こちらの記事の続きです。

日銀、生産・輸出を下方修正

総裁「景気拡大メカニズムは変化なし」

 

[東京 15日 ロイター] - 日銀は、14─15日に開いた金融政策決定会合で、現行の金融政策維持を決めた。生産や輸出、海外経済の判断を下方修正するなど、海外経済を起点とした不透明感は高まっているが、黒田東彦総裁は「景気拡大の基本メカニズムに変化は生じていない」と述べ、現行の金融緩和政策を継続することで物価安定目標2%達成を目指す姿勢を改めて示した。

 

https://jp.reuters.com/article/boj-mpc-idJPKCN1QW1A3

 

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「デフレは貨幣現象」

なぜこんなあきらかに間違っていることを信じてしまったんでしょうね。

物価はカネとモノの量で決まる。

需給は関係ない。

お金さえ配ればみんなあるだけ使う。誰も貯金なんてしない男前江戸っ子理論。

お店に入れば食べきれるかどうかに関係なく、財布がカラになるまで注文する。

アホですね笑

アマゾンのジェフ・ベゾスさんは13兆円くらい持ってますが、生活費は1000万円くらいだと言われています。

いくらお金があっても貯金するだけ。

必要のないものは買いません。

 

常識的な感覚さえ持っていれば、誰もが「おかしい」と感じるはずですが、リフレ派には「教科書に書いてあること=正しいこと」という刷り込みがあったんでしょう。それにしてもお粗末です。

 

貨幣数量説を唱えたフリードマンは大恐慌の時代の人でした。

目の間で市場がクラッシュし、破産する人が相次ぎ、人々は金策に追われ、銀行からカネを引き出しました。

強烈な信用収縮によるデフレ。

フリードマンはそれを見て、信用貨幣が減ったからカネの価値が上がったんだ。眼の前のモノの量は変わらないのに、カネの量が減ったからデフレになったのだと考えました。

 

完全な勘違いです。

 

仮に大恐慌のときに、潤沢な資金を投入していたらどうなっていたのか?

やはりデフレになったと思います。

 

そもそもなぜ大恐慌が起きたのか?

第一次大戦が終わり、帰還兵がそれぞれの国に戻りました。

ヨーロッパは焼け野原で、生産能力がありません。

戦火を免れたアメリカが、ヨーロッパの分まで生産することになったのです。

アメリカでは内陸部まで開発が進み、綿花や小麦を大量に生産しました。それを運ぶため鉄道が敷かれ、モータリゼーションが開花しました。

農地ブームが起き、農民は無理をして借金をして農地を買い、大忙しで生産を行いました。

 

しかしいつまでもそれは続きません。

ヨーロッパだって復興し、生産能力が戻ってきます。

ヨーロッパの分まで生産した綿花も小麦も、それを運ぶための自動車も、いらなくなってしまいます。

そして1929年10月24日、ゼネラルモータース社の株価が下落したのを皮切りに、大恐慌は始まりました。

 

大恐慌はヨーロッパ復興で需給バランスが大きく崩れ、供給過剰になったことによって引き起こされたのです。

ではあの時、中央銀行が強力な資金供給を行っていたらどうなっていたのか?

農民は借金の返済を猶予してもらい、農地を手放さずに済む。無制限で資金を供給してもらい、農園運営はこれまで通り続けられる。そうなったら?

 

でも、目の前で余っている大量の小麦や綿花は、誰も買ってくれません。

今までどおり生産を続ければ、いままでどおり余るだけです。

人は必要のないものは買わないのです。

 

フリードマンさんはあの時もっと資金を供給していれば、誰も農地を手放さずに済み、みんな幸せになったのにと思ったかもしれませんが、おそらくそうはなりません。

インフレ・デフレとは、あくまで需給なのです。

 

需給バランスが崩れている限り、いくらお金を用意してもそれは改善しません。

お金がないことが原因で買い控えているなら別ですが、ものが大量に余っているのが原因であれば、需給バランスが改善するまでデフレは治りません。

 

そして日本の場合、生産設備がそのままで、人口のほうが減っていく。

この構造である限り、デフレはずっと治りません。

インフレにしたければ、人口を増やすしかないのです。

インフレ・デフレは人口現象とも言えます。

 

リフレ派学者にそそのかされた安倍首相が「デフレは貨幣現象」と言い放ったその日、記者からは「デフレは人口減少社会の構造問題なんじゃないの?」という質問が出ていましたね。

学者は貨幣現象だと言い、巷の素人は人口現象だと言う。

結果は考え方も含めて、巷の素人の方が正しかった。

経済学とはこのレベルです。

 

 

人間社会の基本メカニズム

冒頭の記事で黒田総裁は「景気拡大の基本メカニズムに変化は生じていない」とおっしゃっていましたが、もっと基本的なところに関する洞察が、経済学にはありません。

経済は様々なものが複雑に絡み合いますが、要素は有限です。

有限な要素がどのようになっているのか、一から考えたほうがいいと思います。

 

人間はDNAに頼らず、技術で自然を克服しながら生きている唯一の生き物です。

もともと熱帯性の猿だった人間は体毛を獲得するまで熱帯雨林から出られなかったはずですが、衣服を発明することにより体毛を獲得することなく熱帯雨林から出ました。

だから人間は衣服がなければ生きていけません。

生活圏で冬に裸になったら凍死してしまうような生き物は、人間だけです。

 

病気になったら、抗生物質を飲みます。抗生物質が戦ってくれるのでDNAはあまり鍛えられてません。

きれいに管理された食べ物を食べ、体の中は無菌状態。あまりに暇なので抗体はやることがなく、小麦でさえ異物と勘違いして攻撃してしまう場合もあります。

 

自然に対してこういう対応方法を取るのがいいことなのかどうかはともかく、人間はこういった発明品がなくては生きていけない存在なのです。

 

そうやって服を作り部屋を作り自動車を作り薬を作り、身の回りのあらゆるものを作って、人間は自然を制圧し、世界中を人間の建造物で埋め尽くしてしまいました。

このような圧倒的な力を持っているのは、人間だけです。

経済とはこのような人間の営みを研究するもののはずです。

 

貨幣数量説には、面白いことに人間が出てきません。

モノとカネの量だけでインフレ・デフレが決まり、人間がどのくらい需要しているかは関係ないというのです。

圧倒的な力を有する人間ですが、必要のないものは作りませんし、買いません。

人間の出てこないこの説は、はじめから間違っていると思います。

 

話が逸れましたが、人間は技術を使い、社会のインフラを構築します。DNAに仕事をさせない戦略なので、そうしなければ生きていけません。

一方、必要のないものは作りませんし使ってもらえません。

人間は「保有している技術の範囲で」「生活に必要なものを」「必要なときに必要な量だけ生産する」。、

人間社会の基本メカニズムとは、単純に言えばそういう仕組みになっています。

 

 

戦後、社会インフラが壊滅した日本では、生きていくために必要なインフラを再構築する必要に迫られました。

こういう時代はやることがたくさんあったので、いくらでもカネを投入すれば社会が発展するように思えました。

 

現有技術と社会インフラの充実度の差が激しく、今ある技術を使えばあれもできるこれもできる。

そうしていろんなインフラを充実させている間にも、新しい発明発見が生まれ、技術天井も上がっていく。

人間社会の発展は青天井。

だから成長速度はお金の投入量に比例する。

たとえある分野への投資が過剰になったとしても、少し待てば人口が増えて自然に供給過剰は解消される。

何も心配することはない。

昭和の時代はそんなふうに思えたこともありました。

 

しかし天井はあったのです。

 

まずは人口による天井。

人口が減少すれば、過剰投資は永遠に解消されません。

需要するのはあくまで人間です。

AIの時代になり、完全な自律生産に切り替わり、供給側は完全にロボット。人間は働かなくていい。

もしそんな時代が来たとしても、需要側は人間です。

AIだって世界の人口が70億人しかいないのに、100億人分のモノを供給することはないでしょう。

 

そして技術による天井。

現有技術を超えたモノは作れません。

いくらお金を積んでもタイムマシンは作れません。

あたりまえですが。

もし作ろうとすると研究開発に資金を投じ、発明発見を待ち、技術天井が上昇してから、その技術の範囲内で作ることになります。

 

技術天井が上昇してからでないと、いろんなものは作れないのですが、この技術天井の上昇速度は意外と緩慢です。

例えばTFPの成長速度は1980年台には1%後半でしたが、近年は0.5%を割り込んでいます。

 

インフラの積み上げ速度>>技術の発展速度

戦後のインフラの充実度を見て分かる通り、技術天井の上昇速度より、人間が社会インフラを充実させる速度のほうが圧倒的に速かったのです。

 

また、技術や理論があっても、かならず使うとは限りません。

放射線から大量のエネルギーを取り出せるだろうということは19世紀からわかっていました。

リニアモーターカーも、technoteが子供の頃から言葉も理論もありましたが、実現するのはまだ先です。

やはり安価で簡単な技術が優先され、高度な技術でも上乗せの少ないものは後回しにされます。

リニアは東京名古屋間を40分で結びます。のぞみが90分なので移動時間が半分以下になると聞けば確かにすごいのですが、50分早く着いて何ができるのか?

ゆったりお昼が食べられる。その程度です。

 

これをやれば爆発的に世の中が変わる。

そんな上乗せの大きい技術は、それほどもう残っていません。

先進国のインフラは、技術天井に近づきつつあると思います。

だから日本だけでなくアメリカも、近年は成長力の鈍化が指摘されています。

一方社会インフラの遅れている中国は未だに高い成長率を誇っています。

 

「人口の増加」「技術の発展」「社会インフラの充実度」

これらによってその国の成長は決まります。

・社会インフラの未整備な中国は、インフラが充実するまで高い成長を維持する

・インフラが技術天井に近づいたアメリカは、人口増加によって穏やかな成長を続ける

・日本は人口減少と技術の発展速度の戦いになり、おそらく経済縮小・自然利子率はマイナスの世界になっていく

そんなところではないかと思います。

 

ヒト・モノ・カネ・技術・インフラ

経済は複雑系ですが、根幹をなしている要素は有限です。

それらを組み合わせれば、大まかな姿は見えてきます。

 

「カネさえ増やせば何でもできる。人口なんて関係ない」

そうですか。

では一人で100台の車に乗り、一人で100食食べてみてください。

え?極端ですか?

でもお金さえ増やせばインフレになる、実質金利が低下する、投資・消費需要が増えるってそういう理論ですよね?

 

人間の出てこないリフレ理論。それは人間や社会に関する理解の足りない、愚かな考え方だと思います。

 

次回は実際に日本経済がどのようになっているのか?

現状を見ていきたいと思います。

 

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