パウエルFRB議長の発言、市場に「誤解された」-ドイツ銀行
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の28日の発言を受けた米株式市場の熱狂的な反応について、行き過ぎていたとの声が懐疑派から上がっている。
ドイツ銀行とRBCキャピタル・マーケッツはリポートで、金利がこの先あまり大幅に上昇する必要がないことを示唆したFRB議長の発言を、トレーダーは深読みしたと指摘。それよりも、賃金とインフレを抑制するために利上げが必要なことを示すファンダメンタルの経済指標を注視するべきだとした。
米株式市場は29日、懐疑的な見方が広がる中で下落。前日はパウエル議長の発言で金利が低水準にとどまるとの思惑が強まり、米国株は8カ月ぶりの大幅高となっていた。米国の政策金利は中立とされるレンジを「わずかに下回る」水準にあるとの発言は、先月の「中立金利まで長い道のりがある」との発言に比べトーンを和らげたものと市場は受け止めた。だが、投資家は過剰反応した可能性がある。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-11-29/PIYW4H6KLVR701
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
パウエル・プットで市場を救ったという見方もありますが、FRB議長の発言としては不用意であり、失言と言っていい内容だったと思います。
バーナンキ・ショックなんていうのもありましたが、10/3に「中立金利まで長い道のりがある」と言っておきながら、2ヶ月も経たないうちに「現在は中立金利をわずかに下回る」と変わったのでは、市場は何を信じていいのかわからなくなります。
これほど発言のブレるFRB議長は、ちょっと記憶にありません。
FRBは見通しを明確にし、市場に秩序をもたらすフォワード・ガイダンスを伝統的に重視しており、講演の場であっても言質を取られないよう非常に慎重に発言します。
トランプ大統領の圧力なのか、経済の先行きを心配したのかはわかりませんが、仮に方向修正が必要だと考えた場合、もしイエレン議長だったらどんなふうに発言しただろうか?
講演なので観測気球を上げる程度ですが、「利上げペースについては硬直的なものではなく、昨今の経済指標を慎重に判断しながら決定する必要がある」程度に留めるのではないかと思います。
「just below」と言ってしまっては、次の利上げが最後。もしかしたら12月の利上げすら無いのではないかと憶測を呼び、市場は混乱します。
パウエル議長の発言を受けて米株は急騰。3月以来の大きな上昇となりました。
3月というと底をつけて再び天井を目指した時期なので、買い方は勢いづいていますが、それほど楽観視は出来ないと思います。
貿易戦争の成果
今年始めの貿易戦争勃発で、すでに欧州・中国の景気は陰りを見せています。
https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_china_pmi.php
https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_germany_ifo.php
中国・欧州とも年初1月2月にピークを付けたあとは、明らかな下落傾向です。
そして中国・欧州から「買わないよ」と言って仕事を奪った分、アメリカの景況感は持続しています。
https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_usa_macro_ism.php
ISM製造業指数は8月に歴史上最高値を付け、高値付近で揉み合っています。
しかし、「いつまでも」はありません。
中国欧州から仕事を奪った分、アメリカには仕事はありますが、中国欧州から入ってきていた「安くて品質の良いもの」は手に入らなくなり、コストプッシュに見舞われるため、アメリカの企業業績はもうそれほど上がりません。
もともと市場原理で中国欧州製が選ばれていたものを、市場を歪めても良いことばかりではありません。
メリットとデメリットは、いつもゼロサムなのです。
それどころか、貿易戦争をしなかった場合に比べて、アメリカの景気は高水準で頭打ち。
そして攻撃を仕掛けられた中国欧州は景気が下がることになるので、世界全体としてみればマイナス面のほうが大きいです。
そしてそれは遅れてアメリカにも影響してきます。
トランプ大統領のやったことは、世界をパレート効率に近い均衡状態から一段下の均衡状態に引き下げただけであり、世界を破壊しただけのことです。
そしてこの話に金利は無関係です。
FRBの金融政策がどうなろうが、社会を変える力はありません。
株価はどう動くか?
強かったナスダックが緑の下支えラインを割り込み、赤の修正下支えラインを割り込もうとしています。
アップル、アマゾンなど牽引していた株価が軒並み20%を超える下落となったことから、おそらく最高値更新は難しいと思います。
そしてS&P500
すでに赤の修正下支えラインを割り込み、それが逆に抵抗ラインになりつつあります。
景気後退はほぼ確定と言っていい波形をしています。
10/2以降の株価の下落は、貿易戦争と金利上昇の二本柱です。
金利上昇が要因というのは実は誤りなのですが、少なくとも株式市場的にはそう考えています。
そしてパウエル・プットにより、赤の修正下支えライン付近まで戻しました。
ここからどうなるかについては、やはり今晩の米中首脳会談にかかっていると思います。
飯を食って腹を割って話をし、「おお、習近平。お前はいいやつだ。関税をゼロに戻そう」となれば大戻し。S&P500は黒の天井ラインを目指すと思いますが、それでもそれを超えることはないでしょう。
アメリカ経済の全力が黒ラインですから。
そもそも「中国をやっつける」ことがトランプ大統領の目標です。
「やっつける」とは「米中の差の拡大」のことなので、世界の効率が下がろうが知ったことではありません。
貿易戦争をやれば米国も傷つきますが、米中の差は一旦は広がります。
トランプ大統領にとってはそれが正しい戦略なので、関税を取り下げることはないと思います。
「関税撤廃」ならS&P500は黒ライン付近まで上昇。
「とりあえず1月の追加関税発動は延期。4月まで様子を見る。」なら、ふらふらと赤ライン程度まで。
「決裂」なら急落。
関税撤廃が無い前提であれば、売り方優位だと思います。