なんとも!お恥ずかしい話を披露するわけなのです。

馬鹿みたいで、他人事かもしれないけど、ちょっとした事で大変なことになるって

思ってもらえたら嬉しいです。

 

今回学んだ事

 

1)危険を感じたら、考えられる内で最も安全な選択をする。

2)山ではちょっとしたミスが即夜間行動になる。

3)吹雪の夜間行動は強力なライトでも足元しか見えない。

4)下りルートを間違うと全く違うところに行ってしまう。

5)山中で右、左を指示する時に、上からか下からかで向きが逆になる。
6)予備のカイロとバッテリーは必ず持参する。

7)冷えて電源が落ちたら、焦らず温める。

8)カイロの入る携帯ケースは低温時に有効。

9)安物のトランシーバーは低温に弱い。

 

ある日の千尺高地


<千尺高地>

場所は半日でも時間があれば行ける”千尺高地”。

時間があれば来ている馴染みの場所です。

滑走距離は短いけれど、上質の雪が積もってます。

一般的には、ここを素通りして無意根山に行く山屋さんの方が多いかもしれません。

 

千尺高地で遭難仕掛けたと言うと、聞いた人は頭を傾げるかもしれません。

低山で、難しい山ではなくても、ちょっとしたことで危険に陥る事があるのです。

自分たちの中では「24事件」と呼んでいます。

 

<シーズン遅めの降雪は大雪だった>

2019年12月24日のクリスマス

シーズン初めは雪が少なく心配していたのですが、やっと大量の雪が降りました。

そしてここ千尺高地に、今シーズン初めて訪れました。

誰もいない駐車場に5時30分に到着。

スプリットボードを履いていてもラッセルで膝上まで埋もれる雪の量で山頂に着くまで通常2時間のところ5時間もかかりました。

 

10時30分に滑走地点に到着し、雪に埋もれながら滑走準備。

板を脱ぐと腰胸まで埋まってしまいます。

シーズン初めで地形が埋まっていない上、あまりにも雪が多いのでスピードも出ませんでしたが、久しぶりのパウダーに全身埋れながら滑走を楽しみました。

短く2本滑って13時30分。

 

<仲間の姿が見えない>

上りに5時間かかった事を考えて、早めに下山する事にしました。

そして、最後の1本。

雪崩の心配もないので、先頭を見失う事の方が危険と考え、自分が滑ると同時についてくる様にメンバーに伝えました。

(地点A)

パウダーを飛ばしながら快感に酔いしれ滑っていたのですが、何やらついて来ていない感じがしたので、標高差150mほど滑ったところで一旦停止して振り返ると、やはり姿が見えない。

トランシーバーで連絡すると、ルートを見失ったとの事。

「トラックが2本ありどちらに行ったか分からない。」

そこで、左に滑れと伝えました。

ところが、自分は上から見て左のつもりだったが、下から見て左と勘違いして間違った方に滑って行ってしまいました。

そうとは知らない自分は、いつまで経っても姿が見えないので何してるんだろうと不思議に思っていました。

トランシーバで連絡してやっと状態がわかりました。

動かず、その場で待つ様に伝えたところで、トランシーバーの電源が落ちました。

リーダー(地点B)

メンバー(地点C)

当日の行動

  

天候の良い日の千尺高地

                      

<捜索開始>

降雪時は雪が音を吸収するため山は静かだ。

ウエアの擦れる音と、自分の息遣いしか聞こえない。

笛を取り出し、思いっきり吹く。

そのあとは静寂が訪れる。

もう一度吹く、また静寂が訪れる。

音がしないのは不思議なもので、録音スタジオの無音室にいる様な、宇宙空間に一人放り出された様な感覚でした。

と、微かに笛の音が返って来た。

これなら位置が確認できそうだと、ちょっと安心。

胸まで埋まる雪の中でシールを板に装着し、登坂開始。

雪に埋まりながらのラッセルは一歩が重い。

雪の壁に板の先端を突き刺し蹴り上げても板の先端が雪の上に出ない。

踏みつけるとまた腰まで埋まっている。

予想以上に深い雪でなかなか進まず、合流に要した時間が1時間半。(地点C)

なぜ見失ったか聞いてみると、スタートした時にゴーグルが曇っていたとの事。

この時、15時30分。

もう30分もすれば陽が落ちてくる。
この時、夜間行動を覚悟しました。

 

<夜間行動は別の山>

新たなルートを滑って戻るには危険と考え、時間がかかってもいいので安全側の選択である

登ってきたルートを歩いて戻る事とした。

稜線に出た頃には日もすっかり暮れてヘッドライトを取り出す。

残っているはずの上りのトレースは風にさらされ雪にうもれて所々しか見えない。

時間がかかりそうなので、電源容量は予備のバッテリーがあるとはいえ心配だ。

少しでも、節約するためにGPSで現在位置を確認し、コンパスを頼りに歩くを繰り返した。

吹雪いているのでヘッドライトの光が雪に反射して遠くを見る事ができない。
見えるのは足元と、近くの立木だけ。

昼間は見慣れた地形でも、全く別の山にいる様な気分だ。

GPSも2、3歩歩いたくらいでは反応しないので、行き過ぎて初めて間違いに気づく。

足元しか見えない中、行ったり来たりしながら少しずつ下って行った。

そんな中でも、時々上りのトレースを発見しては安堵した。

行ったり来たりしている様子が分かる

 

<先人の教え>

一月前に北大にて、ノマド宮下社長の講演会を聞きに行っていた。

北大が主催し、冬山シーズンを迎えるにあたり、学生に注意喚起をさせるための講演であったが、一般の人も聞くことができた。

いろいろ危ない経験をされた話が面白く勉強になった。

中でも特に心に残っていたのは三つ。
1)こまめに食べないと低体温症になる。

2)旭岳の石室避難小屋から下山する際に視界が無く同じところをグルグル回っていた。
3)冷えるとスマホのGPSの電源が落ちる話

まさか、自分が同じ様な状況になるとは思っていなかったけど、講演の内容を思い出しながら、急いで下りたい気持ちを抑えて、食糧だけはこまめに摂っていた。

 

<iPhoneの電源が落ちた>

メンバーのiPhoneの電源はお昼頃には早々と落ちていた。

昨年の「31事件」でiPhoneの電源が落ちたのを機に、自分のiPhoneはカイロを内蔵できる自作の携帯ケースを使っている。

マイナス15度の低温の中朝から12時間、夜間行動になって2時間経っていた。

なんとか半分くらい下山していただろうか。
予想していた事だけれど、とうとう自分のiPhoneの電源も落ちてしまった。

ここで焦ってはいけない。

「冷静に冷静に・・・」と心に言い聞かせ、思いついたのは三つ!!

1)電源を使い果たした。

2)カイロの発熱が終了した。

3)カイロが外気温に負けたか。

暗闇の中ヘッドライトで照らしながら、新しいカイロに交換し、充電器を差込み、体に近いポケットに押し込んだ。

マイナス15度の吹雪の中、時間を決めて10分くらいだったか、場所を動かずiPhoneの回復を待った。

体が冷えるので、その場でジャンプしたり腕を振り回したりして、体を動かして体温が下がるのを防いだ。

長い長い10分が経ち、iPhoneの電源が回復し、一安心。

それ以降、電源が落ちる事はなかった。

 

<友人の教訓>

昨シーズン、友人から遭難しそうになった話を聞いていた。

下山時に尾根を間違えて、戻ることもできず、3時間藪漕ぎして日没直前になんとか道路にたどり着いた話だ。

その時、バッテリーが無く、GPSアプリがなく、ヘッドライトも持っていなかった。

この事を自分の事のように思い、忘れないように心に刻んでいた。

 

千尺高地は低山ながら地形は複雑で、下りで尾根が分岐しているので、間違わないように慎重に下っていく。

体力にも、電源にも限界があるので、ルート間違いだけは絶対に避けたかった。
その時冷静でいられたのは、その友人のおかげだと思っている。

 

<無事帰還>

複雑な地形を無事クリアして、林道に出ることが出来た、後はそのまま道なりに歩くだけだ。

20時00分駐車場に到着。

 

暗闇の中1台だけ、愛車が待っていてくれた。

いつもより頼もしく感じる。

無造作に道具を荷台に放り込んだ。

エンジンの音がなぜか心を落ち着かせた。

マイナス15度、全工程14時間。

 

<一人反省会>

1)危険を感じたら、考えられるうちで最も安全な選択をする。

この日も合流した後、登り返さずにそのまま降りる選択もあっただろう。

しかし、シーズン初めで状況が判らない、おそらく誰も入っていないルートに夜間行くのにはリスクがある、それならば通って来た道を帰る方が確実と考えました。

リスクにもいろいろありますが、「利益を得る時に、少ない確率でも致命的な要素が含まれている場合、これを選択する事はできない。」このような考え方を思い出します。

(このリスクの考え方に興味のある方は「ブラックスワン」という本をお勧めします。)

 

2)山ではちょっとした失敗が即夜間行動になる。

今回は、ゴーグルが曇ったという事が原因なのですが、こんな事はゲレンデではよくある事ですよね。でも山の中では大変なことになります。
滑り出す前に確認しておけばよかったのに、その手間を惜しんだために、先行を見失ってしまいました。
それが原因で夜間行動になり遭難しかけたのですから。
本当に、ちょっとした事なのにね。

 

3)吹雪の夜間行動は、強力なライトでも足元しか見えない。

昼間見慣れた地形でも、見えなければ意味がありません、初めての場所に感じます。

遠くを見ようとしても、ライトの光が降雪に反射して正面が見えません。

そんな時は仕方なく足元を照らして歩くしかないのです。
焦らないで、確実に歩きましょう。

 

4)下りルートを間違うと全く違うところに行ってしまう。

「迷ったら、登って尾根に出ろ」よく言われてる事ですよね。

登っていくと、複数あった尾根が合流していき、最後は一つになりますから。

逆に、降るときは尾根が分岐していくので、行き着く先は全部バラバラです。

 

5)山中で右、左を指示する時に、上からか下からかで向きが逆になる。

上から見て右左とか、下から見て右左とか、上から・下からを区別する事が必要です。

よく使うのが。

上から見たときはスキーが滑る方向なので、スキーヤーズライト、スキーヤーズレフト。

下から見たときは登る方向なので、クライマーズライト、クライマーズレフト。

ちなみに・・・

スキーヤーズライトとクライマーズレフトが同じ、

クライマーズライトとスキーヤーズレフトが同じ側になります。

これも、自分が知っているだけでは意味がありません。

チームの一人一人がこの意味を理解していないと伝わりません。

 

6)予備のバッテリーは必ず持参する。

GPSを頼りに行動していると、ただでさえGPSは電気を食うのに、液晶画面の消費が追加されます。行動が夜間に及ぶとバッテリーが持ちません。必ず持参して下さい。

18650電池を使用したものがおすすめです、電圧が高く持続力もあります。
ヘッドライトも18650電池のものを使えば、電池がそのまま共用出来るのでなお良いです。

 

7)冷えて電源が落ちたら、焦らず温めて回復を待つ。

出しっぱなしの夜間行動になると本体の温度低下は避けられません。

電源が落ちても焦らず、カイロを交換し冷え切った本体を温めれば早く回復します。

もちろん、体に近い場所にあるポケットに入れてくださいね。

 

8)カイロの入る携帯ケースは非常時に実用的。

携帯に接着式のカイロを使い方が多いですよね。

たまに取り出して写真を撮るだけならこれで十分かも。

でも、GPSを使った長時間行動、しかもGPSを見ながら歩かねければいけなくなった時には

スマホ本体が出しっぱなしになりますから、カイロ自体が外気に触れ、一気に冷え切ってしまいます。なのでカイロ自体を保温する必要があるのです。

自作のカイロの入る携帯ケースを2シーズン使ってますが、通常は電源が落ちる事がありませんでした。今回一度電源が落ちましたが、カイロを変えるタイミングとバッテリー接続をきちんとすれば使い続けられたでしょう。

カイロにも発熱時間の限界があり、時間と共に温度が下がって来ます。

早めに、新しいカイロに交換する事をお勧めします。

また、大体のカイロは接着式のものより、接着なしの方が内容量が多く、長時間発熱すると書いてあります。

そしてPlusやMaxは大きなカイロも使えるのでより安全です。

自分は6Plusを使っていますが、画面の大きいモデルの方が電池も大きく、スッペック値よりも駆動時間がさらに長く感じられます。

なので冬山をやられる方はこの意味でもPlusやMaxなどの画面の大きなモデルをお勧めします。

 

今回は6Plusと接着なしのカイロ、そしてこれを収納する携帯ケースが有効でした。

試作品のカイロ内蔵スマホケース(注:特許取得済み)

 

9)安物のトランシーバーは低温に弱い。

2つで束売りしているモトローラの製品はサヨナラしました。

低温の環境で使い続けられなければ意味ありません。

そこで、STANDARD(八重洲無線)VDX-30を購入しました。

デジタル簡易無線局、5W、マイナス10まで使用可能

これに、有線のスピーカーホンを組み合わせて、本体はザックに入れたまま使うことにしました。

デジタル簡易無線局は試験が無く、登録と電波使用料の支払いで使用できます。
登録料は包括申請(複数台登録する場合)で2,300円、電波使用量450円/年だったと思いますが、事前にご確認願います。

https://www.soumu.go.jp/soutsu/hokkaido/E/cr/dwn10.htm