唇を噛み締めた。
しかし、その苦しみは得体の知れない何かに途端に飲み込まれた。徐々に、口元は緩み、開かれた目には、己の醜い血が広がっていた。男はじっくりと眺め、小さくほくそ笑むと、ナイフの柄を掴み取り、鋭く足を刺した。
血しぶきが上がる。口角はさらに引き上がり、唇の隙間からよだれが垂れる。男の心はかつてないほどに高揚していた。
目を見開き、高らかに笑いながら、溢れ出る血を待つことなく、何度も何度も、男は、無我夢中で腕を振り下ろした。
生き生きとしながら、絶えず。
しばらく経つと、男は刺すのを止めていた。腕はぶらんと地につき、男は天井を仰ぎながら、ひたすら笑い続けていた。
男はナイフへと目を向け、滴る血を眺めながら、満足そうに微笑み、ナイフを胸へと向けた。そして、まるで、取り出した本を本棚へと片付けるかのようにそっと刺し込んだ。男は息苦しそうに笑いながら、力なく倒れた。
息が薄くなる。赤黒い髪の隙間から見える男の顔に先程の笑みはない。暗闇に囚われた目を、取り返しのつかない己の体液を僅かな光がぼんやりと照らした。
彼は、悲哀に満ちた目で滴を浮かべながら、僅かに口を開き、ポソりと呟いた。
「・・・・・・死にたくないなぁ。。」