株、不意打ちの2000億ドル関税に沈む 禁じ手の消費財、米経済に打撃
米中貿易摩擦が和らぐとの淡い期待はあっさり覆された。トランプ米政権が10日公表した、2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に10%の追加関税を課す措置の原案について、株式市場では「不意打ちの印象」と戸惑いの声が広がる。東京市場で中国経済の影響を受けやすい機械株や海運株が売られたのは当然として、今後焦点になりそうなのが米経済への打撃だ。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
アメリカの追加関税が発表されました。今回は対象品目を家電や日用品に広げるとのことで、アメリカの一般消費者にも打撃となります。
ということは、ある程度の駆け込み需要もあるでしょうから、それもあって上海株は切り返しています。
経済には必ずリアクションがあり、思い通りに一方方向にはなかなか進みません。
関税をかければたしかに中国製品は買ってもらえなくなるでしょうが、その分元安ドル高になり、トランプ大統領が意図するようには対中貿易赤字は縮小しないでしょう。
フリートレードの状態で貿易赤字ならばそれは構造問題であり、関税をいくら引き上げても、おそらく貿易赤字のまま均衡状態に達します。
経済はいろいろな力の押し引き。
株価は下抜けそうで下抜けず、上昇トレンドともいい難い、はっきりしない動きが続いています。
それに対して為替は割ときれいな波動をしているので、こちらをもとに少し考えてみたいと思います。
為替はトレンド転換
為替は2015年以降の下落トレンドを、はっきり上抜いてきました。
2000億ドルの追加関税に対して中国が報復しなかったため、貿易バランスが崩れたことが原因と思われます。
中国が報復しないのであれば、中国は対米貿易黒字の減少を受け入れることになる。
そうするとドル高元安に向かい、対米貿易黒字の減少は少し和らぐ。
また、中国が報復しないのであれば、米中貿易戦争は一旦膠着。
トランプ大統領の標的は、次は日本に向かう。
同じロジックで次はドル高円安になると、為替陣は見越しているのでしょう。
technoteはFXはやらないので、為替について知っていることはあまり多くありません。
為替については、株よりもジグザグに動く。
フィボナッチ・幾何平均が有効という、ざっくりとしたイメージです。
これはおそらく、為替が国家間の綱引きだからではないかと思います。
人間の行動量が株価を押し上げ、右肩上がりを続ける株と違って、どちらかの国が為替で一方的に強くなり続けることは、原理的に無理があるからです。
株と違って、為替には必ず、裏から見ている相手がいます。
日経平均20000円を、「1円は0.00005日経平均だな」などと見る人はいませんが、
「1ドル100円だな」と見ている人の裏には、必ず「1円は0.01ドルだな」と見ている人がいます。
このため為替は幾何平均で動きやすいのだと思います。
日本人から見れば、1ドル75円と125円の半値は100円に見えますが、アメリカ人から見るとそうではありません。
1ドル75円=1円0.0133ドル
1ドル125円=1円0.008ドル
1ドル100円=1円0.01ドル
アメリカ人にとっての半値は0.0133と0.008の真ん中の0.01066ドルであって、0.01ドルではありません。
しかし幾何平均を取れば、双方からみて妥当な平均となります。
75円と125円の幾何平均=96.82円=0.010328ドル
0.0133ドルと0.008ドルの幾何平均=0.010323ドル=96.82円
この幾何平均を使ってアベノミクス以降の為替を見ると、比較的きれいに動いていることがわかります。
アベノミクス以降の流れ
日付 | 始値 | 高値 | 安値 | 終値 | 幾何平均 | 出来事 | |
① | 2012/11/13 | 79.46 | 79.61 | 79.21 | 79.37 | 党首討論 | |
② | 2015/06/05 | 124.36 | 125.86 | 124.34 | 125.55 | 黒田シーリング | |
③ | 2016/06/24 | 106.28 | 106.69 | 98.76 | 102.32 | 99.96 | BREXIT |
④ | 2016/12/15 | 117.02 | 118.65 | 117.01 | 118.18 | 111.49 | トランプフィーバー |
⑤ | 2017/09/08 | 108.47 | 108.47 | 107.3 | 107.77 | 108.25 | ロケットマン |
⑥ | 2017/11/06 | 114.05 | 114.69 | 113.7 | 113.7 | 112.83 | トランプ減税固まる |
⑦ | 2018/03/23 | 105.27 | 105.29 | 104.58 | 104.74 | 111.05 | 貿易戦争 |
109.52 | 貿易不均衡? |
①2012/11/14の党首討論で野田首相が2日後の解散を約束。翌日から株為替は高騰。
事実上この日がアベノミクスのスタートとなりました。
為替の起点はこの前日11/13の安値79.21とします。
②2015/6/10黒田日銀総裁が「実質実効レートからみて、これ以上の円安はありそうにない」と発言しました。
アメリカに対する配慮だったとも言われていますが、「何をやるかわからない黒田さん」から、「常識人の黒田さん」へ変わり、為替は6/5の高値125.86をもって動きを止めました。
③2016/6/24の国民投票でイギリスのEU離脱が決まり、市場では驚きを持って捉えられ、ドルは98.76円の安値をつけました。
ここはちょうど①と②の幾何平均付近であり、為替はこの安値から反転しました。
得体の知れない黒田さんに怯えて75円から125円まで上昇したものの、行き過ぎだった。
行き過ぎとはいえ、日本の金融緩和の出口はずっと遅くなるだろう。やっぱり円安だよ。
市場はそう思ったのだと思います。
④2016/11/9のアメリカ大統領選挙で、トランプ大統領が当選しました。この日を境に為替は急進。②と③の幾何平均111.49をブレイクして上値を試しに行くことになりました。ヒラリー大統領が実現していれば、幾何平均を抜くことはなかったかもしれないなと思います。
そして2016/12/15、大風呂敷を広げるトランプ大統領に期待して、為替は118.65の新値をつけます。
この118.65と②の125.86が、今後トレンドラインを形成することになります。
トランプフィーバーの絶頂でした。
⑤しかしその後北朝鮮の挑発に乗り、トランプ大統領と金正恩委員長は罵り合いを繰り広げることになります。
北朝鮮はロケット発射や核実験を繰り返し、日本では連日Jアラートが鳴り響きました。
2017/9/9の建国記念日に金正恩委員長がなにかやるのではないかとの思惑から、前日9/8に為替は107.3円の安値を付けます。
ここは③と④の幾何平均をやや過ぎたあたりであり、北朝鮮とアメリカが戦争に突入すればそのまま更に切り下がっていったと思いますが、建国記念日に何も起きなかったことから為替は反転します。
⑥そしてその後トランプ減税に焦点が移り、2017/11/2に共和党指導部が減税案を提出したことから、トランプ減税の骨子がほぼ固まります。公約より幾分トーンダウンした内容でしたが市場は好感し、11/6に為替は114.69の高値をつけます。
これは④と⑤の幾何平均をやや過ぎたところであり、②と④のトレンドライン上で止まった格好です。
「夢いっぱいのトランプさん」から「現実的なトランプさん」に変貌したところです。
⑦大規模減税が確定したところで、トランプ大統領は次の課題貿易赤字の削減に取り組み始めます。
多くの人が指摘していますが、貿易赤字は構造問題であり、関税で解決できる性質のものではありません。
しかしトランプ大統領は耳を貸さず、公約通り貿易戦争を仕掛けます。
⑤と⑥の幾何平均は幅も小さくすぐに通り過ぎ、三角持ち合いを下放れましたが、次の目標である③と⑥の幾何平均付近で反転します。
特に何か解決したわけではなく、テクニカル的に反転したものと思います。
そして米中貿易戦争が現実のものとなり、報復合戦になりますが、中国はアメリカの2発目のパンチに対して殴り返しませんでした。
アメリカのほうが貿易赤字が遥かに大きいので、関税の殴り合いでは結果が見えているからでしょう。
そして現状では米中の貿易バランスは崩れ、中国の貿易黒字は今後縮小に向かうと思われます。
しかし貿易黒字が縮小したらしたで、今度は元安ドル高に向かうことになります。
そして米中が膠着したら、次の標的は日本。
同じロジックで円安ドル高を予想した市場はドルを買い、為替は②④⑥のトレンドラインを上抜いてきました。
すでに⑦と⑥、⑦と④の幾何平均は上抜いており、次の目標は⑦と②の幾何平均114.73付近ではないかと思いますが、果たしてこれを上抜けるのか?
「3年越しのトレンドラインを上抜いたのだから、2-3年位はあがるだろう」との声も聞こえますが、そうなると黒田シーリングを上抜けることになります。
そんな事がありえるのか?
そもそも今回のドル高は貿易戦争の副産物であり、貿易戦争→日本の自動車などに高関税→日本の貿易黒字縮小→円安要因という流れである以上、必ず輸出企業の売上縮小というファクターが絡んできます。
アメリカの現地工場にシフトしてもいいのですが、人件費の高いアメリカで生産を増やすと、やはり利益は縮小するでしょう。
そうするとリスクオフの円高で相殺されそうにも思えます。
それとも新興国のように通貨安と不景気が共存するようになるのでしょうか?
経済基盤の脆弱な新興国の場合は、景気後退のたびにデフォルトの懸念がつきまといます。
国内に国民を十分に養うための経済基盤がなく、デフォルト懸念で通貨安になれば海外から必要な物資を買うことができず、経済は停滞し行き詰まります。
日本はまだまだ他国にモノを売って生活できるだけのインフラがあるはずですが・・
欧米が量的緩和の出口に向かう中、日本は出口が見えず、おひとりさま量的緩和を続行する気配が濃厚です。
日本が黒田緩和物語の中にいる限りは、①と②の間で推移するのではないかと思いますが、みなさんのお考えはいかがでしょうか?
日経新聞にはこんな記事もあります。