前回「マイナス金利の先にあるもの10 - 世代間格差とは?」では、日本は世界一の世代間格差社会であり、これが婚姻適齢世代の家計を圧迫し、人口減少を伴い、さらに世代間格差が広がるという悪循環になっていること。
また、世界3位の個人金融資産を持ちながら将来の負担が莫大であることから、個人金融資産に本当に意味はあるのだろうか?ということを書きました。

高齢者しかお金を持っておらず、高齢者は人生の終わりまで高額の貯蓄を取り崩すことがない。
若い世代はお金がなく晩婚化している。
日本人は本当にお金持ちなのでしょうか?


すべての始まりは年金
昭和34年、先行していた厚生年金に加えて国民年金がスタートし、皆年金制度が始まりました。
当時の国民年金保険料は月額100円でした。
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo-hensen/
そして当時の大卒初任給はおおよそ2万円程度だったようです。
http://www.777money.com/torivia/daisotu_syoninkyu.htm

現在の大卒初任給がほぼ20万円であることを考えれば、10倍に換算すれば大体のイメージがつかめます。
発足当初の国民年金保険料は、今の水準にすると月額1000円程度だったということになります。

発足当初は積立方式でした。
運用益を考慮しない場合、月額100円を40年間積み立てれば48000円になります。
10倍にして現在の水準に直すと48万円ということですね。
せいぜい2-3か月分の生活費しか貯まっていないことになります。
これで積立方式って、いったい何を考えていたのでしょう?


年金は大幅な積み立て不足
大卒初任給に対する国民年金保険料の割合は
発足当初:100円÷20000円=0.5%
現在:16260円÷200000円=8.13%

その差は16倍以上。
発足当初の制度化では、ほとんど年金保険料を払っていないと言っても過言ではありません。
その後急速に保険料は引き上げられますが、狂乱物価などで物価の方も急速に上昇し。
積立不足が解消しないまま現在に至っています。

厚生年金は計算が複雑なので割愛しますが、似たり寄ったりです。
水準をイメージしやすいよう国民年金と初任給を比べていますが、大幅な積み立て不足ということに変わりはありません。

平成21年財政検証結果レポートでは公的年金の積み立て不足が550兆円に上ると試算されています。
厚生労働省のレポートですので、例によって試算は甘いです。
前提となる経済環境や人口動態などが甘く見積もられており、民間のレポートでは既に900兆円近い積立不足であるという試算もあります。

※追記
平成26年財政検証結果レポートが出ていました。
積立不足は710兆円。
前提条件は
  物価上昇率          0.9%
  賃金上昇率(実質<対物価>)  1.0%
  運用利回り(実質<対物価>)  2.2%
  運用利回り(スプレッド<対賃金>)1.2%
という、ちょっとあり得ない設定です。
物価、実質賃金。現実にはいずれもマイナスのはずですが・・?
現実的な試算はおそらく壊滅的なものになるので、もう出せないんでしょうね。

そもそも40年働いた後で20年の老後が待っているなら、単純計算で収入の三分の一は積み立てに回す必要があります。
子供の養育費などがあるので単純な計算はできませんが、現在の8-9%の水準(厚生年金では企業負担も併せて18%水準)でも、まだ積立不足は続いていると言えます。

賦課方式と積立方式
そして積立方式で始まった年金制度は、田中角栄首相の時、なし崩し的に賦課方式へと移行します。

賦課方式とは自分で積み立てたものを自分が受け取るのではなく、高齢世代の年金給付を現役世代の保険料で賄うというシステムです。
後世の世代の積み立て分に手を付けなくては、年金制度が立ち行かなくなった結果です。

国民年金基金はいまだに積み立て方式の看板を下ろしていませんが、事実上賦課方式であることを厚生労働省は認めています。

そしてこの「事実上の移行」ということが話をややこしくしています。
現在の高齢者は、年金は積み立て方式だと思っています。
下の世代の財産に手を付けていることを知っている人は、あまり多くありません。
そして「老後のために積み立てたはずなのに、なぜこんなに年金が少ないんだ。これじゃ生活できない」と不満に思っています。
国会議員が社会保障の削減など言い出せば、選挙で落とされることは目に見えています。

高齢者はニュースなどで少子高齢化や世代間格差の話を聞いても、自分たちの積立不足が原因とは思っていません。
「昭和の時代、日本を発展させてきたのは自分たちだ。その結果として豊かな老後財産と年金がある。金利も高かったし運用益もあるはずだ」と思っています。

しかし確かに高金利の時代もありましたが、ほとんどはインフレによるものです。
以前見た通り実質金利は定位安定しており、狂乱物価の時代はマイナス15%になるときもありました。
運用益は積み立て不足を補えるような大きさではありません。

RI-LONG
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/h06_cz0303.html

もともと2-3か月分しか積み立てられない保険料率だったところから引き上げても、たかが知れています。
現在の高齢者が受け取っている年金は、自分で積み立てたものは1-2年分しかありません。
後は下の世代にツケを回しているのが現状です。



国債と国民資産
現役世代の保険料に手を付けてもまだ積立不足の部分は、国が国債を発行し借金で賄ったりしていますが、それも結局は将来の世代の負担なので同じことです。
そしてこの国の借金と国民の資産の増加には密接な関係があります。

kakei-seifu
http://www.mof.go.jp/zaisei/matome/thinkzaisei18.html

上記は家計金融資産と政府債務の推移です。
ほぼパラレルに動いていることがわかります。

何のことはありません。
増え続ける日本国民の資産の正体は、国の借金なのです。


国債という錬金術
国債でどうして国民の資産が増えるのか、考えてみましょう。
単純化のために、年金保険料を徴収せず、国債を発行して支払うと仮定します。

<1年目>
政府:借金0+現金0=純資産0
国民:現金100万円=純資産100万円
↓国債を100万円発行(貸借)
政府:借金100万円+現金100万円=純資産0
国民:現金0+国債100万円=純資産100万円
↓年金を100万円支給(譲渡)
政府:借金100万円=純資産-100万円
国民:現金100万円+国債100万円=純資産200万円

<2年目>
政府:借金100万円=純資産-100万円
国民:現金100万円+国債100万円=純資産200万円
↓国債を100万円発行(貸借)
政府:借金200万円+現金100万円=純資産-100万円
国民:現金0+国債200万円=純資産200万円
↓年金を100万円支給(譲渡)
政府:借金200万円=純資産-200万円
国民:現金100万円+国債200万円=純資産300万円

あとはこの繰り返しです。
貸借と譲渡を繰り返すことによって、国の借金は増え続け、国民の資産が増え続けることがわかります。
先のグラフがパラレルになっているのも、これが原因です。

国の借金は国民の借金
じゃあ国が借金し続ければ国民の資産が増え続けるから、どんどん借金すればいいじゃないかというと、そういうわけにはいきません。
インターネット上には「国債は国の借金だから国民の借金じゃない!それどころか国債は国民の資産だ!」などという主張も出てきますが、この類の話は全て詐話です。

国は国民の税金で運営しています。
国の財布は国民の財布と同じ。完全に連動しています。
年金という行政サービスを前倒しで受け取りながら、後の支払いは嫌だと言っても仕方ありません。
クレジットカードでモノを買うようなものです。
支払いが来月になったり下の世代になったりしますが、あとで必ず請求が来ます。
国の借金は、一円残らず国民の借金です。

よく右のポケットと左のポケットという話が出てきますが、自分の右のポケットに現金を入れ、左のポケットに借用書を書かせて、現金を左のポケットに移します。
右左これを繰り返すと、どんどん借用書が溜まり、資産が増えたように見えますが、これは意味がありません。
借金も同額貯まっていくので、真正な資産とは言えません。
貸し手と借り手が同一視される間柄においては、貸借による錬金術は成立しないのです。

あれ?でも老人は使い切れないお金を持ってるんだよね?
それは下の世代に相続されていくんだから、問題ないんじゃないの?
それに今、日銀が国債を買ってるよね?それって最後はどうなるの?
いろいろな疑問がわいてきます。

次回は国の借金に関する疑問点や、財政の維持可能性などについて考えてみたいと思います。

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