音楽を聴いていたら社会から追放されました -4ページ目

輝く海。

c8db674a.JPG秋田はいい所だ。

んだ。

土崎港にあるセリオンタワーより。

東北の街からあなたへ。

素敵な夕日を送ります。

敬具。

落下のスピード

僕は飛び降りた。

午前3時。

地面までは200m。

飛び降り自殺をした者は地面に到達する前に気を失ってしまうらしいが、僕の意識はいつまでも僕の身体を離さなかった。

ジョナサンが自分の可能性を追い求め垂直落下を試みたように、僕はまっすぐに地面へと落ちていった。

どのくらいのスピードで落ちているのだろうか……。



中学生の頃、50m走でのスピード争い。
僕は裸足になって走っている。

そんな情景を思い浮かべていた。



突然ものすごい音と共に僕の目前にある空気が揺れた。

空気は白い輪を描きながら僕の体を取り囲むようにして上の方へ飛んでいった。

無音だった。

その爆音を聞いてからはとても静かだった。

地面がだんだんと熱を帯びるように存在感をまし、僕の目前へと迫ってきているところを見るとまだ僕は死んでいないようだ。

次に僕が見たのは光が残像を残しながら僕の回りを飛んで行く光景だった。

それはまるでスターウォーズで宇宙船がワープするときのようだった。

夜を照らすわずかな証明が、まるで星のように輝きながら僕の方へ次々と飛び込んでくるのだった。


僕の頭と地面との距離があと10cmほどになったところで、突然世界中の時間がスローモーションになった。

舗装された道路の、黒々と不健康そうに光る石の塊を見た。

誰かが捨てたチューイングガムが、何人もの人に踏まれ、何台もの車に潰され、もともとそれが食べ物であったとは到底思えない物体がそこにあった。


8cm…………


……7cm……


…………6cm


その瞬間、恐怖が僕の血液を流れ僕の体温を一気に下げたようだった。

もう止めることは出来ない。

後悔してももう遅いのだ。

僕は頭から地面に落ちた。



『ザブンッ』

耳の奥でした音はなんだろうか。

目を開けることは出来ない。




いつの日か母親の腹の中で聞いたあの優しい音。
水が体を包み込み気持ちがよい。




僕は目を開けた。



海。



そこは海であった。
深い、深い海。




光は、どこから差しているのだろうか。

タイムパラドックス

『時間を逆から考えるということがどういうことか、君はわかるか?』

「つまり、今起きている出来事は過去の出来事に基づくものであるということでしょうか」

『悪くない意見だが、それではあまりにも一般的すぎるのではないだろうか』

「確かに……、それではどういうことなのでしょうか」

『では一つの例として、もし世界中の時計が反対に回り始めたら君はどうなると思う?』

「……おそらく時計の動きに合わせて社会のルールが変わっていくのではないでしょうか。つまり……今まで9時50分と言っていた時間は14時10分となるわけです」

『やはり君は賢い。それではその結果からどのようなことが言えるだろうか』

「……つまり……時間という概念はまったく無意味であるということではないでしょうか」

『そのとおり。今が11時6分だろうが、今から2時間後が23時46分だろうが関係ないんだよ!!』


「確かににわかりますが……、しかしそれではいささか飛躍しすぎているように感じます」

『そうか……。ところで君の家は仏教かね?』

「え?あっ、はい。そうですが……」

『それでは輪廻転生を信じているかね?』

「科学的には信用できませんが、おそらく、私の意識のどこかでは信じていると思います」

『そうか……。では君の時間を戻してやろう。そして時間を初めから考えて来てくれないか』

そう言い終わると男は懐から拳銃を取り出し、女の頭、胸、腹に2発、合計4発を撃ち込んだ。

『すまない……しかし、こうしなければ結果が出ないのだよ…………』




女は床に倒れた男をみながらそんな独り言をしゃべり続けていた。自分の犯してしまった過ちをもういちど初めから回想するように……。