修学旅行で特に楽しかったことなんて、すぐに挙げられる人がいるだろうか。たとえ捻り出したとしても、それは自分の中で少しズレたものか、相手にとって想定外のものになるだろう。教師にこの質問をされた生徒たちは大体詰まってしまって、最終的に「ウノです」なんて答えてしまうのだ。普通に考えてみれば数日の旅行で一番の思い出がウノであるはずがない。しかし、生徒にしてみれば、寺や仏像、自然をいくら見たって「楽しい!」とはならない。まったく何も感じないか、せいぜい「シブいなぁ」というなんとも言い表せない感想を抱く程度だろう。その結果、分かりやすく友達と笑って楽しめたカードゲームを答えてしまう。だからこの質問はほとんど意味がない。とすれば、修学旅行は楽しくないものなのかと言うと、そうは考えない。生徒たちは言葉で言い表せなくても普段学校でしか話さないクラスメートと同じ部屋で寝起きしたり、教師の目を盗んで夜更かししたりする非日常をちゃんと味わっている。行く場所について事前学習なんかしなくても構わない、どうせすぐに忘れてしまうから。しかし忘れてしまっても、何かの拍子に名前を書いて、「行ったけど何も覚えてないや」と笑い合う、それで十分その体験は価値があると思うのだ。だから大人もいい返事が来ると期待してはいけない。何がとは言えなくても「楽しかった」と思うことが出来たなら大成功に違いないから。