technote投資ダイアリー-euro


一昨日の金曜日、ドイツの株価指数DAXがついに9000ポイントに到達しました。

まずはチャートをご覧ください。


technote投資ダイアリー-DAX


1990年以降のDAXのチャートです。

右肩上がりには違いありませんが、アップダウンが激しいですね。

なんとなくボックスのようにも見えます。


次はDAXとNYダウの比較チャートです。


technote投資ダイアリー-DAX-DOW

青がDAX、赤がNYダウです。

やはりDAXの方が格段にボラティ.リティが高いですね。


このアップダウンの激しさは、欧州統一通貨ユーロの導入と関係があるのではないかと思っています。



ユーロ導入の歴史


欧州における統一通貨導入の歴史は古く、遡ると関税同盟の結成やブレトンウッズ体制の崩壊などに起源があるようです。

まああまりに古い話は置いておいて、実務的な面で言うと1979年に欧州通貨制度EMSが導入され、欧州通貨単位ECUによって実験的に通貨統合の試みがスタートしました。

その後紆余曲折を経て、段階的にユーロが導入されていきました。


1990年 加盟国の資本移動が自由化

1995年 名称がユーロに決定

1999年 欧州中央銀行ECB創設 ユーロによる電子決済開始

2002年 ユーロ通貨、紙幣が流通開始


これらのイベントをDAXのチャートに書き込むと以下のようになります。


technote投資ダイアリー-DAX-EURO


さて、通貨が統合されると、欧州各国にはどのような影響があるのでしょうか?



ユーロ体制の諸問題


欧州各国で統一通貨ユーロを導入します。

するとどうなるか?


通貨は統一したものの、加盟各国は独立した国家であり、それぞれに経済事情も違います。

各国で企業インフラも社会インフラもまちまちであり、経済的強者と弱者が存在しますが、それらの国が同じ通貨を使うことになるのです。


ユーロの強さは加盟各国の経済力の平均値となり、強者ドイツは自国の経済力に比して割安な通貨を使うことができ、弱者ギリシャは割高な通貨を使うことになります。


仮にドイツとギリシャで自動車を作るとどうなるか?

企業インフラが整っており、技術も高いドイツではのべ100人が携わって車を作り上げることができます。

それらがないギリシャで同じ自動車を作るとなると、のべ200人を投入しないと作ることができません。


ドイツでは労働者に日給100ユーロ払って10000ユーロで自動車を作れます。

ギリシャでは200人で車を作っているので、車の値段を20000ユーロにするか、労働者の賃金を50ユーロにするしか選択肢はありません。


ギリシャでは自動車を作っていないし、労働賃金だけの問題ではないのですが、大雑把に言うとこのような仕組みになっています。


こうして「同じ買うならドイツ製」「ギリシャ製は高かろう悪かろう」という結果となります。

こういう状況を調整するのが変動為替であり、経済的に弱い国は為替が切り下がることにより「安かろう悪かろう」の商品を生産し、それを海外に供給して職を得ることが可能になるのですが、通貨が固定されているギリシャにはそれができないのです。


こうして職を失った人はどうするか?

どこか日本の地域格差にも似ていますが、あまり職のない地方の人たちは都会に出て職を得るという選択肢があります。

しかしながらユーロ域内では、国境を越えた資本移動は自由化されていますが、人の移動は自由化されていません。

ギリシャの人はユーロ域の他国に自由に出稼ぎに行くことはできないのです。

(できますが、通常の手続きに従って、受け入れ企業からの申請により受け入れ国に労働ビザを発行してもらうことが必要となります。日本人がアメリカで働くのとあまり変わりませんね)


失業者が国内にあふれたギリシャは、職のない国民を職のないまま救うより他はなく、失業者への手当てや公務員として雇用することにより財政赤字が膨らみ続けることになります。

ギリシャの国民性もあるでしょうが、ユーロ体制のゆがみをまともに受けることになっているのがギリシャの現実でもあります。



DAX上昇の背景


掘り下げると長くなるのでユーロ体制の問題についてはまた別の機会に書きたいと思いますが、ユーロ体制はお金の流れを強制する弁のような役割をしており、制度によってお金がドイツに集まる仕組みに成っています。

いろいろな人が指摘していますが、日本の年金や少子高齢化問題と同じように、ユーロ体制は制度的な欠陥を抱えているのだと思います。


話はドイツの株価に戻りますが、DAXの上昇も基本的には世界の株価上昇に歩調を合わせているのですが、NYダウより大きくアップダウンしています。

DAXの大きな上昇は、為替を考慮に入れても説明できるものではありません。

上昇過程でドイツやユーロ域の国際競争力が大きく上昇したわけでもありません。


しかし株価は大きく上昇しており、ドイツに大きな資金が流入したことを示しています。

考えられるのは、欧州域内の格差の拡大です。


つまり、世界経済が好調で欧州域内の経済状態が良好なときは、旺盛な消費により(ギリシャ人がドイツ製品を買うので)欧州下位国からドイツに資金が流れ込みやすく、不況になればそのお金の流れが止まるのでドイツの株価は大きく崩れる。

DAX上昇の源泉は、欧州域内の格差の拡大によるものではないかと思うのです。


ITバブル崩壊、サブプライムショックという事件はありましたが、DAXはもともとユーロ体制により上昇と崩壊を繰り返す運命にあり、特にこれらの事件がなくても崩壊していたのではないか?

そんな風に感じるのです。



テクニカルから見たDAXの株価


ここでDAXの長期推移を見てみましょう。

スタートをどこに求めればいいかわかりませんが、ここでは仮に1995年の通貨呼称ユーロ決定を基点に考えたいと思います。


第一波動 1995.12-2000.2 期間4年3ヶ月 上昇3.39倍

第二波動 2003.3-2007.12 期間4年9ヶ月 上昇3.33倍

第三波動 2009.2-現在  期間4年8ヶ月 上昇2.34倍


DAXが定期的に崩壊を繰り返す運命だとして、時間的にはそろそろ崩壊してもおかしくないところまで来ていますが、上昇率が小さいのでまだ大丈夫という考え方もできます。


また、第一波動の基点をどこに取るかで変わってきますが、1990年あたりに上昇相場が始まっていると見ることもできます。

その場合には第二波動が短いのが気がかりであり、第三波動はさらに短いことが予想され、今月には上昇が終わって大きな下落となる可能性があります。

このパターンになれば、テクニカル的には非常にきれいです。



DAXは崩壊するか?


9000ポイント到達により、テクニカル的には大きな転機となってもおかしくありませんが、情勢的にはまだのような気がします。

現状、何も引き金となるような事件は起こっていません。

まったくの無風であり、むしろ日米金融緩和の恩恵を受けそうです。


しかしながらこれ以上の株価上昇も考えにくいです。

ユーロ体制により定期的に崩壊を繰り返す運命ならば、DAXのこれ以上の上昇はありえません。

2000年の頂点と2007年の頂点を結ぶ線より、大きく上にはみ出してしまうからです。

経済成長だけでは説明が付かず、為替からも説明がつきません。

下位国からの搾取は限界に来ており、自然な状態であれば崩壊してしまう水準です。


もしこれ以上上昇するなら、理屈としてひとつ考えられるのは、金融緩和の行き過ぎで「自然な状態」を通り越してしまうことです。


◆ギリシャの債務残高
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◆ギリシャの失業率
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昨年来ほとんど聞かなくなったギリシャですが、2013年も着々と財政は悪化しているようです。失業率も高止まりしています。


聞かなくなったのは昨年9月、"ドラギマジック"によりECBが3年以内の欧州域内の国債の無制限買取を発表してからです。

これによりギリシャは一息つき、最新のニュースでは2014年の失業率は26%に低下し、プライマリーバランスも黒字化に成功しているようです。


しかしながらGDP比180%近い政府債務を、国民の労働による税収で返済するのは非現実的です。


ユーロ通貨を持っているため、インフレという手は使えません。

ギリシャで物が高く売れるなら、すぐさま周辺国から物資が集まります。


ユーロ体制が抱える問題はそのままなので、欧州経済が良好に成ればまたギリシャはドイツに吸い取られる運命にあります。


また、欧州各国もいつまでもギリシャに付き合っているわけには行きません。

域内経済が復活し金利が上昇すれば、ギリシャには当然プレミアムの金利が付与されます。

同じユーロ債券なのにリスクの高いギリシャ国債に金利の魅力がなければ、誰も買わないからです。


このような環境の中、ギリシャが債務を返済し続けるのは不可能です。


返済不可能なのにECBは国債を無限に買い取り、ギリシャの名前で借金を重ねさせようというのが昨年9月のドラギマジックです。

このECBの施策により、市場に任せておけば崩壊する運命のDAXが、行き過ぎてしまう可能性があるのではないかと思います。


しかし現実には無限はありません。

ギリシャの政府債務がGDP比200%・・500%・・1000%になっても正気を保てるかというと、それはないと思います。


経済というのはいろいろな意味でゼロサムであり、行き過ぎた傾斜は必ず崩壊します。

ドイツの集金システムも、大きく行き過ぎればその分大きく崩壊します。

もしDAXが現在の水準で止まらなかった場合には、将来的に2008年を超える金融危機につながる可能性もあると思います。


ギリシャは経済規模が小さいですが、本質はそこではなく、ユーロ体制の見直しを迫られるところにあります。

日本国内の地方格差であれば税の再配分機能により東京の税収が実質的に地方に渡されますが、ユーロ体制では親切なドイツがギリシャにお金をくれるということはありません。

しかしそのような譲渡が無いと、ユーロ体制は維持できない仕組みになっているのです。


デフォルトか債権放棄か。どのような形になるかはわかりませんが、実質的にギリシャにお金をあげる以外の解決は不可能です。

過ちは小さいうちに直さなければ、より大きな災いになるのではないか。

そんな気がしています。


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