次のようなニュースが目に入ってきた。

 

クマのためにドングリ増やせ

「山を元に戻すのは人間の仕事」ベテラン猟師の取り組み

(テレビ朝日系)

https://news.yahoo.co.jp/.../c2348375c233d7a3f8822d5f34a3...

 

このような取り組みを行う人々は、間違いなく心優しい方々である。

また、数百年前まで広葉樹林であった山が、スギ・ヒノキの人工林へと転換され、熊の生息環境を部分的に圧迫してきたことも事実であろう。

 

しかし、森林が深刻に破壊されていた時代は、木材を主要な燃料として利用していた明治期から昭和30年頃までである。

それ以降、山林は経済的価値を失い、利用されることなく放置されてきた。その結果、自然はむしろ大きく回復している。過疎化が進んだ山間部の集落は、時間をかけて再び森へと還りつつあるのが現状だ。

 

近年の熊の里地・市街地への出没は、「生息域が破壊されたから」では説明できない。

むしろ、回復した自然環境の中で、長年狩猟圧を受けることなく個体数を増やしてきた熊が、奥山の生息域内で過密化し、その結果として周縁部へ押し出されていると考える方が整合的である。

 

今年はブナの実やドングリが凶作であり、それが出没の原因だという指摘も多い。これも一部では正しい。しかし、長期的な視点を欠いた説明である。

 

林野庁のデータによれば、過去30年(1996~2025年)における東北地方のブナ結実状況は以下の通りである。

 

豊作:2回

並作:5回

凶作:9回

大凶作:14回

https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/buna.html

 

凶作・大凶作は合わせて23回であり、むしろこちらが通常状態であることが分かる。

これまで熊は、こうした凶作・大凶作を何度も乗り越えてきた。それにもかかわらず、里や市街地への大量出没は稀であった。

 

しかし、一昨年から今年にかけて、その状況は明らかに異常である。

秋田県では、2020年時点で県内の熊の推定生息数を約2,800~6,000頭(中央値約4,400頭)としている。

出典↓

https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/85123...

 

一方、2023年には2,334頭が捕獲・駆除されている。中央値を基準にすれば、1年で半数以上が捕獲された計算になる。

出典↓

https://www.pref.akita.lg.jp/.../06%2BR6%2B%E4%BB%A4%E5...

 

ツキノワグマは出産数が少なく(大雑把に言えば1年ごとに2頭)、幼獣の生存率も高いとは言えない生物である。

仮にこの数字が正確であれば、個体群は急速に縮小していくはずだ。しかし、現実にはその逆の現象――大量出没――が起きている。

 

この矛盾は、熊の推定個体数が過小評価されている可能性を強く示唆する。

実数は不明であるが、仮に1万頭規模であったとしても不思議ではない。

 

以上を踏まえると、次の解釈がもっとも整合的である。

 

①熊の個体数は増加している

②その背景には、過疎化による自然回復、狩猟者の減少、過去の保護政策がある

③その結果、人を恐れない個体が増え、弱い個体(とくに親子)が人里へ押し出されている

 

熊との共存を訴える声は多い。私もそれに同意する。絶滅させるべきだという主張には与しない。これは生態系の複雑性を無視した暴論である。

 

ただ、熊は生態系の頂点に位置する大型捕食者であり、人間も潜在的な捕食対象である。これまで深刻な関係にならなかったのは、人間が銃によって圧倒的優位を保ってきたからに過ぎない。

 

したがって、「共存」とは、緊張を孕んだ敵対的共存関係である。一定の淘汰圧をかけ続け、人間を危険な存在として認識させ、個体数を管理し続けることこそが、現実的な共存の条件である。

 

少子高齢化、地方衰退、財政悪化の時代に、それをどのように実現するか。私にも明確な解はない。

ただし、少なくとも以上の現状認識を共有することが、事態を好転させる前提になるだろう。