
まだ20代半ばだった頃。同期の女子と帰りが一緒になり、恋愛中に男女どっちが嘘つきかという話をしながら歩いていた。私は、男に体目当ての嘘を付かれて相談を受けたことも何度かあったので、男の方が嘘つきじゃないかと思う旨を話した。
電車に乗り込むと座席の半分くらいにしか人が埋まっていないくらい空いていたので、並んで座ると、
「でもね、嫌なら体を許さないはずだし、同情を買いたいだけってこともあるわよ」
「そんなことないと思うけど」
「女って、けっこう計算高いわよ」
「そうかなあ」
「んー。よし、じゃあ、ちょっといじめていい?」
「えっ?」
ちょっと訳が分からなくなり、言葉に詰まった。数秒間を置いて
「それってどういうこと?」と話しかけると
「え、何ですか?」と他人行儀に小さめの声。
「え、なに、どうしたの」
「な、なんですか」と少し声が大きくなる。真顔だ。
「いや、だからさ」
「やめてください」と更にクレッシェンド。体も私から遠ざけ、明らかに迷惑そうな様子。
周りのお客さんの視線がこちらに集まっている。やばい。斜め向かいの若い男性は厳しい顔をして、腰を浮かせて待機している。これは完全に周りが彼女にだまされている。こりゃやばいぞ、と思った矢先に二人の乗換駅に到着。
一緒に降りる際に、扉付近で「もう、勘弁して~」と降参。
「えへへっ」
周囲の緊迫感は一気に解けた。
ニヤリとしながら「女ってこういう芝居、簡単にできるのよ」と言って、先に歩いて行った。
第三者からすれば「被害者だ」と思わせるような芝居を見事に演じた。それもオオゴトにならないよう乗換駅で幕引きできるようにまで考えていたのだ。
女性の奥深さを見せつけられたと同時に、まだまだひよっこだと思い知らされた。