TearStone

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「小説家になろう!」の小説を同じく掲載しています。進行としてはサイトのほうが速いと思います。しかしこちらではイラストも同時に掲載していきます。

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 暗闇を駆ける獣がいた。






 アタシの追跡を逃れようと必死で逃げるバカ。

 内心そう呟き、前方に視線を戻す。少し先に黒ずくめの男が走っていた。
 依頼人の家に忍び込み、宝石やらなんやらかんやらちょろまかしていたもののアタシがちょっとばかし驚かすと尻尾を巻いて逃げっていった。
 たぶんアタシの事を知っていたんだろう。まぁ、見ればわかるはずだし。
 男は右へ左へと次々に回り、ついに姿を消してしまった。
 さて、どこに行ったのやら。
 追い込んだはずの袋小路には蟻のこ一匹おらず、行き止まりの壁には盗賊が好んで使う鉤付き縄の後すらない。
 あるとすれば、人一人が入り込めそうな下水道管ぐらいだ。
 しばし考えるように腕を組むと、ゆっくりと水道管に近づいて行った。「こんなとこは入れるわけないかー」とわざとらしく呟き、下水道に背を向けた。
 すぐに奴は反応、下水道から飛び出し、アタシに襲い掛かってきた。
 「バカが」
 男_盗賊は銀のナイフを煌めかせ、アタシの背を狙う。
 が、アタシの攻撃のほうが一足早く男を直撃した。振り返りざまの鉄拳はうまく鳩尾に入り、案外簡単にぶっ飛んだ。
 派手に壁に直撃。悲鳴を上げる暇を与えない一撃だったのに、男は今だに意識を保てている。まぁ、気絶寸前ではあるが。
 めんどくさそうに、一緒に吹っ飛んだナイフを拾い上げた。万年筆に仕込まれている手の凝ったナイフだか、刃に謎の液体が塗られており、闇の中でもてらてらと不気味な光を放っていた。
 「毒か、盗賊の必須アイテムじゃん。だけど」
 突然ナイフから火が噴出した。刃の毒嫌な音と匂い発しながら溶け、燃えていった。
 「全部燃やせば意味無いっしょ~?」
 今度はナイフ自体が溶けていった。文字通りドロドロにだ。刃はとっくに形を成しておらず、ほとんど炭になりかけている。
 だがアタシは熱くもなんともなかった。実際に手は変わらずナイフを握りしめている。
 「ひっ」と男は情けない声を上げる。体が動けないから余計に恐怖心が煽られたのだろう。
 ・・・・・これじゃやる気をなくしてしまう。アタシは強いやつを求めているのに。
 溜息をつくと、男の目の前に座り込んだ。ついさっきまで下水道管に潜り込んでいたからか、男は強烈な悪臭を放っていた。だがアタシにとって下水道の臭いはまだ優しい。それ以上に・・・・・、いや、やめよう。思い出したらなんか気分が悪くなってきた。
 「ね、アンタらのアジトに案内してよ?」
 「嫌だ。」
 男はアタシの誘いに即答した。拒否の答えだ。
 「まぁわかってたけどさ・・・・・・命の保証はするよ?アタシ嘘はつかないタチだし。」
 「アジトを潰した後、俺も一緒に殺す気だろ。」
 意外にも男は前回の全滅戦を知っていたようだ。さすがは盗賊。最強の情報網を引いている。同じパターンに勘付き、怯えから覚悟へと変化している。もう後がないことを理解し、もう決めたみたいだ。
 「死の覚悟、ね。良い心意気だと事。」
 歯軋りする男をよそに、アタシは周囲の気を探った。
 右と左に2つ、後方に3つ。そして前方に1つ、他の奴らとはひと味違う殺気を感じる。
 幹部級の奴かな。まぁなんでもいいんだけど。
 男は衰弱しきっているのか隠しているのか・・・・・・気配に気づいたそぶりをちらとも見せずに、アタシへ罵詈雑言を浴びせている。
 戦闘への欲求で自然に不敵な笑みを浮かべる。全身が疼き出し、心身ともに興奮がアタシを支配してきた。
 ふらっと立ち上がると、漆黒の空を見上げた。曇天空の隙間から星が顔を覗かせている。
 が、アタシが見ていたのは星ではない。
 星の僅かな光に照らされて反射する、奴らの武器。剣の刃や矢の矢尻、槍の穂先が反射され、家屋の上にいるのがバレバレである。
 まぁ奴らは気づいていないんだろうが、な。どんだけアホなんだ、あいつら。
 「おいお前ら!さっさとかかってこい!そこにいんのはもうとっくの前から知ってんだよ!」
 空へ吠える獣。丸腰の獣に襲い掛かる7匹の獣。
 


 彼女は又の名を___紅獅子。