今日は敬老の日なので何か社会保障に関する話題をと思ったのですが、「みんなの介護」というサイトに高橋洋一氏のコラムが寄稿されていたのでご紹介します。

有識者をはじめとする多くの人は、国に騙されている。財政破綻なんて、言っていることはホラー小説と同じ

http://www.minnanokaigo.com/news/special/yoichitakahashi1/


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この方、元大蔵・財務官僚であり内閣府参事官なども歴任されています。
その後ある事件をきっかけに政府中央からは退き、現在はネット上などで財務省批判・日銀批判・日本は財政破綻しない論などを展開し、一部のコアなマニアからは絶賛されていますが、一般的には奇妙なレトリックを駆使するアレな人として認識されているようです。

本稿について詳しくはリンク先を読んでいただくことにして、「日本は財政破綻しない」という部分について、高橋氏は大まかに以下のように説明されています。

高橋先生が考える「破綻」の定義を教えてください。 

高橋「バランスシート(国の貸借対照表)を見て、資産合計よりも負債合計のほうが大きくなったとき」とはっきり言っています。 
今の状態をざっくり言うと、資産1250兆円、国債1350兆円。わずか100兆円の債務超過ですが、徴税権がありますから。 
毎年40兆円の徴税権を資産として査定すると、15倍の600兆円に相当します。

「(日銀等を政府子会社と考えて連結ベースでみた)国のバランスシート」を作ると、100兆円の債務超過であり、高橋氏の基準で言えば「破綻」にあたります。
しかし国には徴税権があり、その徴税権は600兆円の資産に相当すると考えられるため、-100兆円の債務超過ではなく、+500兆円の資産超過と考えることができる。
つまり徴税権があるから日本は破綻しないんだというレトリックです。

これ、どこがおかしいのでしょうか?

まず600兆円とはどういう計算なのか?
高橋氏は毎年40兆円徴税できる権利×15倍=600兆円と説明しています。
この15倍はどこから出てきたのか?
株をやっている人ならピンとくるかもしれませんが、PER15倍とイメージするとわかりやすいです。

企業資産を査定する場合のインカム・アプローチという方法で、毎年40兆円のキャッシュフローを生み出す企業をいくらで買収するのが妥当か? 
600兆円くらいは妥当じゃないか? という計算です。 

もちろん15倍というのは目安にすぎません。
しかし日米とも株式市場のPERを考えるとだいたいPER15倍であれば買収して損はない。 
仮に買収した企業を市場に売り出す時も、そのくらいの価格で売れるだろう 。
そう考えれば600兆円は別におかしな資産査定ではありません。
問題は、40兆円のキャッシュフローを生み出してるという認識は正しいのか?という所です。

そもそも国民が政府にとって毎年40兆円のキャッシュフローを生み出す打ち出の小槌なら、なぜ日本政府の借金が増え続けるのでしょうか? 

実際は「国民→政府のキャッシュフロー」より「政府→国民のキャッシュフロー」が恒常的に大きいため、政府の赤字が膨らんでいるのです。
「国民→政府のキャッシュフロー」=歳入(税収)
「政府→国民のキャッシュフロー」=歳出(行政サービス)
大まかにこうイメージして問題ありません。

政府は徴税という権利も持っていますが、同時に行政サービスの供出という義務を負っています。
徴税権40兆円を資産に加えるなら、それ以上の行政サービス義務を負債に計上しなくてはいけません。
高橋氏のレトリックは歳入40兆円、歳出0円の場合に成立するのであり、明らかな誤りを含んでいます。

もちろん高橋氏のような経歴の方が、このような単純な誤りをするはずがありません。
氏は記事の中で、「もちろん政府が一切の義務を免れるかというとそうでもないから」と触れています。
おそらく氏は、ほかの記事でもそうなのですが、意図的にこのようにミスリードを誘っているように見受けられます。
読者受けを狙っているのかもしれませんが、あまり感心しません。

バランスシートを使った破綻しない論はほかにも見受けられますが、これらは作為的なものも含めてすべて誤りです。
バランスシートはいろいろと連結して作ることができます。
ギリシャもEUから債務減免や支援を受けており、EUと連結してバランスシートを作成すれば破綻しません。
しかしバランスシートが作れるから破綻しないというわけではないのです。

高橋氏の話はそれほど難しい話ではありません。
氏のレトリックの間違っている部分を修正すると、「日本政府は債務超過であり、キャッシュフローもマイナスなので破綻する」という結論に至ります。

「プライマリーバランスは何よりも大事」
財務省もIMFもそう言っていますが、彼らは正しいのです。

そういう話をすると今度は、「政府の無駄遣いをなくせ」という話になりますが、政府の支出で最も大きいものは社会保障であり、他はすべて桁が違うので考慮するまでもありません。
破綻するかしないかは結局、税収と社会保障の話に集約されます。

60歳・・70歳・・80歳と口座残高が増えて行き、死ぬ時が一番金持ちと言われる日本。
一方若い世代は社会保障の負担から結婚や出産に支障をきたし、人口が減り続ける。
この社会保障制度は本当に正しいのか?
敬老の日だからこそ、考えてほしいと思います。

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